ガヴァネス お嬢様を心配する
うっすら根性の悪いキャラが大好きなので、多分そういうキャラがいっぱい出てきます
「ニア!見てこのお花!」
「ギョエエーッッ!」
屈託のない笑みで危険な毒花を握りしめるマデリンに駆け寄り、ニアはこの世のものとは思えない声を上げる。
突如の絶叫に別にそう驚いてもいない令嬢からその邪悪な植物を細やかな節足でもぎ取り、自身の形相に気が付いたニアはもうだいぶ手遅れな平静を取り戻す。
「き…危険!危険です!これは毒草ですの!」
「あのねニア、これは粘膜から作用するから今の私には特に害はないのよ。大丈夫大丈夫」
「あら博識…最高…お嬢様がまた知識を以って淑女への道に一歩近づきましたのね…私感激にございます」
「うーんこの情緒不安定」
「…まあ、しかし危険ではあるとはいえ学のため様々なものに触れるのは素晴らしいことですわ、これは何かに使いますの?ハーブ?アレンジメント?」
「近所の聖職者の女が欲しがってたやつだから今から届けに行こうかと思ってるの」
「あの女お嬢様にタダ働きを…!」
「でも美味しいクッキーくれたよ」
「なんてこと、カモですの…」
怒りを煮えたぎらせるニアとは裏腹に、マデリンは呑気に唇を尖らせている。
「今から届けに行く予定なんだけど一緒にくる?」
「ええ行きますとも!お嬢様に不当な労働を強いる女に一矢報いなくては」
「ンモー」
「珍しっ」
古ぼけたドアを潜り、遭遇一番に失礼な言動が漏れた。相変わらずの邪悪な女である。ニアの魂がそう告げている。
店内は胡散臭いとしか言いようがない装飾に彩られ、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
奇妙な色の薬草、花、なんらかの骨が散乱するテーブルは店用のものとは言えない有り様で、どちらかというと魔女の道楽の場に見える。
そんな空間の中で立っている女は一見、ひどく不似合いに見えた。
金の髪金の糸、真っ白いローブ。まつ毛が重たくかかる青い瞳。何も知らない人間が見れば聖女と勘違いしそうな佇まいで一人、客の来ない店でくつろいでいる。
「やっほ!草持ってきたよ」
「あらあ、ありがとマデリンちゃん」
「ありがと聖職者の女!」
「もう3年前にクビになったんだってば〜」
だからジーナって呼んでねェ〜。
やけに間延びした言葉遣いだとニアは思った。
「それにしても珍しいね〜、メイドさん連れてきてるなんて」
「ガヴァネスです。お間違えのないように」
「そうだったっけ、あったのが久々だったからなあ、忘れちゃったァ〜」
ジーナ、31歳。半魔族。巷で魔道具店を営む死霊術師である。
教会の専門術師として名を馳せていたが突如転向。死霊術研究者として活動を開始し現在は二人の住居の近くに住んでいる。いわば親愛なるお隣さんであり、お嬢様に色々吹き込むヤバい女だった。
「そうそう、お仕事こなしてマデリンちゃんにはお礼しないとね〜、何約束してたんだっけ?」
「死霊術教えて!」
「オッ…お嬢様!」
「いいねェ〜、遣い手が増えるのは大歓迎だよォ」
「し、死霊術!死霊術ですか…!魔術に貴賤はないでしょうが…!しかし初歩として手を出すにはあまりにもファンキーが過ぎるというか…!」
「でもさ…私が死霊術使えたら今後寂しくならないじゃん?ニアもさ」
「し、しかし…ムム、意外にもノスタルジックな願いですのね…可憐ですわ」
「うそ ほんとは骸骨軍団指揮して最強になりたい」
「しょッ…正直は美徳!」
「良い志だねェ〜」
「ね?いいでしょニア?先っちょだけ!先っちょだけでいいから学ばせて!多分絶対人生の役に立つから〜」
「……全くもう、ちょっとだけですよ、ちょっとだけ!」
「そうやって意思尊重してくれるとこ大好き!なんかあったら私が真っ先にニアをネクロマンシーしてみせるからね!」
「超ウケる〜」
「笑うな」