第8話 装備選定
「無事に職が決まったようだな」
雷堂さんが腕組みをしながら言った。
「はい、私は魔獣使いです」
「魔弾の射手で~す」
「ほぅ、中々のレアジョブだな……。まぁ、その分成長は根気がいると思うが、頑張れよ」
「はーい、がんばりまーす」
「……」
あまりに軽いエリナの反応に、雷堂さんが言葉を失う。
「あ、そ、そうだ、副部長。今更なんですが、魔法が使えるのは何でなんですか? 確かこっちの世界では使えなかったはずじゃ……」
「ん? そりゃあ、正しい詠唱と……端末に登録しただろ? 測定が終わって登録した時点で、冒険者として認識されるからだ」
「認識?」
「ああ、この学校は現実世界にあるが、正確には異世界フィールドとして存在しているんだ。だから、端末の登録が終わった者を、このフィールドでは異世界の住人として認識する。因みに登録されてないものはゲスト扱いだな」
「学校を出るとどうなりますか?」
「基本的には、結界も張られてあるし、使えない。使おうとするのもダメだ。使えば探知されて、即、捕まるぞ?」
「なるほど……」
当然といえば当然、納得である。
「じゃあ、お待ちかねの異世界へ、と言いたいところだが……」
「え~! まだ何かあんの?」
エリナが不満そうに声を上げる。
「まぁ、焦るな。これから俺と一緒に異世界で簡易戦闘実習を行う。実習と言っても、本番と何も変わらないから十分に気をつけるように」
「「きゃーっやったー!!」」
私とエリナは飛び上がって両手を合わせた。
「ふっ、よし、お前ら装備室に行くぞ。ついてこい」
「「はい」」
雷堂さんに続いて、実習室の隣にある部屋に入った。
中は大きな通路のような作りで、脇に店のようなカウンターが見える。
何人かの部員? らしき人が武器を磨いたり、数を数えたりしていた。
「おう、やってるか?」
「あ、雷さん。お疲れっす!」
褐色の肌に白い歯が輝く。
頭のバンダナからは金髪がはみ出していた。
「うひょ~、かわいい子たちっすねぇ~。彼氏とかいるんすかー?」
「うっざ」
何の躊躇もなく、エリナは言い放つ。
「ちょ、エリナったら!」
エリナは知らん顔でとぼけている。
「あ、いいんすいいんす。すいません、変なこと言っちゃって。はは」
「いえいえ、こちらこそ……」
って何で私が……。
雷堂さんは頭を抱えながら、やれやれと頭を振る。
「紹介する、装備担当の胴巻剣太だ」
「剣太っす。よろしくっす」
「藤沢です、よろしくお願いします」
「有薗でーす」
「まぁ、そんな感じで剣太、悪いが初期装備を頼む」
「了解っす! じゃあ、藤沢さんからいきますか?」
「お願いします!」
「では早速始めましょう、藤沢さんの職は何ですか?」
「魔獣使いです」
「なるほど、てことは……、えーっと」
剣太はカウンター内に入り、何かを探している。
「これとかどうっすかね?」
「ちょ!?」
剣太が広げたのは、黒い布切れ? というか黒いビキニに近い程、えげつないデザインだった。
流石にこれは恥ずかしい……。
「あかりも意外とやるね」
横からエリナがにやにやと覗き込む。
「ちょっとエリナ!」
「すいません、それはちょっと……」
剣太は残念そうに
「そうっすか? いいと思ったんすけどねぇ。じゃ、これとかどうっす?」
次に出したのは、白い何かの骨をつなぎ合わせた鎧? のような物。
くっ……まともな装備はないの?
「もっとこう、お洒落というか、んー別に地味なのでもいいんですけど?」
「うーん、これはダメだと思うけど……」
渋々取り出したのは、上は黒い軍服のようなデザインで、下が同じく黒のホットパンツ。
※なんと、お洒落な帽子とマントもついている!
イメージ的には多種族混合編成の人気アイドルユニット『D機関』が着ているものに近い制服だった。
あんじゃん! 良いのがあんじゃん!
「か、カッコいい……!」
「そうっすか?」
「それいいよ、あかり。それにしなよー」
「ほんと?」
強そうだし、何かビシッとしてる。
露出もお腹が少し出るだけだし、これなら……。
「これにします」
「んー、これだと魔獣使い感が薄いと思うんすけどねぇ。初期装備丸出しだし、もっと、こう露出が高くないと」
剣太は胸を強調するジェスチャーをする。
「エターナルアロー」
エリナが光の弓を構える。
「ちょちょちょ!!! 危ないっす! 嘘っす! もう言いません! 言いませんから!」
剣太が慌ててカウンターに隠れた。
「こ、こら! 有薗! ここで魔法はやめろ!」
雷堂さんが焦って止めに入る。
「ったく、デリカシーがないのよ。デリカシーが!」
「と、とにかく、ここで魔法は禁止だからな? 危ねぇったらありゃしねぇ」
「……はーい」
エリナは渋々返事をしたあと、私の方を見てペロッと舌を出した。
私は思わず笑いそうになるのを堪える。
冗談でも、私のために怒ってくれたのかと思うと嬉しかった。
「じゃ、藤沢はそれに着替えて、次、有薗だ」
「お、お願いするっす。職の方は……?」
剣太は完全にびびっている。
「魔弾の射手よ」
「す、すげぇっす……。しょっぱなからレアジョブっすか!?」
「はやく」
「は、はいぃ! 只今!」
跳ねるようにカウンターに戻ると、すぐに剣太が戻ってきた。
「これ、間違いないっす!」
剣太は自信ありげに、装備をカウンターに置いた。
「なにこれ?」
カウンターの上には獣の皮を加工したスーツが。
多分、ヘルメットらしき獣の頭部がこちらを向いている。
「もふもふではあるけれど……」
「ほら! かわいいっすよね? ね?」
「これを着ろっての?」
いくら、もふもふとはいえ、これは確かに……。
「え……。こ、これは、稀少なデビルグリズリーの幼体から作られたもので……」
「却下」
エリナは冷たく言い放つ。
「そ、そんなぁ……」
「いいから、普通のを持ってきて、普通のを!」
「は、はいぃ!」
慌てて剣太が持ってきたのは、私のとは色違いの制服だった。
純白でどこか神聖な雰囲気がある。
「あー! これお揃いだ!」と、エリナが制服を広げて言った。
まぁ、色は違うけど、流石にエリナもお揃いは嫌がるかな……。
「ねぇ、あかりと同じのにしてもいい?」
「ふぇ?」
「駄目かな?」
エリナが少し頬を赤らめて上目遣いで私を見る。
その碧色の瞳は反則に近い。
「い、いやいや! 全然! エリナが良ければ」
どうしよう、緊張して顔が赤くなる。落ち着け、私!
「じゃあ、これにしよっと。へへ」
制服を身体にあてて、少し照れながら笑うエリナ。
か、可愛えぇ……。
その様子を見て、私はぎゅっと帽子を握りしめた。




