表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/32

第18話 先輩

5/18 16話の二人がギルドに入った箇所から一部改稿しました。

   17話の細かな表現などを修正しました。

「ふぅ……、ったく。アブねぇ。油断してたぜ」

 ウォルフが起き上がり、シンが手を貸す。

「ああ、結構ダメージを喰らった。バーバラ、回復を頼む」

「ええ」


 バーバラは両手をウォルフに向け、詠唱を始めた。

 ――聖なるイシス、我ら傷つき者に癒やしの加護を……ケアヒーリング!

 青白い光がウォルフを包み、背中の傷がみるみるうちに塞がっていった。


 ウォルフは「やれやれ」と肩を回し、「丁度良い、針を回収しよう」と立ち上がった。

 辺りにはキラービーの死骸と、あかり達が横たわっている。


「……殺ったの?」

「いや、さすがに……俺もそこまで落ちちゃいねぇよ」

 シンが吐き捨てるように言った。

「ちょっと、可哀想な気もしないでもないわね……」

 バーバラがため息交じりに言うと、シンが「よせよせ」と手を振る。


「同情してる暇はない。今日中に納品しないと、俺たちが殺されちまうんだぞ?」

「え、ええ、そうね……」


 三人がキラービーの針を回収していると、辺りに黒い霧が流れ込んできた。


「ん? なんだ?」

「変ね……ブラインは解除されてるはずだけど」


「お、おい、あれは何だ⁉」

 ウォルフが手斧を構えた。


 そこには、黒いゴシックドレスを纏った女が立っていた。

 異様なまでに整った顔立ちは、どこか人形のようで青白い。

 後ろで綺麗に編みこまれた髪は、瞳の色と同じ金と黒の二色に分かれていた。

 女は森の奥から音もなくシン達に歩み寄る。


「ここで何を……?」


 突然、耳元で囁かれたような声。

 無表情でこちらを見据える瞳に、シンは背筋に冷たいものを感じた。

「魔人か⁉ いや、こんな森にいるわけが……」


 女はゆっくりとシン達に近づく。


「もう一度だけ訊きましょう。ここで何を?」


 女から只ならぬ気配を感じ取ったシンが叫んだ。

「バーバラ! ウォルフ! やるぞ!」

「お、おぉ!」


 三人は逆三角形に散開し、距離を取った。

 バーバラは後方に下がり攻撃魔法の詠唱を始める。


「よし、ウォルフ、いつもので行くぞ!」


 剣を抜き、シンが女に斬りかかった。

 その横からウォルフが手斧を振りかざし、女の死角から振り下ろす。


 シン達にとって、幾多のモンスターを葬ってきた必勝の連携技だった。

「もらったぁーっ!」

「むんっ!」

 ――が、剣と手斧はむなしく空を斬り、地面に突き刺さる。


「な⁉」


「愚かね……」

 女はそう呟くと、色違いの瞳をカッと見開く。

 ふっと力が抜けたように、シンとウォルフが崩れ落ちた。


「シン! ウォルフ!」

 詠唱を止めたバーバラが、何が起きたのかわからずに狼狽する。


「貴方は耐性があるようね……。命までは取らないわ、消えなさい!」


「ひ……、は、はいぃ!」

 バーバラは慌てふためきながら、茂みの奥へ走り去った。


「さて……、ルイス! ルイース!」


 女が声を上げると、あかりの身体の下からルイスがポンっと飛び出た。


『あーっ! カミラ! うわーんカミラだーっ!」

 ルイスはカミラに飛びつき、ゴロゴロと喉を鳴らす。


「ええい、暑苦しい! 離れなさい!」

『だってぇ……』

 カミラはやれやれとルイスの頭を撫でた。

「この子たちと契約したのね?」

『う、うん……、だって待ってたのに、カミラが来ないから……』

「それは……悪かったわ。それより、あんたが付いててこの有様は何⁉」

『……ごめん』

 しょんぼりするルイスを横目に、カミラはあかりとエリナに手を翳した。


 ――メ・ディアリー。

 

 真っ白な癒やしの光が二人を包んだ。


 ***


「……」

「ん……あ、あれ?」

 ……私、どうしてたんだろ?

 気づくと隣のエリナと目が合った。

「エリナ……」 

「あかり! あれ? どうなっちゃったの……?」

 周りを見るとそこら中に、黒く焦げたキラービーの死骸が転がっていた。


「う、うわぁ……」

 エリナが嫌そうに顔を顰める。

 ふと、振り返ると、見知らぬ綺麗な女の人が立っていた。

「え⁉」

 しかも、横にはルイスも……。

「ちょ、ルイス?」


「目が覚めた? 私はカミラ。ごめんなさいね、この子、もう少し役に立つと思ったんだけど……」

 ルイスはくるっと背中を向けて身体を丸めた。


「カミラさんって、あの……」

 確か雷堂さんが言っていた、先々代の部長さん?


「ふふ、大丈夫よ、敵じゃないわ」

 横たわるシンとウォルフをちらっと見た後、

「一応、あなた達の先輩になるのかしら」と微笑んだ。


 慌てて私とエリナは頭を下げた。

「あ、ど、どうも……藤沢明里といいます」

「お、お疲れさまです……私は、有薗エリナです」


「そんなに固くならないで。もう大丈夫だから」

 カミラさんが指を鳴らすと、どこからともなく黒い影が現れて、シンとウォルフを連れ去った。

「え……?」

 突然の事で思わず声が漏れた。エリナも隣で驚いている。


 パンッと手を叩いたカミラさんが、

「はい、これでもうおしまい。駄目よ? 変なのにホイホイ付いてくなんて」と言った。


「す、すみません……」

「でも、ありがとう。この子を見つけてくれて」


 カミラさんは優しくルイスを撫でる。

 その金色と黒色の美しい髪は、ルイスの毛の色と同じだった。

 召喚者の特徴も、何か関係あるのかも知れないと私は思った。


「い、いえ……私は何も」


 ふと、カミラさんが、私とエリナを覗き込むように見た。

「ふーん、二人とも良いものを持ってるわね?」

「いえ、そんな……」

「まだレベル2ですし」と、エリナも答える。


「あら、私は『鑑定』スキルを持ってるから嘘じゃないわよ? だから、そんなに焦らなくても大丈夫。ね?」

「は、はい!」

 優しく包み込むような言葉に、私は思わず胸が熱くなる。

 エリナの顔を見ると、私と同じことを思っているのがわかった。


「さ、いつまでもこんなところにいても仕方ないわ。私の家にいらっしゃい」

「え? いいんですか?」

「ふふ……、少しは、先輩らしいところを見せておかないとね?」

 そう言って、カミラさんがパチンと指を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ