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旋と律のシンフォニー  作者: 杉 薫田
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桜の花は咲いたのか カノン

2月を迎えると高校の受験で学校でのクラスの様子は それまでの のんびりムードは一変して受験に一直線の張りつめたような空気に教室が支配される様になった。


 推薦入試でいち早く合格を決めた者は そのピリピリした友人たちを授業の中で笑いを誘うような癒し役になった様にふるまい 張り詰めた雰囲気と空気を和らげていたが、やはり高校受験いう人生の大きな節目を迎える中では友人たちの笑い顔も本当に心から楽しんでいるようには見えなかった。


 私立高校の入試が始まり、旋も目標とする高校の合格突破にまっしぐらとなっていた。


 公立王国と呼ばれる愛知県においては 公立高校に有力な進学実績のある高校が多く存在し、中学生たちも地元の公立の進学高校を目指す友人が少なくなかったのだが、旋が目指したのは 名古屋にある私学の有力4校の一つ名古屋城北高校を第一志望校として進学を目指していた。


 三河の田舎町から出て名古屋という都会の高校に進みたいとあこがれを持ち考えるようになったのは ラジオの深夜放送で都会の高校生たちが高校生活をエンジョイしている様子を垣間見たことにもあり、多くの友人たちが目標とする公立高校の生活で感じる堅苦しそうな雰囲気よりも 私立高校の持つ独特の個性と明るさ、校舎の設備や制服の魅力に魅かれたところも強かった。名古屋城北大学の付属高校というのも魅力的で、高校に進学することで大学へのエスカレーター的な進学が有利になることも大きな理由でもあった。有力な私立大学の付属高校への進学は、大学受験という3年後を考えても大学への進学受験という壁が一つ消える可能性を意味していることも大きな理由でもあった。


 公立高校の受験日程の一足前に行われる 私立高校の受験は2月の中旬に迫っていて受験勉強も佳境を迎える様相を見せていた。連日のように夜が更ける深夜1時、2時まで受験勉強に打ち込む日々が続いていて 机の横に置いたラジオカセットから聞こえてくる深夜放送の音楽とラジオ内でのパーソナリテーのおしゃべりを勉強のBGMとして聞くことだけがささやかな楽しみとなり、特に週末の土曜日の朝の東京ナイト・フレンドの放送は特別な時間となっていた。


 年末の放送から時々登場し、その出来事について盛り上がった 秘密のメロディーに起きた学校でのいじめ事件のトラブルの話題は 放送の中で取り上げられることも次第に少なくなって来ていたが、秘密のメロディー自身はいじめにあった学校のクラスに踏み入れる事が出来ない気持ちの中で葛藤している様子が伝えられ、週に2~3日は登校はしているものの 学校側が用意してくれた保健室に置かれた机で自習し、下校するといった学校生活をしていることが伝えられていた。


 私立の女子中学という環境の中で学校を放校され退学をもとめられるケースもあるようではあったが、秘密のメロディーの父親が地域の有力者でもあり 有名人の一人でもあった様で特別待遇ともいえる中で、特殊な中学生活の最後を送っている様子が伝えられていた。

 放送の中で聞いた秘密のメロディーの思いに対して 旋もこれまでに数通の感想の葉書を送り、何度か放送の中でりょうたんの目に留まり読まれたこともあったが、その思いが本当に秘密のメロディーに伝わり、置かれている状況の中で彼女の心に響いたかどうかを知ることはできなかった。 


 旋の高校受験の前の週 2月2日の土曜日の放送では秘密のメロディーから 怪傑黒頭巾に向けての高校受験への励ましのメッセージが伝えられた。


「怪傑黒頭巾君をはじめ 全国の受験生の皆さん高校受験頑張ってくださいね。私は高校受験には関係のない立場なんだけれど、みんなの頑張りを心の中で願っています。」


というメッセージで 怪傑黒頭巾という名前が前面に出された応援メッセージは旋にとって最も心強い応援の言葉となった。


 高校受験は無事に終わり、旋の元に高校の合格通知が届いたのは2月の中旬の事だった。


 クラスの友人たち全員の進路が決まるまでにはまだ1か月ほどの時間が必要だったが、小学校から中学校へと9年間一緒に過ごした仲間たちとの別れの日が近づいて来ていることだけは間違いなかった。


 2クラス全員で80名ほどの地元の小学校からの同窓生たちの間には 隠すこともできない数々の思い出が詰まっていて、友人たちには良い事も悪い事も、旋の性格や考え方さえも把握されている様に感じてしまうし、中学校で一緒になった 4つの小学校から集まった300人近い同窓生たちとは部活動をはじめとして数多くの3年間の思い出を共有してきた。


 初恋もしたし 告白をして玉砕した事もあった。取っ組み合いの喧嘩もしたし、テストの成績でひがみ合ったり ライバル意識を覚えたこともあった。大きないじめ事件は旋の廻りでは表立って起きてはいなかったように感じられたが、友人たちとの間では少なからずの小さないじめや 仲間割れ、ハブされたと感じられたこともあったであろうと感じられることもあった。


 15歳の春は 「青春」と呼ばれる人生の季節の中ではまさしく 成熟し作物が赤く実る前の 青い時代そのものだったかもしれなかった。

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