第32話 魂の取り扱い②
「どうだった?」
「魔法は使えないけど、魂を抜き取る事はできるみたいだよ、あのオバさん」
「え!?そんな事できるの!?」
「魔法の無い世界でも、魂はあるからね。加古ちゃんが元いた世界くらいまで科学が進んでると、魂の分析とか治療もできたりするんだよー」
そうだったのか…
「で、俺の魂がなんとかって言ってたけど、抜き取ってどうするつもりだったんだ?」
「そこまで知らされてなかったみたい。ただ、東雲しのぶの魂を狙ってる子がいるってことしかわからなかったなー」女神は呑気に話す。
「いやいや、魂が狙われてるなんてかなり怖いんだけど!どうすんだよ…」
「…大丈夫大丈夫。魂抜くのが限度。取り扱いなんてこの世界の人間には…うん。おおよそ無理だから」
「そういう問題か…?」
「そうだねぇ…まあ、お休みの日にお出かけするなら、私かミクちゃんと一緒にいれば大丈夫だよ。ミクちゃん、人の魂出し入れ出来るから」
「は!?あの人が?」
「そうそう。ミクちゃん、前世は人間の身で魂を扱う巫女さんだったからね。この世界でも魂の出し入れくらいならできるみたい」
「マジか…」
見かけによらないどころの話じゃないな…
「ま、とにかく1人目だね!」
「…ああ。そうだった。あの人はもう元の世界に還ったって事か」
「そう。1人還すごとに、この世界にある魂のバランスが良くなる。人の生き死にが自然になるよ」
この世界には、たった1人で世界の魂バランスを悪くする転移者が何万人もいるんだよな。
「バランス、ね…」
もし、殺人や自殺が世界中で絶えず起きているのが、そういう世界の魂バランスの悪さのせいでもあるとしたら…なんだか悲しいことだ。
だがそれを、女神に直接聞く勇気はなかった。
「…もっと、還さないとな」
「そうだね。じゃ、私帰るね!学校のみんなの記憶もどうにかしなきゃいけないから、今回はまったくパワーが溜まらないよ!」
「マジかよ!?っていうか今更だけど、学校通う意味あるのか?」
「そうだねぇ。しのぶちゃんに言ったらショック受けちゃうかもしれないけど…実は学校でもう3人、元の世界に還してるの」
「はぁ!?」
「そゆこと。じゃっ!」
女神は消えた。
なるほど。転移者送還の出張ついでにパワーを温存してるのね。案外、女神も働き者だった。
しかし…この会社、どうすりゃいいんだ…?うーん…
とりあえず、夜逃げっぽい感じに偽装してからラトルネット社を出た。
犯罪者みたいで気が引けるが、どうせあちらも身分を偽装しているはずだ。どうにかなるだろう。
「戻りましたー」
「おかえり。急な営業が入ったそうだが、どうだった?」
等々力は心配そうな表情だ。
「それが、なんだかソワソワしてまして。怪しかったので何も提案せずに様子見だけにして戻りました」
「そうか。中小相手だと、相手方の財政状況の見極めも大事だからな。うん。明日の営業も大丈夫そうだな!」
「…」
まぁ、流石に7年も営業をやって半人前扱いされるのは面倒だ。
「実はサクさんが明日急遽休むことになってな。お孫さんが来るらしくて。だが今の東雲なら一人でいけるだろう」
「はぁ…は?」
そんな理由で簡単に休めるの!?
「意外か?サクさんは若い頃にお子さんができたから孫もいるさ。息子さんは俺と大して変わらない歳だそうだ」
いや、そうじゃない…
すごいな、ホワイト大企業は…
俺以外のメンバーは17時半までに社に戻れないらしく、直帰になった。
俺も当然、定時退社だ。明日のアポも早い時間なので直接行っていいらしい。ホワイトすぎる。




