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旋と律のシンフォニー  作者: 杉 薫田
11/14

出会いのリクエストカード コンチェルト

「東京ナイト・フレンド リスナーファン感謝祭」は月曜から土曜日までのパーソナリテーDJが舞台に上り、放送では語られることのない番組の裏話や、いつもは表に出ることも無いプロデューサーなども登場して、盛り上がって行った。


 会場には1000人以上のリスナーが詰めかけているのだろうか、番組の開始以来の有名なリスナーの名前や エピソードが伝えられる中で 笑いと胸を打つような演出の数々に彩られて催しが進められていった。


 このファンの集いの中でのメインイベントともいえるプログラムは いつもはラジオネーム同士で語り合っているリスナーが初めて顔を合わすことが出来る 「出会いのリクエスト」のコーナーだった。


 3週間ほど前から告知された この出会いのコーナーはその後 世間では「ねるとん」と呼ばれた 気になった人同士を結びつけるお見合い番組を先取りしたかのようなプログラムで 番組の中で一度は会ってみたいリスナーにその希望を書き、それぞれの希望がマッチングした時にステージの上で対面すると言う画期的な演出だった。


 東京ナイト・フレンドという深夜放送が始まって5年余り 今回で4回目を迎えるリスナーファン感謝祭の中では この「出会いのリクエスト」のコーナーによって結ばれ 結婚したと言われるリスナーの伝説も有名で、この演出の最初には この噂のカップルがステージに招きあげられてそのストーリーが紹介された。


 出会いのリクエストのコーナーが楽しいところは いつもの番組へのリクエスト葉書に書かれる文面とは全く違ったリスナーの素顔が見られるところで、寄せられる葉書の内容からは乙女チックで誰からも愛される様な少女の本当の姿が 実は筋肉隆々の男性であったり、逆にあまりぱっとしない様な根暗な葉書が多い手紙の主が超可愛い美人だったりして司会者をドギマギさせたりしていた。


 2年ほど前のファンの集いでは 舞台に登場したリスナーが実は人気の歌手で、来ていた人たちを驚かせたこともあった。


 出会いのリクエストでは 双方からの希望がマッチしなければ舞台に呼び出されることも無く、片思いに終わってしまう事も少なくなかった。それに 思いが通じ合っても このファンの集いに参加していなければ残念ながら出会いが叶わずに寂しく舞台から去っていくという事も多く 簡単な出会いの場ではなかった。


 メインイベントともいわれる「出会いのリクエスト」のプログラムが始まり 会場は最高の盛り上がりを見せる事となった。


 月曜日の番組担当パーソナリテーからのマッチングの呼びかけが始まり、名前が呼ばれるたびに会場は大きな歓声に包まれた。リクエストカード常連的なよく知られるリスナーが呼ばれると一層会場が沸き返り その相手が異性ではなく、同性の男性同士だったり、女性同士の出会いの場であったりするとため息が出されることもあった。


 19歳の誰が見てもあこがれを抱くような かっこいい大学生がステージ上に呼び出され、だれがマッチングしたのかとみていると そこに呼び出されたのは ラジオネームで誰もが知っている有名な女性で 開場は多くのリスナーが息を凝らしてステージを見つめる中で舞台に上がったのは 大学生のお母さんと呼んでも良い様な品のよさそうな女性だった時には 会場全体が何とも言えない和らいだ雰囲気に包まれることとなった。


 司会者の軽妙で楽しいトークの中で会が進み いよいよ土曜日担当のりょうたんがステージに登場する時がやってきた。


「今日のリスナーファンの集いでは 昨年の出会いのリクエストを上回る15組のリスナーの出会いがこれまでに誕生しました。では 次に土曜日のりょうたんに登場してもらいましょう。」


司会者に紹介されて ジーンズにTシャツ姿のりょうたんがステージの上手から現れると 土曜日のリスナーを中心にしたと思われる熱狂的なりょうたんファンの黄色い奇声が沸き上がり、指笛のヒューヒューという歓声も交じってこれまでのパーソナリティーのなかでも最も大きな盛り上がりを見せる事となった。


「オッス りょうたんで~す!」


挨拶にまた改めて大きな歓声が上がった。


「さて 土曜日の出会いのリクエストでのマッチングを発表したいと思います。」


ちょうど りょうたんがステージに上がった時 西の空から迫っていた夕立の雲から パラパラと雨が落ち始め 野外の日比谷音楽堂は色とりどりの雨傘が一斉に開き始めた。


「イイ男は 水も滴るって言うけれど、本当に雨が落ちて来たね。まあ 気持ちの良い雨だからみんなも負けずにノリノリで行こうな!」


「お~~~ 」


といううねりの様な会場の反響がりょうたんに返され、会場の雰囲気は一層盛り上がることとなった。


「実は、土曜日のリスナーからは1組だけのマッチングとなってしまいました。でも その女の子への出会いのリクエストは今年の全ての曜日を通じて最高の56人からの申し込みがありました。」


「すげー 誰だ?」


 会場全体から大きなどよめきのような声があがった。


「それでは サタデーナイトの出会いのリクエストの注目の人を発表します。それは『秘密のメロディー』さんです。」


「秘密のメロディーさん 今日、会場に来ていますか?」


 驚いた・・・、旋の心の中の鼓動が爆発しそうなくらいどきどきした。


「は~~い」 


 日比谷音楽堂の大きなアーチを描く右端の方から澄み切った声が響き渡った。旋は降り続く小雨の中で色とりどりの開いた傘の間からステージに向かう秘密のメロディーの素顔を始めてみる事ができた。ピンク色の花柄のワンピースにロングのボブヘアーがよく似合ったアイドル歌手のように見える可憐な少女の姿がそこにあった。


「それでは、秘密のメロディーさんが今日、一目会ってみたい、注目のリスナーを発表したいと思います。会場に来てくれているのかな ?」


「その人の名前は・・・・」



『ドドーン バチバチバチ・・・』



 りょうたんが相手の名前を呼ぼうとしたとき、野外音楽堂はまばゆいばかりの閃光に包まれ、同時に耳を切り裂くような雷鳴に覆われた。野外音楽堂のすぐ横にある日比谷公会堂の避雷針に落雷があったようだった。


 会場では雷鳴のすさまじい音と襲われた振動に共鳴するように 「きゃー」という多くの女性たちを中心にした悲鳴がいたる場所で響き渡った。


 ステージ上では 慌てふためくスタッフたちが走りまわり、会場全体が雷の襲来に戸惑うように参加者たちは壁際や出口へと先を争って走って移動し始めた。会場は落雷の影響から大きな混乱となり、雨もシャワーの様な大粒の物となり すぐに天候が取り直す様子も見られないものとなった。


「来場者のみなさん このような天候ですので 残念ですがこれを持ちましてイベントを中止といたします。お気をつけて退場をお願いします。」


 司会者の挨拶もそこそこに イベントは打ち切られることとなった。


 打ち切りとなった東京ナイト・フレンド・ファン感謝祭に大きな心残りを残しながら 旋は会場を後にした。夕立の滝の様な大雨に打たれ 持ち合わせていた折りたたみ傘ではその雨から体を防ぐことは出来ずに、旋の着ていた服はほとんどが濡れてしまい、地下鉄の霞が関の駅に雨から逃げ込んで、リュックサックに入れて持って来た着替えのシャツに着替えるしかなかった。


 雨に濡れた旋の体は冷え切っていたが、その体以上にファン感謝祭で初めて見た秘密のメロディーの姿が頭に焼き付いて離れる事が無かった。そのことは胸をいっぱい温めていつかは改めて再会してみたいと強く心に念じた。


 あのとき りょうたんが呼び出そうとした出会いのリクエストのマッチング相手は誰だったのだろうか?


 旋にとっては心の片隅に残る大きな疑問として残った。56人もの人が秘密のメロディーを指名したと発表があったことから、自分が選ばれた たった一人のマッチング相手であったとは思えなかったが、淡い期待だけはあの時、心に押し寄せていた。雷が鳴り響くのがあと5秒だけ遅かったならおそらくマッチング相手の名前が発表されていただろう。


もしも それが旋の名前だったなら・・・・

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