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第23話 厩舎(前編)

 じゃれつくポリスをあやしながら歩いていると、ふと七瀬部長がいないことに気づく。

「あ、あれ? 副部長、七瀬部長がいないんですが……」

「ほんとだ……」

 エリナもキョロキョロと辺りを見た。

 雷堂さんは疲れたサラリーマンみたいな顔で、「もう慣れたよ」とだけ言って苦笑いを浮かべる。

 副部長、大変なんだろうな……。

 エリナも同じことを思ったようで、私達は顔を見合わせた後、しばらく二人で遠い空を眺めながら歩いた。



 レムリアの門に着き、カードを用意していると門兵さんが話しかけてきた。

「こんにちは、どうだ、もう慣れたかい?」

「あ、どうも。まだ、わからないことだらけで……」


「ははは、すぐに慣れるさ。紹介がまだだったな、俺はカイン、あっちがケインだ。お、調伏したモンスターだね? ちょっと見せてもらうよ」

 カインさんは「おーい」とケインさんに手で合図を出した。

 すると、門の側にある小さな詰所のような建物から、ケインさんが白衣を着た男の人を呼んで来た。


「鑑定ですね、少々お待ちを」

 と言って、白衣の男は薄いサングラスのような眼鏡を掛けた。

 ジロジロとポリスを色々な角度から見た後、眼鏡を外す。


「……はい、問題ないですねー」

 白衣の男はケインさんの持つ紙にサインをして、「では失礼します」と戻っていった。


「OK、待たせたね」

 ケインさんが道を空け、目線を落とし胸に手を当てた。


「ようこそ、レムリアへ。私達は皆さんを歓迎します」


 おぉ……格好良くて鳥肌が立つ。

「あ、ありがとうございます……」

 門をくぐる途中で、カインさんと目が合った。

 カインさんは片目を瞑って、ニコッと微笑んだ。


「ふぁ! ど、どうも……」

 ペコっと頭を下げ、街へ入る。

 ふぅ~、あれが大人の色気ってやつなのかも。


「ねぇ、あかり、二人とも超かっこよくない?」

「うん……なんか大人って感じ」

 私達がキャッキャしていると、いつの間にか先に行っていた雷堂さんが「おーい、こっちだぞ」と呼ぶ。

「あ、はーい、すみません」


 雷堂さんについて街の東に行くと、大きな工場のような建物が見えてきた。


「ふわ~、おっきいですね」

「まあ、学校の生徒の分に、有償で民間からも預かってるからな。規模はこの辺りで一番のはずだぞ」


「へぇ~」


 厩舎の敷地は木の柵で囲まれていて、中に三棟の大きな厩舎が見える。

 正面入口に着くと、『異世界専門学校厩舎』と筆字で書かれた木の看板が柵に立て掛けてあった。


「うーん、こういうの嫌いじゃないです。なんていうか飾らない感じが良いというか……」

「そうか? 俺はちゃんとしてる方がいいけどな?」

 雷堂さんは腕組みをして看板を眺めた。


「ねー、なんか牧場っぽくない?」

 見るとエリナは、木の柵に乗って足をぶらつかせていた。

「あー、たしかに!」


 芝生が広がる敷地内では、一生懸命に穴を掘っている人や、薪を割っている人、何かの道具を洗っている人など、大勢のスタッフが忙しそうに作業をしていた。

 遠くに金網が張られた一角があり、炎のような(たてがみ)(なび)かせながら六本足の馬が走っている。


「うわー、大変そうだね」

「うん……みんな汗だく」

「よし、受付はこっちだ」

「はーい」

 エリナがぴょんと柵から飛び降りた。


 雷堂さんの後ろに続き、真ん中の厩舎横にある建物に向かった。

 厩舎と比べると小さいが、二世帯住宅くらいの大きさがあり、ヨーロッパのリゾート地で良く見るような、白い漆喰の壁で角ばった形をしていた。


「あ、これって漆喰の壁ですね」

「ほぉ~、藤沢詳しいんだな?」

 雷堂さんが意外そうな顔で私を見た。


「村の大工さんに小さい頃教えて貰ったんですよ。懐かしいなぁ~、異世界にもあるんですねぇ」

「あかり、すごいじゃん!」

「いや、そんなことないけど……へへ」

「まあ、ここはウチの学校が建ててるからな、それも関係あるのかも知れん」

 雷堂さんがそう言って、木のドアを開けた。


「こんにちはー」

 中に入ると、正面に小さなカウンターの受付があり、奥には古びた木の長椅子が並んでいる。

 部屋の壁も外と同じ漆喰で、床と天井は白木張りかな?

 採光窓も大きくて、とても明るい雰囲気だ。


「どうも、いらっしゃい!」

 真っ黒に日焼けしたスポーツマンタイプのお兄さんが、奥から顔を見せた。


「あの、異世界探索部の雷堂です。調伏した魔獣を預けたいんですが」

 雷堂さんが尋ねると、お兄さんは、

「あー、はいはい。えっと、どの子です?」とカウンターから出てきた。

「おい、藤沢」

「あ、はい、この子なんですけど……」

 私は足にしがみつくポリスを見せた。


「あーはい、スカルドックですねー、はは、可愛いな~お名前は?」

 お兄さんは、私に尋ねながらポリスを撫でた。


「ポリスです」

「はいはい、ポリスくんねー、ちょっと触るねー、うーん、もうちょっとだよー、はい、はーいオッケー」

 とても慣れた手付きで、ポリスも嫌がる様子もなく触られるままになっている。


「病気も無さそうだし、骨の状態も良さそうです。これなら、すぐに厩舎に入れても大丈夫でしょう」

「は、はあ……」

 どういうことだろう、検診みたいなもんかな?

 不思議に思っていると、お兄さんが私を二度見して、「あれ? 初めてですか?」と訊いてきた。


「あ、はい……、そうなんです」

「あはは、それはすみませんでした」

 お兄さんは、申し訳無さそうな顔で笑ってポリスを撫でた。


「えっと、ちょっと説明しますね。ウチは生徒さんから料金は一切頂きません。無料です。お預かり頭数に上限はありませんし、卒業までは責任を持ってお預かりします」

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