第22話 遺跡（後編）
七瀬さんが、パチパチと手を叩く。
「うん、まずまずのようだな？ で、有ちゃんはＭＰまだ残ってるのか？」
あ、有ちゃん……。
「あ、はい。まだ大丈夫です」
七瀬さんはふーんと何やら感心した様子で頷いた。
「良くやった、今の感じは良かったぞ？ とりあえずは一掃したって感じだな」
雷堂さんは周りを見ながらハンマーを肩に乗せる。
「藤ちゃんは魔獣使いだったな？」
「あ、はい！ そうですけど……」
「まあ、鞭はいいとして……、雷堂、藤ちゃんは調伏したことあるのか？」
「いや、まだないな。初陣みたいなもんだし……」
「ふむ」
七瀬さんはニコッと笑って私のお尻をぽんと叩き、「やれ」と言った。
「え……？」
「お、おい、七瀬、そりゃ無理っても……」
「やればできる！ やらねばできん！ 己の壁を越えて見せよっ！」
「なんでテンション上がってんだよ……」
雷堂さんが頭を抱える。
「で、でも、どうやればいいのか……」
「チャームはあるよな？」
「あ、はい」
前回の実習で覚えたチャーム・ニードルがある。
「じゃ、それで。ほら、次のは丁度いいぞ」
「へ？」
七瀬さんが言うと同時に、ガチャガチャと言う音が響いてきた。
「チッ！ スケルトンだ、構えろ！」
「ひぇ～！」
ゾンビラットの死骸を踏み潰しながら、骨が迫ってくる。
人骨以外に獣の骨も混ざっていた。
「仕方ない、特別サービスだ。雷堂、一体残して殲滅しろ！」
「お、おう、わかった！」
雷堂さんが頷き、ハンマーを構えて走り出した。
「むぅん！」
巨大なハンマーがスケルトン達を粉々に砕いていく。
「ふ、副部長、すご！」
な、なんてパワー。
「私も負けないよ」
――エターナル・アロー！
即座に光の矢が放たれる。
矢はカーブを描き、スケルトン達の頭部を貫いていった。
「どう？ 曲げれるんだよ、すごいでしょ」
「う、うん……」
やっぱりエリナは凄いなぁ……。
よ、よし、私も負けずに頑張らないと！
「藤沢！ 行ったぞ、それで最後だ！」
「はい！」
ヨロヨロと向かってくる子犬のような骨。
私はその骨に向かって手を翳し、チャーム・ニードルを放った！
「はっ！」
掌から、小さな針が発射された。
「のわっ！ 出た！」
針は骨にサクッと刺さる。
ど、どうなる……⁉
成り行きを見守っていると、突然子犬の骨が床に転がり始めた。
「……？」
なんだろう、ちょっと甘えてるような気がしなくもない……。
エリナ達が集まってきて、一緒に骨を眺める。
「成功……なのかな？」
「効いてるようだが……」
すると、七瀬さんが口を開いた。
「では藤ちゃん、名付けだ！」
「な、名前？」
「雷堂！ そんなことも教えてないのか⁉」
「あ、すまん、えーと、調伏する場合は……どうやるんだっけ？」
雷堂さんが頭を掻く。
七瀬さんのボディーブローが入った。
「ぐふっ！」
「ったく……、一回だけだぞ？ 今の状態が調伏状態。この時、対象に名前を付けて繋がりを作る！ ほら、やるのだ！」
「はい！」
私は腹を向けてカチャカチャと転がっている骨の前に立った。
んー、名前か……。
何がいいかな？ 子犬っぽいし、なんとなく可愛い。
スケちゃん、ホネちゃん……違うなぁ。
ホネ、骨、ポリポリ……、ポリス？
「決めた！ 君の名は……ポリスだっ！」
すると、転がっていたポリスがぼやーんと発光し、私の方を向いておすわりをした。
「ん？」
私の視界の隅に何かチカチカと文字が光っている。
―― 調 伏 完 了 ――
「おぉ～！ 調伏完了って字が見えます！」
「やったじゃん！ あかり！」
「やったな藤沢！」
「へへへ……」
私の足に嬉しそうに頭蓋を擦り付けるポリスを見て思った。
闇のＥＸ適性は本意ではない、魔獣使いという職も……。
でも案外、悪くはないのかも……。
「よぅーし、モンスターも残ってないようだし、クエスト完了だな！」
七瀬さんが満足気にうんうんと頷き、ツインテールが揺れる。
「やったー！」
私はエリナとハイタッチをして、飛び跳ねた。
ポリスも一緒に飛び跳ねている。
ちょっと待って……。
この子、どうなるんだろう？
「あ、あのー……」
「どうした？」
「この子、どうすればいいんですか？」
私は雷堂さんに尋ねた。
「あ、そうか、忘れてたな。えーと、七瀬、厩舎使えるよな？」
「うむ、使えるぞ」
「よし、街にある学校が所有する厩舎に預けよう」
「厩舎ですか？」
そんなものがあるんだ……。
「ああ、捕獲した魔獣や、調伏したモンスターを預けておく場所だ。生徒のうちは無料で使うことができる」
「へぇ～」
なるほど、それは便利。
「良かったね、あかり」
エリナが微笑む。
「うん！」
「よし、長居は無用だ。レベルも上がってるだろうし、厩舎で確認しよう」
「はい！」
私達は遺跡を後にして、レムリアの街にある厩舎に向かった。
ポリスは尻尾を振りながら後ろを着いてくる。
意外と可愛い奴……。
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