第25話 ルイスとポリス(前編)
――異世界探索部・ミーティングルーム。
「よーし、始めるぞ」
雷堂さんがミーティングルームに入って来た。
「お願いしまーす」
私とエリナはペコリと頭を下げる。
「じゃあ、まずあれからステはどうなった? だいぶ上がったか?」
「あ、はい。じゃあ私から……」
私は『ステタコ』と頭の中で唱える。
目の前にステータス画面が表示された。
「えっと、レベルの方は5まで上がりました」
「おぉ、予想より上がったな?」
「はい、それと新しいスキルが……」
私は見やすいように端末で表示して皆に見せた。
◇チャーム・ショット: 対象に調伏効果のある無属性衝撃波を放つ、連射可、詠唱あり(使用MP22)
詠唱:『メロメロ、メローン、好きになれー』
「チャームショットか……、意外と使えそうだが」
「はあ……、そうなんですが……」
「問題はこの詠唱よね……」
エリナが苦笑いを浮かべた。
「ま、まあ、こういうのは慣れ、慣れだな! で、有薗はどうだ?」
雷堂さんがわざとらしく話を変えた。
「えっと、私は凄いよ。はい、これ」
エリナは端末を雷堂さんに見せた。
私は昨日の夜に、学生寮で教えてもらっている。
「お、おい……これ……」
まあ、そうなりますよね、副部長。
私も聞いた時はめっちゃ驚きましたもん。
◇超高圧縮魔弾: 対象に魔力を圧縮した魔弾を放つ。付与効果:スタン・即死50%(使用MP50)
「切り札っぽくて良くない?」
あっけらかんとエリナが言う。
「こ、これを詠唱破棄で撃つのか……、恐ろしいな。レベルはどうだった?」
「レベルは3、一つしか上がんなかったです」
「なるほど……、ちょっと待てよ。お前、総MPは?」
「8890ですけど」
「――いっ⁉」
雷堂さんはあんぐりと口を開けてエリナを見た。
私もあまりのことに計算が追いつかない。
えっと、私が80だから……、えっと……。
「ちょっと時間をくれ」
雷堂さんはそう言って、腕組みすると目を閉じた。
「ねぇ、何かマズかった?」
エリナが小声で私に言う。
「マズいっていうか、驚いてるだけだと思うけど……」
しばらくジュースを飲んだり、昨日食べたオムライスの話などをして時間を潰していると、雷堂さんが目を開いた。
「すまん、待たせたな」
「いえ」
「まず、現状把握だ。有薗のMP総量は、レベル30クラスの魔術師と同程度。ははっ、笑ってしまうが、多分『妖精王の加護』の影響だと俺は思う」
「ふーん」
エリナは軽い感じで聞いている。
「と、なるとだ。当面は藤沢の強化を重点的に考え、計画を建てた方がいいだろう」
私はゴクリと喉を鳴らした。
うわー、責任重大な感じ……。
でも、エリナの足手まといにはなりたくない。
頑張らねばっ――。
***
ミーティングの後、二人でレムリアへ行くことを許された。
二時間の時間制限付きという条件だけど、エリナと二人は嬉しい。
「よっしゃー、いっくぞー!」
「おーっ!」
私とエリナは、カードをリーダーに通して異世界への扉をくぐった。
乾いた風がぶわーっと吹いて私達を出迎えた。
「ふわぁーっ! いつ来てもいい天気ね」
「うん、風が気持ちいいー」
エリナの髪が風になびき、キラキラと光りの粒子が舞っているように見えた。
私は思わず目を奪われてしまう。
「あかり? どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ」
『おーい、来てやったぞー』
ルイスが草原の向こうから、ふわふわと飛んできた。
「あ、ルイス! やっほー!」
私がルイスに抱きつこうとすると、ひょいっと避けて頭の上に乗った。
むぅ、まだ距離を感じる……。
「あはは! あかりウケる~」
エリナがルイスを頭に乗せた私を見て笑った。
「ぐぬぬ……」
ルイスが頭の上で香箱を組む。
『今日はどこに行くんだ?』
「えっと、ポリスってスカルドックに会いにいくの」
『スカルドック……?』
怪訝な表情を浮かべるルイス。
「あんたの友達になるんだから、愛想よくしなさいよ?」
と、エリナが横から、からかうように言った。
『……ふん』
ルイスは機嫌を悪くしたのか、黙り込んでしまう。
やれやれと私が小さく息を吐くと、エリナは肩を竦めて見せた。
ともかく、ミーティングで提案されたのは、原初の森で私とポリスのレベル上げをすること。
その雷堂さんの計画はこうだ。
①毎日、二時間の時間制限付きで、二人だけの異世界行きを認める。
②異世界では必ずポリスを連れて行動すること。
③目標は私のレベルを10、ポリスのレベルを最大の25。
④ポリスのレベルが25になったら、上位進化を検討すること。
⑤エリナは私のサポートをする。
雷堂軍師曰く――、レムリアでポリスを連れ出せば、厩舎を出発した時間や、帰ってきた時間などが自動的にデータとして記録され、探索部でも安否確認ができるのだという。
そして嬉しいことに、私のレベルが8になった時点で、原初の森に限るが一泊キャンプの許可が顧問から下りたそうだ。これは嫌でもテンションが上がってしまう!
ちなみに顧問の先生にはまだ会えていない。
レベル上げもしなきゃだけど、キャンプ用品も街で物色したいところ……。
うーん悩ましいっ。
そんなことを考えながら田舎道を皆で進むと、レムリアの門に着いた。
ケインさんが軽く手を上げる。
「あ、こんにちはー!」
「やあやあ、お嬢さん方」
ケインさんは少し腰を屈めて、私達に目線を合わせた。
「カードはある?」
「あ、はい、お願いします」
私とエリナはカードを渡した。
――ピピピ。
――ピピピ。
二枚分読み込み、ケインさんは端末の画面を確認する。
「問題なし、と……。じゃあこれカードね」
ケインさんはカードを私達に返すと、スッと目線を下げた。
「ようこそ、レムリアへ。私達は皆さんを歓迎します」