第80話 常夜の姫と常夜の民、そして開戦
「先程は無礼を働きまして…誠に申し訳なく…」
さっきから津島は喜多嶋に謝り倒している。
「もういいって。アレでしょ?私がブスになったから気づかなかったんでしょ?こいつみたいに!」
喜多嶋は大村頰をつねって引っ張った。大村は真顔だ。
「滅相もございません!転生されても姫は姫でございまして…その…」津島は俺を見た。
「なにしのぶちゃんと見比べてんのよ!」喜多嶋が大村の頰をさらに引っ張った。大村は真顔のままだ。
「ヒィ!す、すいません!」
「もう許してあげて…」真理衣が大村を見ながら言った。喜多嶋は不満げなまま手を離した。
「…君は魔法の世界に転生したんですね。月虫君」赤い頬のまま、大村は津島に微笑んだ。大村は明らかに30代、津島は50代だが、立場は大村の方が上の様だ。
津島は、前世で大村の部下…巫女の護衛隊の副隊長だったそうだ。外法の扱いに長け、外法が苦手な大村の腹心として活躍していたらしい。
「常夜の転生者が貴方なら、もっと早く会えばよかったわね…でも、転生って残酷ね…貴方、私と同い年くらいだったのに。今は倍くらい?」
「はい。55歳になりますね…」
月虫ことエドガーこと津島は、やはり喜多嶋と同じタイミングで死に、ガルガトルに転生。そこで前世の記憶を取り戻した後でエルヴィンに出会い、エルヴィンから髑髏斎の術式を知ったらしい。
「…皆さんすごいですね、転生前の上下関係がずいぶんとしっかりしてる」
加藤先輩は感心している。
「常夜からの転生者は特殊でね」津島はまた教師の様に振る舞い始めた。喜多嶋は腕を組んで彼を見ている。
「常夜の外法師と巫女様は、魂を扱い、自らの魂も削って術を使う。そのためか、常夜の民はとりわけ魂の力が強いのだ。記憶は脳だけではく、魂にも刻まれる。我々は、強い魂を持って転生するため…前世の記憶を取り戻せばほぼ確実に、前世の人格が強く出るんだ」
…今の俺の状態に近い。俺の魂に刻まれた記憶が、加藤先輩と再会する機会を作ってくれたのだ。
「前世の記憶って、事実としては分かるんだけどそこまで実感ねぇなぁ…」加藤先輩は頭を掻いて、煙草に火をつけた。
「それが普通だ。全ての前世を思い出すのは、何人もの人生を一度に背負っているのと同じ。苦痛になるだろう。我々常夜の民ですら、次の人生になれば常夜の記憶はすっかり忘れるはずだ」
この身体の前の持ち主…コルネリアはどうなんだろう。何度も記憶を取り戻しているが…彼女の場合、前世は忘れてコルネリアの記憶しか戻らないとナターリャが言っていたか。
しかし、なぜこんなにも前世を思い出す人間が沢山いるのだろうか。
皆、誰も信じないと思って言わないのか、それとも…
「で。髑髏斎は転生してるの?どうなの?」喜多嶋は津島を睨む。高圧的だな…
「この世界での行動を見るに、おそらくエルヴィンが髑髏斎の協力者でしょう。そして…髑髏斎も、この世界にいると私は考えています。これだけしっかりと人を操る傀儡の外法…他に思いつきません。松本電機に何らかの形で関わっているはず」
「参ったわね…何か手は考えてあるの?」
「松本電機へ侵入となると、それこそ…」
津島は加藤先輩をチラッと見た。
「協力者がいない事には」
「…やりますよ」加藤先輩が応えた。
「先輩、危険です」
しかし、俺がそんなことを言っても、聞く人ではない。先輩はニヤリと笑う。
「面白そうだろ。それに、お前に協力するって言っただろ。ようやく先輩らしく、お前の力になれるぜ!」加藤先輩は力こぶをつくった。
「私も、等々力課長から色々探ります。しのぶさんは有給で休んでて」真理衣も乗り出した。
「みんな…」
この日から、俺たちの戦いが始まった。
第2章 完結…
2章完結です。ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
増えまくった転生者達、なぜ大企業の総務課長が好き勝手に転生者を集めたのか、神の力、外法、世界の秘密、そして魔女王コルネリア。
ここまでに出てきた様々な謎は次章で再び取り上げられ、明かされて行きます。
三章もぜひご覧ください。




