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第78話 看護師 喜多嶋 水久

 挿絵(By みてみん)

マスターの大村は男性ですが、声優を当てるとしたらベテラン女性声優って感じです

「ミクさんが、姫ぇ!?」


「はい、ご存知ありませんでした?」大村は相変わらず高い声で応えた。


「初耳ですよ!じゃあその、外法師の世界でお姫様だったんですか?」


「ええ。鎮魂の巫女、常夜を統べる大国の長、水鏡(みかがみ)姫様です。私は彼の国で姫様にお仕えしておりました」


「そうなんですか…」


たしか、前世では抑圧され過ぎたせいで今は合コンに明け暮れているとか言ってたな。


「姫は今の生活を気に入っておられます。民と同じ様に働き、絶世の美しさも今は影もなく…」


影もなくは酷いだろ。俺は好きだぞ、ミクさんの顔。


「いやいや。彼女、そこそこのお顔じゃないですか。前世はそんなに美人だったんですか、あの子?」

加藤先輩がなぜか突っ込んだ。


「ええ。あまりの美しさと、その強大なお力を求めて毎日求婚の申し出があり、姫様はそのご尊顔を潰したい、お力も捨てたいとまで仰っておりました」


「へぇ…それはまた…」どんな顔だったのだろう。


「…しのぶさん?」真理衣がまた微笑み始めた。怖いよ!


「忍ぅ、カノジョの前でスケベ心出すなよ」加藤先輩は呑気に笑っている。


「出してませんよ!…でも、そんなすごい人だったら外法の一つも使えそうですけどね。今のミクさんは魂を見る事しかできないって…」


「…ええ。姫様は常夜の危機をお救いになり、魂の大半を使ってお亡くなりになりました。それでも外法は使えなくもありませんが…使いたくない、といいますか…」


「使いたくない?」


どういう事だ?


「私からはこれ以上は…」

大村は恐縮している。本人に聞いた方がいいだろう。


「救国の姫様、か。で、マスターは?」加藤先輩はすんなりと会話に馴染んでいる。いつから転生者の自覚があるのだろうか。


「私は姫がお亡くなりになる事を知らぬまま、同じ時に屋敷を守る戦いで倒れました…姫をお守りできなかった無念のせいか、

私は生まれてすぐ、前世の記憶を持っていたそうです」


「その後、この世界で偶然出会えたんですか?素敵ですね!」

真理衣は指を組んで祈る様なポーズをする。ぶりっ子なのか素なのかわかんないなこの子。


「ええ。ここに飲みにきた姫が、私の魂を見て私の前世にお気付きになられたんです。あの時は大声で泣きました。そして、今度こそお守りすると誓いました」


寡黙な大村が今日はやけに喋る。


「へぇ…本当に素敵…で、大村さんはあの人のこと好きなんですか?」真理衣がニヤニヤしながら聞いた。


「め、滅相もございません!姫はお守りこそすれ、私などが想いを寄せてはならぬお方…」


「おぉむらぁー!」


ミクさんが起きてきた。


「ひ、姫!」


「なにベラベラとよけーなことしゃべってんのよぉ!あたしはねぇ…あんたに…もっと…すぅ…」


喜多嶋は大村の肩に顎を乗せて寝てしまった。


「マスター、その子、あんたの事が好きなんだよ」加藤先輩は苦笑いする。


「まさか…!」大村は本気で驚いている。


「よかったな忍、お前より鈍い男がいて」


「なんすかそれ…」


大村は慌てて喜多嶋を寝かせに行ったが、途中で喜多嶋が起きてなにやら騒いでいた。


数分後、顔に引っかき傷を作った大村と喜多嶋が戻ってきた。


「ごめんごめん、かなり酔っちゃったみたいで…あはは…」


「ミクさん、俺らはいいんでマスターに謝って…」


ーーーーー


俺は喜多嶋に事情を説明した。


「なるほどね…まず、ケータイがつながらなかったのはただの電波妨害じゃない?相手は松本電機でしょ?」


「あ、まぁそうですよね…」


「でもね、加藤さんを操っていた傀儡の外法…というか、それを解除した津島って探偵の事が気になるわ」

喜多嶋は険しい顔をした。


「その男こそ、髑髏斎なんじゃないかな」

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