第49話 命がけの商談①
穢土中髑髏斎…
どこからどう見ても悪役ですといった、冗談みたいな名前の男が「まやかしの外法」の使い手だという。
外法師たちはこの魔法の無い現実世界でも、制限付きではあるが、魔法の様な術を使いこなす。
しかも、その技の一切は、女神ナターリャの管轄外だという。
そんな危険な相手は放置して、別の転移者を探した方が安全ではあるが…
しのぶの親友で、俺の中身が別人だと知ってなお、この世界に残った坂巻や、毎日弁当を作って俺たちの面倒を見てくれる曽根崎に害をなす相手だ。放置する訳にはいかない。
ヤツは外法も魔法も使えない状態にしてもとの世界に還す。
幸い、先日のイベントで女好きである事が分かったので、俺はスカートのスーツを購入し、商談に望むことにした。
そして当日。
「パンツスーツに着替えてくれ」
「えっ…?」
等々力の意外な言葉。
「まずかったんでしょうか…」
「いや…うーん、まぁいいか。動くのは俺1人でなんとかなるだろう」
「うご、く…?」何を言っているんだ?
「いや、気にするな。行けばわかる」
「はぁ…」
「久しぶりだな、天衣社も…」
等々力はなにかを思い出している。
「まぁ、何があっても驚かない様にな。良い商談になる様、努力しよう」
「ええ。そのつもりです」
「しのぶさん!」出発前に、栗田が話しかけてきた。
「何?今度奢ってくれるって話?」
「いや、それは間違いなくやりますけど、今日は天衣社っスよね。俺、あそこの極秘情報手に入れてきました!」
「へぇ。すごいじゃん」
「これです。後で読んで下さい!」栗田は俺にメモを手渡した。
「ありがと。でもこれじゃ足りないからな。めちゃくちゃ恥ずかしかったんだから」
「…あの衣装のしのぶさん、めちゃくちゃエロかったっス!」
「素直過ぎか!」
「栗田ァ…」等々力が栗田の背後に立っていた。
「あ…」
「もう一度セクハラ研修が必要な様だな…」
「すいません!!じゃ、俺行ってきます!」
栗田は逃げる様に出て行った。
「仕方ないやつだな…東雲、国枝食品の件、すまなかったな」
「いえ。良い経験でした」
「そうか。実はあれで栗田の株が上がってな。国枝食品の商談が上手くいって大口受注になったんだ。アイツは普段はあんなだが、高卒から営業部にのし上がってきた努力家だ。注意はしたから、今回は許してやってくれ」
等々力も栗田の能力を買っている様だ。確かにあいつ、急に鋭くなったりするもんな。俺も、俺と同じ境遇で頑張っている栗田は応援してやりたいと思う。
「ええ。もちろん。奢ってくれたら、許すつもりです」
「それがいい。じゃ、そろそろ行くか」
天衣社の本部は超高層ビルで、毒島の待つ総務部は35階にあるという。
「清光商会の等々力と東雲です。本日は毒島さんとの商談権の取得に参りました」
「お待ちしておりました。特殊営業枠ですね」
商談権?特殊営業?
「はい」
「ではこちらへ」
俺たちは天衣社1階の、奥の奥に通された。
ドアの前に、近未来的なゲートがある。金属探知器か何かか?
「通るぞ。大丈夫だと思うが」
等々力がゲートを通る。
「OK」ゲートがしゃべった。
俺も通る。
「エラー!」
ん?怪しいものは持ってないぞ。
係員がやってきた。
「すいません、確認します」
係員は俺に金属探知器の様なものをかざした。
「OK」
良かった。
等々力もホッとしている。
ずいぶんセキュリティが厳しいんだな…
ゲートの先の無駄に広いスペースには、他社の営業マンが数組、待たされている。
「さて…」等々力はなぜか屈伸運動を始めた。
「な、何してるんですか課長」
「何って…今回俺を指名した理由は…〝特殊営業枠〟での商談を先方が望んだからさ」
「特殊、営業枠…?」




