第50話 命がけの商談②
ついに天衣社へ訪問した俺と等々力だったが…通された部屋はだだっ広い空間。真ん中に大きな台。壁には大きなモニター。
既視感がある。
そう。アニメでよく見た、「闘技場」だ。主人公達がここでライバルと戦うのだ。
俺、営業に来たんだけど…。
リング脇には他企業から来た営業マン達がいた。
しかし、様子がおかしい。
スーツを着ていない奴らが多い。スーツ姿の方が少ないくらいだ。
そして、等々力は屈伸運動をしている。
「あの…課長?」
「ん?ああ。説明しなきゃな。ここはな、天衣社の特別スペース、社内闘技場だ」
え?なに?マジで?見たまんま!?
「あの…」
「特別営業枠というのは、ここで争って優勝した会社と取引をするという、天衣社の転生者優遇制度だ」
「転生者!?」
「ははは。東雲の事は記憶が無くなる前から転生者だと分かっていたんだが、商談にたどり着いたとしても、毒島さんにすぐにでも夜の街に連れていかれそうだったから、教えてなかったんだ」
「え、ええと…」なにがなんだかわからない。
「サクさんとも相談したんだが、早い方がいいと思ってな。東雲、お前は異世界から転生してこの世界に生を受けたんだ。信じられないだろうから、ここに連れてきた。さっきくぐったゲートはな、魂の質と魔力を見るものだそうだ。エラーになって一瞬ヒヤヒヤしたよ」
「あ、あの…」
「なんだ?」
「転生者って…そんな…いや、何から聞いたらいいかわからないです!」
「そうだな…混乱するのも無理はない。だがな、世界の人口の約1割、大体7億人が別世界を前世とする、転生者なんだ」
もう、何を言って何を聞いているのかわからなくなってきた。
その後、等々力の説明でようやく理解したのは3つ。
1、転生者が前世の記憶を取り戻す現象は以前はかなり少なかったが、ここ数年で爆発的増加を見せている事。
2、爆発的増加中の〝記憶が戻った転生者〟を支援する動きが以前から転生の自覚を持っていた者達を中心に動き始めた事。
3、日本では転生者支援の中核を天衣社の経営陣が担っている事。
以上だ。なにそれ?
「それで、転生者の交流、情報交換と、転生者が現実にどの様な力を持っているのかを調査する役割を持ったのがこの〝特殊営業枠〟というわけだ!」
「どういうわけなんですか…」
展開が急過ぎてもはや呆れてしまった。
「まあ、色々言っても仕方ない。ちなみに俺の前世はな…」
「等々力ィ!」
急に等々力に向かって走って来たのは、等々力にも劣らないゴリゴリのマッチョな男だった。
「おぉ、田所!お前も来てたか!」
「前回は負けたが、今回はそうはいかんぞ…って、なんだァ?そのちっこいのは?」
田所という男は俺を見下ろしてきた。
「俺の部下だ。サクさんは今回は来ないぞ」
「ぁあ!?あの騎士のジジイは逃げたのかよ!ハッ!なら今回は俺の勝ちだな!」
「あの、課長?」
「田所。サクさん抜きでも俺は負けんよ」等々力は不敵に微笑んだ。
「どうだかな!あのジジイ抜きでどこまでやれるか、見ものだな!」
「えーと…」
なんだこれは。ツッコミを入れるべきなのか!?
「お待たせしましたァ!これより、総務課への営業権を賭けてェ…皆さんには存分に前世の記憶、知識、スキル!その全てを使って戦っていただきまーす!」
状況を飲み込みきれない内に、今度は司会者が現れた。もうどうなってんの!?
「安心しろ東雲。お前は戦わなくていい」
あ…これ俺も戦う流れのやつだ。少年誌で読んだ。
「もう、なんなんですかコレ!?」
俺のツッコミも虚しく、司会者が大袈裟な動きで俺たちの視線を誘導する。
「さて、今回の対戦方式はぁ…コレだ!」




