第31話 魂の取り扱い①
俺は歩きながら、電話のことを思い出していた。
女性の声。
相手は間違いなく「転生の件」と言っていた。
もし、本当に転生の事ならば俺の事情を知っている事になる。曽根崎を騙していた相手は男なので、そいつの仲間か…?
この世界に転移した者がいたとしてもさほど脅威にはならないと女神は言っていたが…相手が何を考えているかわからない。警戒すべきだろう。
ラトルネット社。女性社長1人の個人事業。元々しのぶが担当しており、大した取引も無い相手だ。
俺はドアを開けた。
「失礼しま…えっ?」
「のこのこやってくるなんて相当な大バカ者ね、東雲しのぶ!」
扉の向こうには、黒いローブを着て、つば広のとんがり帽子を被り、ステッキを持った…絵に描いたような魔女が立っていた。
「いや、ちょっと、なにそのコスプレ…」
「失礼ね!これは我が国の正装よ!東雲しのぶ、あなたの魂…我々ラトルガルドが活用させてもらうわ!」
女はステッキを構える。まさか、魔法でも使えるのか!?
考えても始まらん!
俺は女に全力でタックルした!
「ごふっ!」
低姿勢でタックルしたので、肘が相手のみぞおちにクリーンヒットした。
魔女はその場で気絶してしまった。
えーと…
そうだ。女神フォン。
「転移者が近くにいます」
まさかの当たり。こんなに簡単でいいのか?
ナターリャを呼ぼう。
俺は学校に電話をかける。
「あ。すいません。ナターリャ・グートマンの保護者の東雲しのぶといいます。はい、ええ。お願いします」
『しのぶちゃん、どしたの?』
「転移者に襲われた。俺の魂の事も知ってたみたいだ。とりあえずタックルしたら気絶したんだけど、どうする?」
『えー、今日カナコちゃんとクレープ食べに行く約束なのにー。めんどくせー』
「おい女神!働け!」
「はいはい」突然、ナターリャが俺の隣に現れた。
「うおっ!」
「えーと、どれどれ…」ナターリャは俺を無視して倒れた魔女を観察する。
「転移者で間違いないね。このオバさん、魔法も使えないくせになんでこんな格好してんのかな。コスプレ?」
「え?なんかステッキ振ろうとしてたけど」
「ふーん。出身世界はたしかに魔法が使えるところみたいだし、魔力もあるけど…この世界じゃ使えないしなぁ」
「もしかして、この世界でも魔法を使う方法があるんじゃないのか?」
もしそうなら、転移者探しはかなり難しいものになるぞ。
「そんなはずは…あっ」
女が目を覚ました。
「はっ!おのれ東雲!」女はステッキを構える…が、その姿勢で硬直する。
「はーい、そこまで。あのさ、オバさん。魔法、使えるの?」
「ぐっ…動かん…なんだお前は!」
「質問に答えなさい」女神は女を何か見えない力で拘束している様だ。
「ぐっ…答えるものか!我らラトルガルドのため…この事は秘密なのだ!」
何かあるって言っちゃってるよ。
「ナターリャ。明らかに何か隠してる。聞き出せないか?」
「そうだねー。尋問するのもめんどくさいし、ほいっ」
女神が女の眉間をつつくと、女は光に包まれて消え去った。
「魂に聞いてくるね」
女神も同じく消えた。曽根崎に使った力と同じ力の様だ。
数分後、女神は1人だけで戻ってきた。
「ただいまー。力使いすぎちゃったよ。しのぶちゃん、次からは転送寸前の状態で教えてね」
「あぁ…気をつけるよ。で、どうだった?」
「うーん。魔法は使えないけど、魂を抜き取る事はできるみたいだよ、あのオバさん」
「え!?」




