第58話 女神の娘②
「しのぶちゃんにはこのままでいて貰う必要があるのよ…」
「ええ!?男に戻す事ならできるって話は…」
「それは、時間稼ぎのデタラメね」
「そんな…」
「でも、出来るのはウソじゃないわ。用が済んだらあなたの身体、男にしてあげる。特別よ」女神は人差し指を立てた。
「なんだ。良かった。ありがとう。でも…用が済んだらってどういう…?」
「転移者を還すのに、実はあなたの身体に溜まった魔力を使ってるのよ。男に戻したら定着させた魔力が魂に帰っちゃうから、魔力を使い切ったら、ね」
娘のでまかせに乗って、俺に転移者を探させ…さらに自分でも転移者を探していた理由はそれか。
「じゃあ、あと何人くらいで…?」
「具体的にはあと32人くらいよ」
「32人!?」
「既にあなたが1人、私が7人還してるわ。私がたくさん見つけるから安心して」
「そ、それなら…」
「ただ、それも急がなきゃいけないの」
「何か問題が…?」問題だらけだな。
「そう。今、コルネリアは〝召喚士の世界〟にいるの。あちらから干渉されれば、魔力を奪われかねないわ」
「召喚士…」
召喚士の世界。
異世界との繋がりが深く、古参の神が管理する世界。
人間達は異世界に干渉し、その力を借りる。しかし、自身が異世界へ行く事は禁忌とされる。
コルネリアはそこに転生したそうだ。
「でも、そんなに警戒しなくても…前も言ったけど、コルネリアが魔力を取り戻したって、何もしないと思うけどな…」
「何かされてからじゃ遅いのよ」
…それもそうだ。俺の意見も、所詮は勘だ。
「しかも、あのエルなんとかって男も召喚士の世界にいたらしいのよ」
エルヴィンが召喚士の世界にいた。それは、彼が禁忌を侵した事を意味していた。しかも、神の力を奪うためにこの世界に来たという。
「結局、あの男は何をしたかったんだ?神になるとか言ってたけど…」
「もうちょっと事情を聞かないと、なんとも言えないわね」
「そうか…」
「とにかく、しのぶちゃんにはこれまで通り、転移者を探して貰うわ。前に言った世界の魂バランスの話も本当だし、頑張ってね!」
「…了解。それしかないもんな」
「そろそろ戻りそうね…」そう言った途端、ナターリャの姿はいつもの少女のものに変わった。
「こっちの方が落ち着くでしょ」
ナターリャは歯を見せて笑った。
「ああ。でもこれで仕切り直し、かな」
「そうだねぇ」
「あぁ!それより課長!放ったらかしだ!病院に行かないと!」
「ま、私のパワー貯金も仕切り直しだし、オマケで送ってあげる」
ナターリャがそう言った直後、俺は等々力の病室の中、等々力のベッド横の椅子に座っていた。
「んん…?」ちょうど良く、等々力が目を覚ました。
「課長、大丈夫ですか?」
「ああ…なんでここに…?」
「天衣社でガス漏れ事故があって、ガスの発生源に近かった課長が酸欠で倒れたんです」
「…そうなのか…何か…妙な夢を見ていた様な…」
「…夢はみんな妙なものですよ」
「ははは。確かにそうだな……そうだ、毒島さんに連絡を…」
「私からしておきます。番号を」
毒島はエルヴィンに操られていたという。その間に等々力と知り合ったと考えられるので、術が解けて全て忘れているかもしれない。
毒島の番号に電話をかける。
『天衣社、毒島です』
「清光商会の東雲と申します」
『ああ。等々力くんの部下の…そうだ!等々力くんは無事ですか!』
謝罪の前に等々力か。昔からの知り合いの様だ。
「ええ。まあ」
『良かった…安心しました。なにせ彼とは前世からの仲ですから』
前世から!?




