第7話 研修修了
「では、魔獣使いということであかりさんには、魔法を使って貰いましょうか」
「ま、魔法が使えるんですか……?」
安倍さんの言葉に生唾を飲む。
つ、ついに、憧れの異世界ライフの幕開けだっ!
「魔獣使いも魔獣を使役するため、色々と魔法が使えるんですよ、ちなみに初期レベルで使える魔法は、『ブライン』です」
「ひ、一つだけ……ですか?」
安部さんは頷き、「職にもよりますが、最初は皆そうですよ。レベルが上がれば使える魔法も増えていきますから」と言った。
むぅ、仕方ないか。
そりゃそうだよね、最初からバンバン使えたらチートだし。
「じゃあ、早速使ってみましょう。端末の職業選択の項目で『魔獣使い』をタップして下さい」
端末を取り出して、タップする。
すると、私のステータス画面上部の職業欄に『魔獣使い』と表示される。
「できました」
「次に、魔法の欄をタップして下さい」
言われた通りにタップすると、魔法リストの一覧が表示され、使用可能魔法の欄に『ブライン』が表示された。
「その『ブライン』をタップすると、詠唱に必要な呪文と効果、使用MPなどが表示されます」
わー、本当だ。
えーっと、
◇ブライン……自身を中心とした半径5メートルの空間を闇で包む(使用MP2)
なるほど、で、トリガーとなる呪文は『闇よ、闇よ、我を包み給え』か、ふむふむ。RPGっぽい感じなのね。
「OKです」
「では、早速使ってみましょう」
「頑張って」
私はエリナに頷くと、「闇よ、闇よ、我を包み給え!」と詠唱した。
……あれ?
何も変わらないけど?
二人を見ると、どこか落ち着きの無い様子だ。
「あれ、使えて……ますか?」
「あかり凄いじゃん! 真っ暗で何も見えないよ」
エリナがキョロキョロしながら言った。
「問題ないようですね、おめでとうございます」
「い、いや、明るいまんまなんですけど……?」
「あー、なるほど。これは説明不足でした。あかりさんは『暗視』のスキルをお持ちですから、暗闇の中でも通常と変わらない視界が確保できているはずです」
「な、なるほど! いや、全く暗くないですもん」
待てよ、ていうことは、寝る時も明るいまま?
「ちょ、安部さん、まさか、寝る時とかは明るいままじゃないですよね?」
「はは、大丈夫ですよ。心の中で切り替えるイメージです。スイッチのような感じで」
ふぅ……、危ない危ない。
私は試しにスイッチをイメージする。
すると、暗視の効果が切れ、辺りが真っ暗になり何も見えなくなった。
「ブラインの効果はどうやって切るのですか?」
「一定時間で効果は失われますが、戻れとイメージすると解除できます」
「やってみます」
ブラインを解き、視界が戻った。
な、なるほど……。うわーなんか楽しいな。
「いや、お見事でした。当面は魔獣使いを鍛えていけばいいでしょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ、装備などは端末に装備可能リストが表示されますし、色々と試してみて下さい」
安部さんは言い終えると、エリナの方を向く。
「次に有薗さんですが、風属性のEX適性に加え『エターナルアロー』のスキルを活かすには、弓術の使える職が良いとは思うのです」
「他に何かあったりするんですか?」とエリナ。
「問題は、有薗さんのスキルです。『妖精王の加護』による『詠唱破棄』これはもう、チートとしか言いようがありませんし、これを活かさない手は無いと思います。ですので……」
そう言いかけて、安倍さんが私達を見た。
「ですので?」
エリナと私は続きを促し、ゴクリと喉を鳴らす。
「ここは……」
「ここは?」
安倍さんが私達を見て続ける。
「やはり……」
「やはり?」
私とエリナは顔を見合わせ、やけに焦らす安部さんの言葉を待つ。
「超レア職――魔弾の射手、これが最適解でしょう!」
安倍さんは鼻息を荒くして、何かをやり遂げたかのように額の汗を拭った。
「魔弾の射手……」
か、かっこいい……。
私の魔獣使いとは響きが違う。
「ふーん。じゃ、それで」エリナは即答した。
「ちょ、エリナ⁉」
「いいのいいの、強そうだし」
安部さんは苦笑いを浮かべている。
「確かに、私でも即決だとは思うけど、本当にいいの?」
「うん」
そう頷きながら、エリナはさっさと端末を操作していく。
「できた」
「では試してみますか?」
「うん、えーっと。お、何か色々使えるみたいね」
「え?」
エリナの端末を覗くと、魔法欄には『エターナル・アロー』『フレイム・アロー』『フリーズ・アロー』の文字が⁉
「こ、これは凄いですね。これだけでもう、Cランク程度のクエストはこなせるレベルです……」と言って、安部さんが嘆息する。
「エリナ……凄い……」
「へっへーん、これでクエストは私に任せろってもんよー」
得意そうに胸を張るエリナ。
確かにエリナがいれば強敵も倒せそう。
でも、もしかして、私、足手まといになっちゃうんじゃ?
折角仲良くなったのに、嫌われちゃったらどうしよう……。
「ん? あかり、どうかした?」
「い、いや、何でもないよ……」
様子を察した安部さんが、
「藤沢さん、心配しなくても、初期値には個人差が出るものです。でも、しっかり鍛えていけば、闇のEX適性を持っている貴方なら、すぐに追いつけますから」と励ましてくれた。
「は、はい! 頑張ります」
「あかりったら、そんな心配してたの? 大丈夫よ、一緒にがんばろ?」
「う、うん! よーし、負けないよ?」
「ふふ、競争だね」
私はエリナと拳を合わせて笑った。
すると、突然安部さんが叫びだす。
「エ~クセレンッ! オ~、レディたちっ! すばらしき友情っ! ミーもうれしいよ‼」
「も、戻ってる……」
「どうしたんだい⁉ さあ! この素晴らしい門出を、共に祝おうじゃないかっ! ボンボヤ~ッジュッ‼」
「はぁ……」
二人で溜息を吐いた後、私とエリナは互いを見て笑った。