第24話 厩舎(後編)
「あの、卒業するとどうなりますか?」
「一般からもお預かりしてますので、一般厩舎に移動ですね。頭数と種族、レベルなどを考慮して、月当たりの料金をご相談する形です」
「な、なるほど……」
まあ、今はまだ考えなくてもいいか。
「他にご質問はありますか?」
「えっと、迎えにくる時はどうすればいいですか?」
お兄さんは指で長方形の形を作り、「カードありますよね?」と訊いてきた。
「あ、はい。ビギナーズカードですけど……」
「それで大丈夫です。管理番号が紐付いて記録されますので、端末からでもステータスからでも状態の確認ができますよ」
「へぇ~!」
「すごいじゃん、便利ね?」
エリナが感心して頷いている。
「では、厩舎へご案内します」
「いいんですか⁉」
「もちろん、お預かりする環境がどういうものかを知って頂くのは大事ですからね。さ、行きましょう」
お兄さんは早速私達を、隣の厩舎に案内してくれた。
「うぉ~! で、デカい!」
「すごいね!」
「こりゃすげぇな!」
私達が驚きの声を上げると、お兄さんは誇らしげに「そうでしょう」と頷く。
厩舎の中は巨大な体育館のように広い。
真ん中に太い通路が通っていて、その通路を挟んで向かい合わせに檻が並んでいる。
変わっているのは、ロフトのような中二階があることだ。
通路沿いに並ぶ檻の脇には、それぞれ小さな階段があり、中二階に行き来できるようになっていた。
「下が大型のモンスターの檻で、上が中型と小型の檻になっています」
通路も綺麗で、清掃が行き届いている。
奥で数人のスタッフが、手押し車で干し草を檻に運んでいた。
「彼らも学校から研修に来てくれている生徒さんですよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ、将来ブリーダーや、モンスタードクターを目指す子たちが多いですね」
「へぇ~」
皆、夢に向かって頑張ってるんだ……。
私も負けないように頑張らなきゃ。
「じゃあ、ポリスくんは小型なので上の『R05』でお預かりします」
「よ、宜しくおねがいします……」
お兄さんがポリスを掴むと、ポリスが私の方に戻ろうとした。
「ポ、ポリス、またすぐに来るからね……」
カチャカチャと歯を鳴らすポリス。
ええ子や……。
ゾンビは無理としても、ポリスくらいの骨ならアリかも知れない。
「うー、なんか可哀想になるね」
エリナが辛そうな顔を向ける。
「大丈夫です! 絶対に嫌なことはしませんし、万全の体勢ですから。スタッフも巡回して、ポリスくんみたいな小型のモンスターには、遊び相手になったりしていますので」とお兄さんは力強く言った。
「あ、ありがとうございます!」
正直、そこまでしてもらうと悪い気もするけど……。
「じゃあ藤沢、そろそろ行くか?」
「あ、はい」
雷堂さんの言葉に、私は頷く。
「ポリス~、いい子にしてるのよ」
私はポリスに手を振って、厩舎を出た。
何となく寂しい気持ちになっていると、エリナがそっと手を握ってきた。
「エリナ……」
「大丈夫だって、毎日くればいいじゃん」
「うん……そうだよね?」
厩舎を出て街に向かっていると、先頭を歩いていたライドウさんがこちらを振り返り、気まずそうに口を開いた
「藤沢、言いたくはないんだが……、あまり……感情移入はするなよ」
「え……?」
「相手は魔獣で、盾役なんだ」
「そ、そんな……」
「ちょっと雷堂さん、それは酷いよ!」
エリナが横から口を挟んだ。
「わかってる。俺もそういうのは好きじゃない。だが……、この先、冒険者として旅をするようになれば、どうしても、そういう決断を迫られる時が来るはずだ。それに……、深入りすると辛いのは藤沢、お前だぞ?」
「……」
確かに、雷堂さんの言っていることは理解できる。
でも、頭で理解はできても、私にはそれを実行できるとは思えない……。
魔獣使いは魔獣を使役し、自分の代わりに戦わせる職。
そこに愛はなく、あるのは調伏によって作られた主従関係のみ。
でも、だから何だと私は言いたい。
皆がそういう関係にならなくちゃいけない決まりなんてない。
私は自分が進みたい道を曲げてまで、冒険者になろうなんて思わない。
――そんなの冒険者じゃない。
「私は誰に何と言われようとポリスを育てます」
「藤沢……」
「あかり……」
「すみません、でも、私はそうしたいんです……」
雷堂さんがバツが悪そうに、鼻を人差し指で掻いた。
「すまんな、いや、俺が悪かった。冒険者ってのは、本来自由であるべきだ。つい、定石を押し付けちまった……」
「い、いえ、そんな。生意気言ってしまって……」
「私もあかりに賛成~! そもそも私達は、楽しくキャンプや旅ができればいいんだから。ね?」
「エリナ……」
「そうと決まれば、ステの確認もあるし、ポリスの育成計画も建てなきゃな。どうせなら、最強のスカルドックに育ててやらないと! ワハハハ!」
「ふ、副部長……」
じーんと胸が熱くなった。
「よーし、帰って、なんか食べよ?」
エリナが私に抱きついてくる。
ふわっといい匂いが香った。
「ちょ……」
「んふふー、オムライスがいいなぁ~」
「えー、間に合うかなぁ……」
「訊いてみてよ~」
「うん……」
「……」
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