プロローグ
俺の名前は湊 真守。どこにでもいるごく普通の高校3年生だ。
平凡な毎日を過ごしていた俺だが、最近めちゃくちゃハマっているゲームがある。
VRMMORPG「RAGNAROK」というゲームだ。なんでも何十種類もの種族があり、自分好みのアバターを作成できるものだ。
俺はそのゲームを友達に勧められプレイすることになった。最初はちょっとプレイしたら放置するつもりだった。
しかし、女性アバターがめちゃくちゃ可愛かった。一目惚れというやつだ。
こんなアバターを操作したいと思った俺は男なのに女性アバターを選択した。まぁいわゆるネマカだ。
俺はそのアバターを自分好みの可愛いアバターに仕上げ、名前を「マリナ」にした。種族は友達に勧められたディアボロスを選択した。
自分が女になって動いてるのは最初は少し恥ずかしかったが、それもプレイしているうちに段々感じなくなった。
「マリナさんまた強くなりましたね」
「そうですか?ありがとうございます」
「やっぱりディアボロスってステータスの伸びが良いですよね」
「豆腐さんもディアボロスに転生してみたらどうですか?」
「いやー、僕はスライムでいいですよ。戦闘とか苦手ですし」
「そうですか……ディアボロスも結構楽しいですよ?それじゃあ私はレアアイテムの採取に行ってきますね」
俺はネッ友の豆腐さんに別れを告げてレアアイテムの採取に向かった。
今思えばレアアイテムの採取にさえ行かなければこんなことにはならなかった。
レアアイテムを守護するドラゴンは想像以上に強くて俺の今のステータスでは叶わなかった。
――GameOver――
俺は為す術もなくドラゴンに殺されてしまいゲームオーバー。
復活地点の街の広場に転移される…………はずだった。
「ん……?ようやく復活地点に転移したか……。今回は随分とロードが長かったな」
今回は何故かロードが長かった。こんなことは過去一度もなかった。
目を覚まし、起き上がるとそこは見知らぬ街だった。
「あれ……?こんなとこセーブポイントに設定したっけ?」
見覚えのない街に困惑する俺だったが、とりあえず今日のところはこの辺でログアウトしようと思い、メニュー画面を開くために右手の指を2本そろえて、上から下へ動かすジェスチャーをする。
しかし、何も反応がなかった。
「反応がない……おかしいな」
同じジェスチャーをもう一度する。しかし反応がない。
何度も何度も同じジェスチャーした。しかし反応がない!
「どうなってる!?」
俺の怒声が街に響き渡る。街の住民が揃って俺の方に顔を向ける。中には小声で何かを言っている者も居た。
「あぁ……いや、その。すいません……」
俺はペコペコ頭を下げて謝る。最っ悪だ。何でメニュー画面が出ないんだよ。そう思いながらも俺はとりあえず近くの人にここが何処かを聞くことにした。
「すいません!」
俺は近くにいたメガネをかけた男性に声をかけた。
「さっき大きな声あげてた人?」
「あぁ……いや、確かにそうですが……」
「どうしたんだ?何かとっても困った雰囲気だけど?」
「その……ここの街の名前を教えてもらってもいいですか?」
「なんだ道に迷ったのか?ここはバルハス王国のグルシオンって場所だ」
「嘘でしょ……。ナチス村は? バーウェル街は!? あるんだろ!?」
俺は男性の両肩にしがみつきそう言った。俺の中で段々と焦りが出てきた。
男性は俺の手を振り払って言う。
「残念だがそんな村や街は知らないな」
俺はその言葉に唖然し、姿勢が崩れ四つん這いなる。
「どこから来たか知らないが、あんまし騒いでると王様に怒られるよ」
「嘘だろ……ここはラグナロクっていうゲームの世界じゃないのかよ!?」
「おいおい何言ってるんだよ。ここがゲームの世界な訳ないだろ」
じゃあ何だ……?俺は異世界転移したって訳か?嘘だろそんなこと……。
このときの俺は絶望に満ちていた。
「とにかく立て。俺のやってる酒場で詳しく話を聞いてやるよ」
そう言って男性は俺に手を差し伸べた。
俺は男性の手を握り、立ち上がる。
「何でそんなに優しくしてくれるんだ?今日会ったばっかだぞ」
すると男性は少し嬉しそうな顔で言う。
「俺にもお前くらいの歳の娘が居てな。お前がどこか娘に似てたんだよ」
娘……?俺は彼のその言葉に違和感を感じた。
俺は男だ。娘な訳がねぇ。
そう思いつつ噴水の水に顔を近づけて鏡代わりに自分の顔を水に映した。
そこには俺がゲーム内で使用しているアバターそっくりの顔の女性の顔があった。
うわ~……。なんか俺の作ったアバターの顔に似てるな~……ってこれが俺ぇぇぇ!?
「うそーーーーん!!??」
再び俺の叫びがバルハス王国全体に響き渡る。
俺は異世界転移したうえに男から女へ性転換してしまったようだ。