第11話 ビギナーズカード
簡易戦闘実習を終えた私たちは着替えを済ませ、部室で反省会を行うことに。
部室の隅のパーテーションで区切られた一角で、私とエリナと雷堂さんは会議机を囲んで座った。
「まずは、実習おつかれさん」
「お疲れ様です」
「おつかれー」
「じゃあ、早速だが実習で気になったところはあったか?」
私はエリナと顔を見合わせた。
実習では、あまり良いところを見せられなかったもんなぁ。
ここはアピールしておかないと。
「あ、じゃあ、私から。えーと、私の役割は緊急事態に備えてブラインを使うことでした。キメラドック戦では使わずに済みましたが、その後のフライングエッジ戦では、勝手な行動を取ってしまって、その、反省しています」
私が言い終えると、雷堂さんは何やらうーんと頭を掻きながら言った。
「藤沢、それはもういい。俺が聞きたいのは、形式的な反省ではなく、実習で気になったことはあったのかってことだ」
「え、あ……」
思わず顔が熱くなった。うー、は、恥ずかしい……。
私が小さくなっていると、エリナが口を開いた。
「そういえば……、自分のMP残量とか、いちいち端末で確認しなきゃいけないのかな?」
「お! いいぞ、そういうのが欲しいんだよ」
雷堂さんは、うんうんと頷きながら説明を始めた。
「いいか? MPや自分のステータスを確認する方法は二つ。一つは、端末を確認する方法。これはわかるな? まあ、通常時なら別段問題はないんだが、戦闘時に端末をいちいち確認するわけにもいかない。で、ちゃんとそういう時のための魔法がある」
「魔法?」
「そう、まあ形式上、そう区分しているだけだ。MPの消費はないから安心してくれ。じゃ、二人とも、『ステータス・コール』と頭の中でもいいから唱えてみてくれ」
私とエリナは頷き、それぞれ「ステータス・コール」と言った。
「あっ!」
「うわっ!」
目の前に、明るい緑色の字でステータスが表示されていた。
端末の画面がそのまま反映された感じだ。
「出たか? それがステータスだ。消したい時はそう思うだけで消える。あと、手で触れると端末のように扱えるぞ」
「ほんとだー」
私はステータスをじっくり見ていた。
レベルは実習の戦闘を経て2に上がっている。
フライングエッジは逃げたからEXPは入らなかったのか……。
「よし、他に何かあるか?」
「ステタコでも出るね」
「え?」
私と雷堂さんは同時に声を漏らした。
「ステータス・コールじゃなくて、ステタコでも出るよ。こっちの方が早いし可愛い」
エリナは、どこか自慢気な笑みを浮かべている。
私もステタコで試してみると、ちゃんとステータスが表示された。
「うわ、ほんとだ!」
「こりゃ、確かに早いな……。うん、これは後で部の皆に共有させてもらおう」
「へへへ」
やっぱエリナは凄いなぁ……。
あ、そうだ!
「あの、副部長。次はいつ向こうに行けるんですか?」
私の言葉にエリナも隣で頷く。
「ああ、もう、いつでも行けるんだが……、向こう側から来た客人(異世界の住人)に、移動制限が掛かるのと同じで、最初は俺たちにも制限がある」
そう言って、雷堂さんが机の上に地図を広げた。
地図には大きな大陸が記されていて、雷堂さんはその大陸の一部分を指差す。
「いいか、アーカイムに入り口は一つ。向こうに渡る時、冒険者たちは例外なく、このレムリアを経由する。最初は、この街から先には行けない。ちなみに、商業許可の場合は移動が認められているが、狩りや探索は禁じられている。」
「レムリア……」
うわー、どんな街なんだろう?
人は多いのかな? 魔物とか出たり?
「レムリアは、実習で行った草原を越えた辺りにある。ま、港街みたいなもんだな。屈強な警備兵も常駐しているし、こっちの世界の冒険者も多く滞在している。商売も盛んだ」
「早く行ってみたいなぁ~!」
「うんうん」
「当分の間は、実習で行った草原か森でレベルを上げることだな。ちなみにレベル10を越えれば、レムリアでこういう許可証が貰えるんだ」
雷堂さんが胸元から赤いカードを取り出して見せた。
「これが"アーカイム旅客証"だ。色は持つ者のレベルによって変わる。俺は38だから赤、11~20までは黄色、21~30までは青、といった感じだな」
「おぉ~」
私とエリナは食い入るように旅客証を眺めた。
ほ、欲しい! ふわ~、いいなぁ~。
「レベル10までの人は何かもらえたりする?」
エリナがそう尋ねると、雷堂さんが嬉しそうに笑い、「ほらっ」と二枚のカードを見せた。
「それは……?」
「ウハハ! 実習が終わったからな。探索部で発行しているビギナーズカードだ、これがあ……」
「やったーーーーーーっ‼」
私とエリナは雷堂さんの手から野良猫のように素早くカードをもぎ取る。
「こ、これが……」
ハァハァしながらカードを見た。
名刺サイズで色は青、真ん中に黄色いラインが入っている。
パッと見、TATSUYAのカードみたい。
「ほら、ちゃんと名前も入ってる~」
「ほんとだ、至福だわ~」
エリナと互いにカードを見せあっていると、雷堂さんの咳払いが聞こえた。
「オホン! もういいか?」
のわっ、副部長の存在を忘れていた!
「あ、す、すみません、つい興奮してしまって……」
「まあ、気持ちはわかるさ。そのカードがあれば、あの扉を開けることができる。扉の横にカードリーダーがあるから、そこに通してから入るように。向こうでは、そのカードが身元を保証してくれるからな、大事にしろよ」
「へぇ……」
私がカードを見つめていると、雷堂さんは机の上の地図を畳みながら言った。
「じゃ、くどいようだがカードは失くすなよ? 再発行はできないからな。それと……、明日以降のプランも各自考えておくように。では今日はここまでにしよう、お疲れさん!」
「お疲れ様でした」
雷堂さんが席を離れると、エリナが「じゃ、今からウチでミーティングね」とにんまり笑って、カードをひらひらと揺らした。