第71話 望まぬ再会①
「桃源郷の媚薬…ネットでうわさになってるのよ」
枡田からの意外な言葉。
桃源郷の媚薬は、この世界においても製法さえ分かっていれば作れる様な代物らしい。
そのため元仙人ならば、それを金儲けに使う事を考えてもおかしくない。
しかし、ネーミングくらい考えろよ。同じ仙人に見つかったらどうするんだ…
「で、しのぶはそれを飲まされたと考えてるのね?」
「たぶん…」
そう言った途端、枡田は俺の手を握って目を輝かせた。
「ありがとうしのぶ!手がかりが掴めそうよ!」
「ど、どういう事?」
「私ね…今、探偵をやってるの。それで、この媚薬で被害を受けた女性の依頼で、媚薬の出所を探ってて…」
「ちょっと待って。探偵?」
意外過ぎる。
「ええ、それでね」
枡田はサラリと話を続けた。まあいいか。
「媚薬がとある企業で出回ってるって情報を掴んだの。しのぶの勤め先、もしかして松本電機じゃない!?」
「え?いや、清光商会だよ?」
枡田の予想は外れたが…
松本電機と言えば、超大手の家電メーカーじゃないか。
「あれ?違ったの?う、うーん…あ、でもしのぶの課に、松本電機に出入りしてる営業マンがいるとか!」
「いや…私のいるところは中小企業専門だから」
「えー?どういう事ぉ?」
「…どういう事だろうね…あ。でも、それって私の心配事も解決できる内容かもしれない」
「え?」
「こっちでも調べてみるから、明日また連絡するね」
ーーーーー
夕方になり、とりあえず帰宅した俺は、真理衣が見舞いに来る事をナターリャに告げた。
「相手の気持ち、ちゃんと確かめるんだよ」ナターリャは達観した様な笑みを俺に向けた。
「なんだよ、急に歳上ぶって」
「まぁ、事実歳上だからねー。じゃ、ちょうどいいタイミングだし、私はエルヴィンの調査結果の確認をしに天界に行ってくるね。3日は戻らないから、その間に危ない事しないでねー」
そう言うとナターリャは消えた。
その数分後、チャイムが鳴った。
「はーい」
真理衣だと思ってインターホンのモニタも見ずに玄関を開けると、そこに立っていたのはしばらく会えていなかった男…
加藤先輩だった。
さっそく、危ない事をしてしまった…
ーーーーー
「よぉ、忍…」
「…えっと、どちら様ですか?」
加藤先輩は俺の事情どころか、死んだ事すら知らないはず。なぜここと、何より俺の事が分かるんだ!?
俺はドアを閉めようとする…が、加藤先輩は力づくでドアをこじ開け、中に入って来た。
「おいおい、ずいぶんか弱くなっちまったなぁ、忍ぅ」
加藤先輩の様子がおかしい。こんな人じゃないはずだ。
「警察呼びますよ!」
ナターリャの助けは来ない。
加藤先輩は玄関までの道を塞ぐ様に立っている。
…どうする?
「呼べるもんなら呼んでみろよ…繋がるか?電話…へへへ」
加藤先輩は不気味な笑みを浮かべている。
電話を見ると…
「え?」
圏外だった。
「そんな…」
「なぁに…大人しくついて来るなら命は取らねえ…他は、俺の自由らしいがな!」
加藤先輩は上着を脱いだ。
その気じゃないか!
「やめて…」
「ハッ!なぁーにがやめてぇーだ!女みたいな事言いやがって!」
加藤先輩が飛びかかってきた!
簡単に押し倒される。
「この…」
蹴りを入れようとした瞬間、加藤先輩は俺の脚を押さえつけた。
「おーっと、金的はルール違反だぜ、子猫ちゃん」
「うぅ…」
ブラウスを乱暴に脱がされた。
「ハハハ!ブラジャーなんか付けてんのか!元男のくせに!」
真理衣と一緒に買ったブラジャーを、こんな風に見られるなんて…
涙が溢れる。
「おいおい、本当に女だな!そそるぜ!」
ジーンズも乱暴に引き抜かれ、下着姿にされる。
「やめて…お願い…」
恐怖で小声しか出ない。
性犯罪はこうして行われるんだ…
真理衣…




