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第9話 戦闘実習 前編

 かくして、装備一式を整えた私達は雷堂さんと共に、ついに異世界への扉の前へやって来た。

「ここが……」

 扉は見たところ普通で、特に豪華でもなく、質素でもなく、焦げ茶色の木製の扉に金のドアノブがついたものだった。


「さて、心の準備はいいか?」

 雷堂さんがにやりと笑う。

「「はい!」」

「では、出発だ」

 ゆっくりと、少しだけ音をたてて扉が開く。まばゆい光が差し込み、一瞬目を閉じた。

 次の瞬間、目の前に広がったのは草原。

 短い草が風に揺れ、まるで波立つ海の水面のように見える。


「うわーー!!」

「綺麗だねー」


「どうだ? 俺も初めて見たときは感動したもんだ」

「凄いです、やった! 異世界に来たんだ!」

 興奮してフーッフーッと鼻息が荒くなる。


「ま、ここは入り口みたいなもんだ。だが、異世界には間違いない。まずは、二人におめでとうと言っておこう」

 雷堂さんはふふふと笑ったあと、真剣な表情に変わった。辺りにぴりっとした空気が流れる。

「よし、これより簡易戦闘実習を行う!」

「はいっ!」

 私とエリナは雷堂さんに向かって敬礼をする。

 雷堂さんは懐からメモを取り出し、

「キメラドッグの退治、これがお前たちの最初の戦闘になる」と言った。


「キメラドッグ……」

「なんか可愛い感じじゃない?」


「ふっ、ドッグといってもかなりデカいからな。油断するなよ?」

「は、はい」

 私は生唾を飲み込む。

 初めての戦闘。夢にまで見た異世界。ついに私は冒険者としての一歩を踏み出したんだ。

 横目でエリナを見る。

 しかも、こんな可愛い友達まで……。あぁ、生きてきて良かった。

「どうしたの?」

「あ、ううん。何でもない、ちょっと感動しちゃって。はは」


 私たちは先頭が雷堂さん、そしてエリナ、最後尾に私という陣形で東に向かった。

 しばらく歩くと、大きな木々が生い茂る森が見えてきた。


「あれが、目的地の『原初の森』だ」

「ほぇ~」

「木が大きいですねぇ……」

 近くまで来ると、その大きさに驚く。樹齢はどのくらいなんだろうか……。

 見上げてもてっぺんが見えない。

 幹回り十メートル近くある巨木が、至る所に乱立していた。


「よし、ここからは気を抜くなよ」

「「はい」」

 キメラドッグか……、一体どんな怪物だろう。

 緊張と不安で少し息苦しくなる。

 剣太に貰った『見習いの鞭』をぎゅっと握りしめ、辺りを警戒しながら森の奥へと進んだ。


「止まれ」

 雷堂さんが手で合図する。

 私とエリナは身を低くし、息を殺した。

「見えるか?」

 雷堂さんが示した先に、虎模様でパンダくらいの獣が、巨木の(うろ)の中で丸くなっているのが見えた。


「やだ、何あれ。可愛くない?」

「う、うん。コロコロして可愛い」

「おいおい、そんなこと言ってられるのも今のうちだぞ?」

「あれが、キメラドッグですか?」

「そうだ。いいか、無理はするな。危ないと思ったらまずは逃げろ、いいな?」

 私とエリナは頷く。


「よし、作戦はこうだ。まず、俺があいつを引きつける。有薗は少し離れた場所からあいつを狙って、隙があれば躊躇なく打て。藤沢は非常時にブラインを使え。わかったか?」

「あ、あの……私は隠れてるだけなんですか?」

「大丈夫、焦るな。パーティに入っていれば経験値は入る。お前はまだ攻撃魔法を覚えてないからな、我慢も大事な訓練だと思え。それに緊急時には一番大事な役割なんだぞ?」

「す、すみません! わかりました!」

 うぅ、自分が情けない。副部長の言うことは正しい。今の私にはキメラドッグを攻撃する術はないのだから。こんな鞭でぺしぺしやったところでダメージは与えられないだろうし。


「あかり、任せといて」エリナが親指を立てる。

「うん、頑張ってね」

「よし、じゃあ始めるぞ!」

 雷堂さんは言うと同時に、一本の木枝をキメラドッグに向けて投げた。

 すぐにキメラドッグが起き上がり、キョロキョロと辺りを警戒する。そして、こちらに気づくと同時に走り出した。

「グガァアアア!」

 やばい、身体は可愛いけど顔がめっちゃ怖い。まるで巨大な狂犬(クレイジー・ドッグ)である。

「ひぃ!」

 私はすぐに木陰に身を潜めた。

 エリナを見ると、雷堂さんの西側に移動しこちらを伺っている……流石だ。


「うぉおおお!」

 雷堂さんがハンマーの柄でキメラドッグの牙を受け止める。

 その鋭くて大きな牙を見て私の鼓動は早まった。


「エターナルアロー!」

 瞬間、一筋の光線がキメラドッグを貫く。


「やった!」

 が、キメラドッグは身を捩っただけで、まだ雷堂さんのハンマーに食らいついている。

 そ、そんな……。エリナのエターナルアローが効いていない?


「有薗! ありったけぶち込め!」

 それと同時に光と炎の矢がキメラドックを襲う。


「エターナルアロー! フレイムアロー!」


 炎の矢にキメラドッグは悲痛な叫び声をあげた。

「ギヒィイイ!!」


「エリナ! 炎に弱いみたいよ!」私はエリナに向かって叫んだ。

 エリナが頷き、

「フレイムアロー! フレムロー! フレロー! フロー!」と立て続けに炎の矢を放った。

 ちょ、声出せばなんでもいいのだろうか?

 たまらずキメラドッグが噛みついたハンマーからその口を離す。


「よし、とどめだ!」雷堂さんが合図する。

「フレイムアロー!」

 放たれた炎の矢がキメラドッグの眉間を貫いた。


「グオオオオオオオ……」

 断末魔と共にキメラドッグが霧散する。


「す、すごい! やった、倒した!!」

 私とエリナは雷堂さんの元へ駆け寄る。


「やったな、キメラドッグ退治完了だ」

 雷堂さんは霧散したキメラドッグの場所を探る。

「お、あったあった」手には小さな魔石の欠片。

「いいか、モンスターを倒すとこういう魔石が落ちる。これは異世界では魔物との交渉や、店で通貨の代わりとしても使えるから必ず回収するように」

「わかりました」


「しかし、有薗、お前は凄いな。あんな連射、普通はできないぞ?」

「へっへーん。すごいでしょ」

「やっぱ詠唱破棄ってのはチートだな」

「エリナかっこよかったよー!」

「ありがと」

 それに比べて私は……。まぁ、仕方ないんだけど。


「さて、本来キメラドッグは訓練で倒すようなレベルじゃないんだ」

「え?」

「そうだな、大体、十戦程経験した五人パーティで挑むクラスだな」

「ちょ、それって」

「これは有薗の能力を見るためと、藤沢。お前のレベルを手っ取り早く上げるためだ」

「私の……?」

「そう、訓練は俺が付き添うから問題ないが、お前ら二人のパーティじゃ、アタッカーが有薗だけになってしまうだろ? だから攻撃魔法を覚えておけば二人で臨機応変に戦略が組めるからな」

「副部長……」

 やはり副部長だけのことはある。そこまで考えてくれていたとは……。少し尊敬。


「じゃ、端末を見てみろ」

「あ、はい」

 私は端末を操作する。

「あ! レベルが上がってます!」

「私もー」

「そうだろう。魔法はどうだ?」

「えーと、ちょっと待ってください、ん? お、おぉぉぉ……?」

 見ると使用可能魔法欄に新しい項目が増えていた。

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