第3話 ミーティング
「ねぇあかり、これからどうするの?」
「うーん、早く測定結果を見たいし、今後の方針も決めないとね」
「じゃあさ、ウチでミーティングしない?」
「エ、エリナの家⁉」
もしかして、ミケルさんが居たりして?
ってことは……、そうだ! 本物に会えるかも知れないよね⁉
のわわ、どうしよう、心の準備がぁーっ!
「あ、あかり? 大丈夫?」
ハッと我に返る。
「ご、ごめんごめん。ちょっと考え事を……。もちろん、エリナが良ければ行ってみたいな」
「やった、決まりね! あ、ウチすぐそこだから」
「へぇ、そうなんだ」
「あ、途中でお菓子とか買っとく?」とエリナ。
「いいねぇ~、この辺コンビニあったっけ?」
「確か学校の横に」
「アイスも食べたいなー」
コンビニで、お菓子やらジュースやらアイスやらをしこたま買い込んだ私たちは、いざミーティングをするべくエリナの家に向かった。
***
ってことで、ここは学校から程近い――某高級住宅街。
立ち並ぶ住居はどれもハイセンス。同じ造りの建売り住宅とはわけが違う。
超ド田舎出身の私を圧倒するには十分だ。
見る家全てが村の役場よりも大きかった。
何も悪いことはしていない。でも、やたらとオドオドしてしまう。
まさかエリナって超お嬢様?
ミケルさんの娘だし、ある程度凄い家を想像していたけれど……。
「あかり、顔色悪いよ?」
「へ? だ、大丈夫だよぉ!」
「……?」
エリナは不思議そうに私の顔を覗き込む。
「と、ところでエリナの家ってどの辺りなのかな?」
「あ、うん。ここよ」
見ると、家と言うよりは一面の……壁?
御影石のように、黒くてつるつるとした質感――。
うっすらと、二人の顔が映っている。
「これが……家?」
「そうだよ、さぁ、入った入ったー」
って、どこから入るの?
壁しかないんですが……。
すると、エリナはバッグにぶら下げた猫のキーホルダーを壁に向ける。
壁の一部が消え、手入れされた庭と低木に囲まれた洋館が見えた。
「わぁ……」
思わず感嘆の声が漏れる。
「どう? 中々のもんでしょ?」
「す、すごいね……」
私は少し前屈みになりながら、エリナの後にくっついて敷地に入った。
ひんやりと澄んだ空気が全身を包み、心がしっとりと落ち着くのがわかる。
マイナスイオンの効果を体感しながら、緩やかなカーブを描く石畳の道を進み玄関へ。
ツヤツヤの木でできた重厚な扉を開けると、豪奢なシャンデリア、槐色の絨毯、螺旋階段に高そうな調度品が目に入る。まるで映画の中で見た洋館にいるようだった。
「……」
呆気に取られていると、エリナが私の手を引いた。
「こっちだよ」
「あ、うん」
中央の階段から二階へ上がる。途中、床がつるつるで足が空回りしそうになった。
突き当りの部屋の扉をエリナが開ける。
「ここが私の部屋」
「お邪魔します……」
中世的でクラシカルな屋敷内と違い、エリナの部屋は都会的な雰囲気で、モダンな家具がセンス良く置かれていた。
このまま雑誌とかの撮影に使えそう……。
「か、かっこいい!」
「ホント? うれしい! 結構、頑張ったんだよねー」
「一階と全然雰囲気が違うね~」
「ああ、あれは……ママの趣味、かな。へへ、パパはログハウスみたいなのが好きだって言ってた」
「へぇ~」
確かにミケルさんの趣味じゃなさそうだもんね。
配信でもテントかログハウスだし……。
エリナは部屋の中央にあるソファに飛び乗る。
そして、隣をポンポンと叩いて座るように促した。
私はちょっと照れながらも隣に腰を下ろす。
「うわ! このソファ、めっちゃ気持ちいい!」
「でしょ? お気に入りなの、ふふふ」
手触りが半端ない! いつまでも揉んでいられる!
手が、手が止まらないんだけどっ⁉
私はパン職人の如くソファの揉みしだいたあと、テーブルに買い込んだお菓子やジュースを出した。
「それで、アプリだけど」
「うん、ダウンロードしろって言ってたよね」
私とエリナは端末を取り出して画面を見た。
「あれ? WiFiが入ってる?」
「え、普通でしょ?」と、エリナがお菓子を頬張りながら言った。
「あ、あはは、そうだよね~」
家にWiFi……⁉ こ、これが、格差ってやつなの?
いつも村の集会所でネットを借りていた私からすると、ちょっと信じられない。
「じゃあ、パパっとやっちゃおー!」
「おーっ!」
エリナも自分の封筒を取り出し、二人でダウンロードする。
端末の認証をするだけだったので、呆気ないほど簡単にアカウントが開設できた。
「なんか……簡単だね」
「うん、なんかあっけない感じ……」
早速、二人でステータスを確認。
「のわーっ! これがステータス画面……感動っ!」
画面には、各属性の判定結果、そして基本要素として職、LV、HP、MP、攻撃力、防御力などが並ぶ。当然、職は空欄、LVは1である。
スキルの項目をタップすると、ポップアップが表示された。
◇スキル:暗視……暗いところでも良く見える
◇EX適性BONUS:漆黒の花嫁……闇属性のモンスターを魅了
スキルがある上にBONUSまで⁉
ここは喜びたいところだけど……なんか嬉しくない。
いくら闇属性の適性が良いって言っても、これじゃ完全にネクロマンサーになっちゃうじゃん……。
「どうだった?」
「あ、うん。えーっと、一応スキルがあったよ」
「凄いじゃん! へぇー、いいなー」
「エリナも確か『風』にEX適性があるんだよね?」
「うん、あ、見る?」
そう言って、エリナは軽い感じで端末を私に差し出す。
「え? ちょ、いいの?」
「うん、平気平気。気にしなーい」
何というか、大物だなぁ……。
「じゃあ、ちょっと拝見しますよぉ……っと」
端末を見る――これは⁉