第1話プロローグ ある種族学者の手記
「白龍の子」一話プロローグです
……であるから、ドラゴンについて語るときにこの黒龍は外せないだろう。彼(※ドラゴンに性別は無いが、無性を指す三人称単数系が我々の言葉には存在しないので、この手記では便宜上「彼」と表記する)が我々人間にもたらした被害は想像を絶する。
世界があの凄惨なる世界統一戦争から立ち直ろうとしていた矢先に、その全てを無に帰してしまったのだから。彼がもたらした被害の全貌は実をいうとあまり詳しくはわかっていない、何故なら当時の記録は彼のもたらした破壊と殺戮、その後百年に及ぶ暗黒と混乱の時代によってほとんどが消失してしまったからだ。だが当時の遺跡の規模、現在の世界総人口から逆算して世界の都市の半分、当時の世界総人口の4分1が失われたとされている。未曾有の大災害から数百年経った今でも当時の技術水準にはいまだに追いつけていないのではないかといわれている。悪名高き黒龍であるがそれ故に私の興味は尽きない。何故彼は世界を破壊したのか、もしかしたら理由など無いのかもしれないが我々が彼を理解しなければまた同じことを繰り返すばかりではないだろうか。
彼は未だこの世界のどこかに身を潜めているのだから……
顔に大きな傷のある高名な種族学者の手記