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第6話 職業選択の自由

「困惑させてしまったかも知れないですね」

 そう前置いて、安部さんは静かに話し始めた。

「実は、信じ難いとは思うのですが……私の中には三人の人格が存在しているのです」

「は? 三人?」

「うっそだー、絶対うそだよー」と、エリナが笑う。


 しかし、安部さんは落ち着いた様子で答えた。

「いえ、本当です。普段は次男のアベルという人格が。そして、クエストなどでの戦闘中は三男の(たつ)が出てきます」

「多重人格ってやつですか?」

 小さい頃にテレビで見たような気が……。


「正確に言うと少し違うのですが、概ねそう考えて頂いて結構です。因みに私は交渉事や、行事などの時に出てきます」

「……」

 にわかに信じ難い話ではあるが、本人がそう言うのなら別にどうでもいいと思った。それよりも、アベルという次男から解放された事が嬉しい。


「では、本題のアウトドアライフについて、私の見解を述べても?」

「ええ、もちろんです。お願いします」

 私が答えると、安部さんがにこやかに微笑む。


「まず、薬士ですが、この職自体は、藤沢さんの狙い通りアウトドアライフに役立つ職であると言えます」

「じゃあ、やっぱり……」

 そう言いかけると、安倍さんが人差し指を立てた。

「しかし、藤沢さんの適性職であるネクロマンサーを選んだとしても、同じ事なのです」

「同じ?」

「ええ、何故なら薬士のスキルは、ネクロマンサーのスキルでカバーできるからです。元々、ネクロマンサーという職はその名称から、アンデッド使役スキルに限定して目がいきがちなのですが、闇属性という大枠の中では、僧侶や白魔術師といった位置づけなのです」

「そうなんですか?」

 てっきり、アンデッドを操り、怪しげな術を使うドッロドロなイメージしか無かった。


「藤沢さんは、この世界の構成要素の9割が、ダークマターと言われる暗黒物質から出来ているのはご存知ですか?」

「いえ、ちょっと何を言ってるのかわからないです……」

 エリナもわからないと顔を振っている。


「つまり、闇属性系統の職と言うのは、世界の主構成物質である暗黒物質に作用する力を用いる事によって、様々な力を得ます。これは闇属性の潜在的な万能性の高さを示しているんです。ですので、藤沢さんが、わざわざ薬士を選ばなくとも、適性の高いネクロマンサー職を育てていけば、結果的に同じことが出来るようになるという訳です」


 なるほど……。

 確かに安部さんの言っている事は筋が通っていると思う。

 適性の高い闇属性の職を究めた方が効率は良いかも知れない。

 しかし、私には冒険者として世界を救うとか、魔王を倒すなどと大それた事をやる気はないし、闇属性を究める気などさらさら無い。


 ――そう、私はただ、アウトドアライフがしたいのだ。


 思うままに異世界を旅して、気が向けばダンジョンに潜り、中層手前でびびって引き返し怖かったねぇとか、異世界でキャンプやバーベキューなんかしたりして、笑えればそれで良いのだ。(可能ならエリナと二人で)

 そして、安部さんは大事な事を忘れている。


 ――私は女子である。


 ネクロマンサーなどという、女子力の欠片もない名前の職に就くわけにはいかない。

 ここはきちんと言っておくべきだろう。


「確かに安部さんの言う通りだとは思いますが、どうしてもネクロマンサーになるつもりはありません」

 安部さんの眼をしっかりと見て言った。


「……そうですか。職を選ぶのは藤沢さんの自由ですから、それは問題ありません」

「すいません、ありがとうございます」

「だとすると、薬士ですか……。どうやら薬に主眼を置いているようですが、アウトドアライフとなると、戦闘に関するスキルがないと厳しいように思えます。そもそも薬士はメイン職ではありませんから」


 え? ちょ……。

「じゃあ、戦えないって事ですか?」

「まぁ、普通は、何か軸となるメイン職があって、必要に応じて修めるサブ職ですからね」

「サ、サブ職!?」


 ……しまった。

 そうか、これは考えが足りなかった。

 どうする? 諦めて女ネクロマンサーに……。

 私はドクロのお面を被った自分を想像してみた。

 駄目だっ! それは乙女としてのプライドが……ぐぬぬ。


 私が頭を抱えていると、安倍さんが、「魔獣使いなら育てておけば、分岐がたくさんありますけどね」と言った。

「魔獣使い……」

 ハッと顔をあげる私。

 それだ! 可愛くはないけど……、なんとなく妥協できるレベルである。


「決めました、私、魔獣使いになります!」

「そうですか、それは良かった。では、アベルに……」

「ちょちょちょ!! お願いだからそのままで!」エリナが懇願する。

「私からも、お願いします。研修が終わるまででいいので」


 安部さんは困った顔をしていたが、「わかりました。では……、このままで行きましょう」と言ってくれた。

「ふぅーっ、助かった……」

 私とエリナは安堵の溜息を吐いた。

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