第5話 研修
次の日の放課後、私達は異世界探索部の部室へ向かった。
今日は研修初日である。
昨日エリナと話し合った結果、当面はアウトドアな感じで行こうというアバウトな結論に至った。
正直なところ、二人とも少し面倒になった感があったことは否めない。
「おはようございます」
部室に入ると、雷堂さんが手を挙げて応える。
初見ほどのインパクトはないが、圧倒的な存在感があった。
「あのー副部長、アカウント開設終わりました」
「おう、じゃあ研修を始めるか。そこの部屋に入って待っててくれ」
雷堂さんは部室の奥の扉を指した。
「はーい」
私はエリナと奥の部屋に入った。
中は見事に何も無い、二十畳くらいの真っ白な部屋……。
壁の所々にキズが目立つ。何かの訓練の跡なのかな?
「おーし、待たせたな」
雷堂さんが入ってくる。隣には痩せ型の男性部員がいた。
「紹介するぞ、お前らの研修を担当する安部竜だ。少しクセがあるが……実力は問題ないから安心してくれ」
紹介された男性部員は一歩前に踏み出す。
「安部竜だ、みんなにはアベルと呼ばれてる。君たちも遠慮なくコーミー?」
はっきり言おう。
――無理である。
生理的に受け付けないタイプだ。
が、しかし、常識人である私とエリナは、きちんと挨拶をする。
「よろしくお願いします!」
雷堂さんがうんうんと頷き、「じゃあ、安部頼んだぞー」と小さく手を上げた。
「ノ~プロブレムッ!」
部屋を出ていく雷堂さんに向けて、安倍さんがピースサインを作り額に当てる。
「う……」
「ねぇ、キモくない?」と、露骨に眉根を寄せるエリナ。
「ちょ、エリナ。しーっ」
「ん? 何か言ったかいレディ?」
「いえいえ、別に、あはは……」
「ふっ、じゃあ始めるとしようか。リッスンスン! まずは、職決めだ!」
こ、声、でけぇ……。
「は、はい!」
「OK! 二人の測定結果は事前に把握してある……他には漏らさないようにするので、ピース、オブマインッ!」
安部さんは大げさに両手を広げた。
「とりあえず、オーマイガッ! 前代未聞の適性であることは間違いない! 君たちのポテェーンシャルは素晴らしいの一言だ! それに……二人とも美しいね! フッ……、ビュティフォグァール……」
「キモっ!」
エリナは平然と言い放った。
「ちょ、エリナ……」
「あはははは! 照れちゃってキュ~ティッ! まぁまぁ、僕に精神攻撃はノーッダメ~ッジ? 白魔術師だからね! アイム、ホワイトマジシャン~ヌッ!」
この人、本当に大丈夫なんだろうか?
呆気に取られるエリナと私。
これはもう、何も気にしない方がいいだろう。うん、間違いない。
私はエリナと目で互いの意思を確認し、合意に至った。
「では、早速。YOUだ! あそこの的に矢を放ってプリーズ!」
安部さんはエリナを指差す。
そして、指をパチンと弾くと正面の壁に丸い的が現れた。
「え、弓がないと……」
エリナが困惑していると、安倍さんは肩を竦めた。
「ノンノンノン! 君のEXスキールなら、打てるはずだよ? エリ~ナッ!」
「は?」
「OK、OK。ノープロブレム! じゃあ、集中して? 怖くないよ~。ほらほら、頭の中で弓と矢をイッメーッジする! 浮かんだかな~? 浮かんだねぇ~。そして、構えるっ! 打つ! ここまで、OK?」
安倍さんが身振り手振りを交えながらエリナに説明をした。
「ん、こうかな……」
エリナが目を閉じる。
顔は動かさず身体をやや横に向け、左手をすっと的に向けて伸ばした。
そして、ゆっくり矢を引き絞るように右手を構えると、光の弓と矢が現れた。
「エークセレンッ! では、放たれた矢が的を射抜くイッメージを!」
「えいっ!」
エリナが手を離すと、ドヒュンッ! という音と共に光の矢が一瞬で的をぶち抜く。
「マーベラス! うん、いいねぇ。エレガンッツ! ホゥッ! 諸君、さぁ~神の子に祝福を! これが天才というものだ!」
安倍さんは興奮して、わけのわからないことを言っている。
「す、すごい……」
改めて、自分が冒険者になろうとしているんだという熱い思いが、心の奥からこみ上げてくる。
でも……、私にもあんなことができるかな?
不安と期待が入り混じり、うっすらと手に汗をかく。
「まぁ、エリーナのポテ~ンシャルなら当然。ネクスッ! 次、YOU、行ってみよう! カマンッ、闇っ子!」
「は、はい! お願いします!」
「あかり、頑張って」
エリナに力強く頷いて応える。
「では、YOUにはクエスチョンを。希望する職は決まってるのかな?」
「え? あ、一応、薬士なんかが良いかなと思ってますが……将来的にアウトドアライフがしたいので」
「なーるほどなるほど! アンダスタンッ! そういう理由があったのかい? そういう事は、もっとスッピーディーに言ってくれないとっ!」
「いや、聞かれたのは、今が初めてですし……」
「ソーリーソーリー! あはははは、ノープロッブレム! そうだね、うーん。ここは兄者に任せよう。ではレディたち、シィーユーッ‼」
安部は一瞬、ガクッと首を落とした。
そして、直ぐに何事も無かったように前を向き、「申し訳ない、弟がうるさかったでしょう? お詫びします」と、まるで人が変わったように、丁寧で穏やかな口調で言った。
こ、今度は何……?