表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/32

第5話 研修

 次の日の放課後、私達は異世界探索部の部室へ向かった。


 今日は研修初日である。

 昨日エリナと話し合った結果、当面はアウトドアな感じで行こうというアバウトな結論に至った。

 正直なところ、二人とも少し面倒になった感があったことは否めない。


「おはようございます」

 部室に入ると、雷堂さんが手を挙げて応える。

 初見ほどのインパクトはないが、圧倒的な存在感があった。


「あのー副部長、アカウント開設終わりました」

「おう、じゃあ研修を始めるか。そこの部屋に入って待っててくれ」

 雷堂さんは部室の奥の扉を指した。


「はーい」

 私はエリナと奥の部屋に入った。

 中は見事に何も無い、二十畳くらいの真っ白な部屋……。

 壁の所々にキズが目立つ。何かの訓練の跡なのかな?


「おーし、待たせたな」

 雷堂さんが入ってくる。隣には痩せ型の男性部員がいた。


「紹介するぞ、お前らの研修を担当する安部竜(あべりゅう)だ。少しクセがあるが……実力は問題ないから安心してくれ」


 紹介された男性部員は一歩前に踏み出す。

「安部竜だ、みんなには()()()と呼ばれてる。君たちも遠慮なくコーミー?」


 はっきり言おう。

 ――無理である。


 生理的に受け付けないタイプだ。

 が、しかし、常識人である私とエリナは、きちんと挨拶をする。

「よろしくお願いします!」


 雷堂さんがうんうんと頷き、「じゃあ、安部頼んだぞー」と小さく手を上げた。

「ノ~プロブレムッ!」

 部屋を出ていく雷堂さんに向けて、安倍さんがピースサインを作り額に当てる。


「う……」

「ねぇ、キモくない?」と、露骨に眉根を寄せるエリナ。

「ちょ、エリナ。しーっ」

「ん? 何か言ったかいレディ?」

「いえいえ、別に、あはは……」

「ふっ、じゃあ始めるとしようか。リッスンスン! まずは、(ジョブ)決めだ!」

 こ、声、でけぇ……。

「は、はい!」


「OK! 二人の測定結果は事前に把握してある……他には漏らさないようにするので、ピース、オブマインッ!」

 安部さんは大げさに両手を広げた。

「とりあえず、オーマイガッ! 前代未聞の適性であることは間違いない! 君たちのポテェーンシャルは素晴らしいの一言だ! それに……二人とも美しいね! フッ……、ビュティフォグァール……」

「キモっ!」

 エリナは平然と言い放った。

「ちょ、エリナ……」

「あはははは! 照れちゃってキュ~ティッ! まぁまぁ、僕に精神攻撃はノーッダメ~ッジ? 白魔術師だからね! アイム、ホワイトマジシャン~ヌッ!」


 この人、本当に大丈夫なんだろうか?

 呆気に取られるエリナと私。

 これはもう、何も気にしない方がいいだろう。うん、間違いない。

 私はエリナと目で互いの意思を確認し、合意に至った。


「では、早速。YOUだ! あそこの的に矢を放ってプリーズ!」

 安部さんはエリナを指差す。

 そして、指をパチンと弾くと正面の壁に丸い的が現れた。


「え、弓がないと……」

 エリナが困惑していると、安倍さんは肩を竦めた。

「ノンノンノン! 君のEXスキールなら、打てるはずだよ? エリ~ナッ!」

「は?」

「OK、OK。ノープロブレム! じゃあ、集中して? 怖くないよ~。ほらほら、頭の中で弓と矢をイッメーッジする! 浮かんだかな~? 浮かんだねぇ~。そして、構えるっ! 打つ! ここまで、OK?」

 安倍さんが身振り手振りを交えながらエリナに説明をした。


「ん、こうかな……」

 エリナが目を閉じる。

 顔は動かさず身体をやや横に向け、左手をすっと的に向けて伸ばした。

 そして、ゆっくり矢を引き絞るように右手を構えると、光の弓と矢が現れた。


「エークセレンッ! では、放たれた矢が的を射抜くイッメージを!」

「えいっ!」

 エリナが手を離すと、ドヒュンッ! という音と共に光の矢が一瞬で的をぶち抜く。


「マーベラス! うん、いいねぇ。エレガンッツ! ホゥッ! 諸君、さぁ~神の子に祝福を! これが天才というものだ!」

 安倍さんは興奮して、わけのわからないことを言っている。

「す、すごい……」


 改めて、自分が冒険者になろうとしているんだという熱い思いが、心の奥からこみ上げてくる。

 でも……、私にもあんなことができるかな?

 不安と期待が入り混じり、うっすらと手に汗をかく。


「まぁ、エリーナのポテ~ンシャルなら当然。ネクスッ! 次、YOU、行ってみよう! カマンッ、闇っ子!」

「は、はい! お願いします!」

「あかり、頑張って」

 エリナに力強く頷いて応える。


「では、YOUにはクエスチョンを。希望する職は決まってるのかな?」

「え? あ、一応、薬士なんかが良いかなと思ってますが……将来的にアウトドアライフがしたいので」

「なーるほどなるほど! アンダスタンッ! そういう理由があったのかい? そういう事は、もっとスッピーディーに言ってくれないとっ!」


「いや、聞かれたのは、今が初めてですし……」

「ソーリーソーリー! あはははは、ノープロッブレム! そうだね、うーん。ここは兄者に任せよう。ではレディたち、シィーユーッ‼」


 安部は一瞬、ガクッと首を落とした。

 そして、直ぐに何事も無かったように前を向き、「申し訳ない、弟がうるさかったでしょう? お詫びします」と、まるで人が変わったように、丁寧で穏やかな口調で言った。


 こ、今度は何……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ