第四章 婚約者ができました!?~1
『すみません、お待たせしました。』
パーティー会場に着くとかなりの人が集まっていたのが見えた。その会場を見渡せる所に玉座があり、そこにはこの国の国王、僕の父が座っている。
その横には、僕の母リゼリアが目立たぬよう小さく椅子に座っていたが、着飾った美しい母は意図せず目立ってしまっている。
そんな二人に挨拶を済ませると僕も用意されていた椅子に座った。
「カイル、また逃げ出したそうですね。
あまり、陛下や使用人達を困らせてはいけませんよ?」
リゼリアがどこからか聞いたのかコソッと小声で怒られた。
チッ…誰だ告げ口した奴は…あとで覚えてろよ…
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ゾクッ
「ひっ!?」
「ん、どうしたんだ?」
「い、いえ、なんかいきなり悪寒が…」
「風邪か?この頃流行ってるようだから気を付けるんだぞ」
「は、はい…でも風邪とは違うような…?」
どうやらリゼリアに報告したのは、カイルが先ほどからかっていた使用人君のようだ。
まさか知らず知らずにやり返してたとは、気付いてないこの使用人君がカイルと深く関わりあうのはまだ先の話である。
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「うむ、皆揃ったようだな。
カイル王子よ、皆に挨拶をしなさい。」
『はい、国王陛下。』
椅子から立ち上がり、父にスッと頭を下げるとお祝いに来てくれているご来賓客達の前に出て、にっこり微笑む。
『この度は、僕の生誕パーティーに来てくださりありがとうございます。皆様のおかげでこの様なパーティーを挙げていただける事、深く感謝申し上げます。』
右手を胸に持っていき、優雅にお辞儀をする。
顔を上げるとパチパチと拍手喝采が起きる。
「おめでとうございます!カイル王子!!」
「今年も素敵な挨拶ですわ!」
「なんと聡明な方なんでしょう!」
『では、皆様最後までゆっくり楽しんで下さいね!』
にっこり笑って後ろに下がるその際、父の顔を見るととても誇らしい顔をしていた。そしてその横の母は、うっすらと涙を浮かべ微笑んでいる。
毎年同じ反応…そんなに喜ばなくとも…
この人達は、本当に親バカだと思う。
でもそんな二人が嫌いじゃないから僕も大概だと思うけどね?
「カイル王子よ一通り挨拶回りをしたら紹介したい者がいるので謁見の間に来るように」
そう言って父は、城の中へと帰って行った。
会わせたい者?一体誰なんだ??
なんとなく不安を感じたが、父の言う通りにとりあえず挨拶回りを済ませようと思った。
「カイル王子?ちゃんと逃げずに王子としての務めを果たして下さいね?」
そうリゼリアに釘をさされたので尚更逃げられない。
普段は、おどおどしているリゼリアだが王族と貴族のルールとなると厳しい人だ。
『はい、母上…とりあえず行ってきますね』
僕は、未だにパーティーとか人が集まる所が苦手だ。
寧ろ前世で入院生活が長かった自分が、これに慣れろというのが無理な話なんだ。
「カイル様、おめでとうございます。
あちらに挨拶がしたいとルーベンス公爵がお待ちです。」
いつの間にか近くに来ていたジェイルが指す方向を見ると中年の太った渋格好いいおじさんとカイルとさほど変わらない年の少女がこちらを見てニコニコしている。
『はぁ…ジェイル帰っていいかな?』
「ダメですよ。またリゼリア様に怒られますよ?」
『まさか、母上に逃げ出したこと告げ口したのは、ジェイル?』
「違いますよ。」
『ふーん、…はぁ、ルーベンス公爵苦手なんだよね~』
憂鬱に思いながらも、待たせるとまたリゼリアに小言を言われるのでルーベンス公爵の元に向かう。
『ルーベンス公爵、こんにちは。』
「カイル王子!八歳の誕生日おめでとうございます。」
人良さそうな笑みを浮かべるルーベンス公爵。
『ありがとうございます。』
にっこりと微笑む。
「あ~カイル様ぁぁぁあ」
そう言ってルーベンス公爵の横にいた少女がカイルの腕を取り引っ付いて来た。
ピクッ
周りの目が厳しくなり一瞬にして場の空気が凍り付く。
『やぁ、いつも元気だね…ルベルナ嬢』
「もぅ、カイル様ぁ~ベルのことわぁベルって呼んでくださぁい」
頬を赤らめ上目遣いでルーベンス公爵の一人娘であるルベルナがそう言ってきた。
「なっ!?」
「なんて礼儀知らずなの!?」
「婚約者でもないのに図々しい!!!」
周りのご令嬢が批難の言葉を口々に言っている。
まぁ、周りの反応が普通なので何とも言えない。
貴族が王族に対して挨拶も無しに腕を絡め、しかも愛称で呼ばせようなどあってはならないこと。
この世界で愛称を呼ばれると言うことはよほど親しい友人か婚約者又は伴侶ぐらいだろう。
『申し訳ありません。何度も言ってますが…ルベルナ嬢とは、そこまで親しくないので呼べません。』
え?ひどくない?って…否、最初の頃は曖昧に遠回しに言ってましたよ?
でもこの手のタイプの子にははっきり言わないとダメだと去年の時の経験で痛感しているので今年は、はっきり言う事にしたんですよ、はい。
「う?したしくな…い?
ベルわかんなぁ~い。こんなにもぉ、カイル様とベルはらぶらぶなのにぃ~」
この子…本当に七歳なのか…?
頭が悪い振りをしているけど本当はいいだろう!?
天然ぶりっ子とは、違う…計算されたぶりっ子だ。
自分の地位を知ってる上での計算だろうとカイルは思った。
ルーベンス公爵家は、この国に大きな利益を与えてくれる大三家の一つ。なのでちょっとした事は許される貴族なのだ。
これが、ちょっとした事なのかは疑問に思うのだけど…。
でなければ、王族にこんな態度を取った時点で不敬罪で罰される。
ルーベンス公爵もそれを分かっているので礼儀がなってない娘を怒らずニコニコと見ている。
クソッ!この狸親父ぃ~!!
『ルベルナ嬢…申し訳ないのですが…まだ他の方に挨拶が済んでいませんので…』
「いやぁ!今日わぁ~カイル様とベルで一日中おどるのぉ~
他の人わぁみないでぇ?」
『こ、困りましたね…』
つうか、普通に喋れや!うざいよぉぉぉお!!
そしてジェイル!振り向かなくとも分かるその殺気を消してぇぇぇ!!!!
ルベルナは、かなり可愛い容姿をしている。
大きなタレ目にプルンプルンの厚い唇…髪と目の色は澄んだ空色で守ってあげたいと思わず思ってしまう、しかしこの性格のせいで半減だ。
誰か助けて~
そんな思いが通じたのか救いの手を差し出してくれる女神が現れた。
「ルベルナ様、ルーベンス公爵家のご令嬢がそんなはしたない事をして恥ずかしくありませんの?」