第30話 取引先は転移者!?③
栗田に続いて田野島と作田も営業に出て行ったため、またしても誰が転移者なのか分からなかった。
現在候補は2人。案外、早く5人探せそうだ。
俺は既に昨日作り終えた提案書を眺めていた。
清光商会の会社紹介から始まり、圧倒的取り扱い数、確かな実績、幅広いネットワークなど…「ご存知清光商会でございます!ウチから買わないなんて嘘でしょ!?」と言っている様な資料だ。
清光商会は市場に対してブランディングをする必要が無い。「法人がオフィス用品を買いたければ清光」という確固たるイメージが根付いているからだ。
この提案書からは、そんな「おごり」がありありと伝わってくる。
このままじゃ、市場に置いていかれるぞ。
そう思った俺は提案書を直した。
清光を選ぶ理由。
あらゆる可能性を提案。
顧客が望む形にカスタム。
…これだけデカい会社で、やれない事などない。あらゆる提案法を考え、記載していく。相手企業に合わない物を削り、削った物は別の会社用に保存していく。
そうして、それなりに満足できる提案書ができた。明日はこれを持って行こう。一応、等々力に見せるか。
「課長、これなんですけど」俺は提案書を見せた。
「…うん…うん…」等々力は頷きながら提案書を読む。
「…東雲」等々力の眉間にシワ。あら。俺の提案書、大企業っぽくなかったかな…
「ここと、ここだけ直せ。それ以外は…最高だ」
「ありがとうございます」
「いや、冗談抜きにすごく良い。入院中に営業の本でも読んだのか!?」等々力が身を乗り出してきた。
「え、ええ、まあ…」別に何もしていない。経験上そうした方が良いと思っただけだ。
「うーん。本当にすごい!天衣社の資料もお前に任せていいか!?」
「ええ、もちろん」
「頼むぞ!」
しかし、天衣社向けの資料もさっさと作り終えてしまい、昼になった。
等々力が食事に出て行ったので、俺は事務室で飯を食う事にした。梅木が隣に座った。
「私もお弁当だから一緒に食べましょ」
「ええ。どうぞ」
弁当を開けると、ご飯の上に桜でんぶでハートマークが描かれていた。
「…」なにこれ。
「あら!もしかして彼氏さん?」
梅木はニヤニヤする。
「あ、いえ…ウチのお隣の女性が作ってくれたんですけど…旦那さんか誰かのと間違えたんじゃ…」
「あら大変。後でお伝えしなきゃね」
「ええ…」
曽根崎にそんな相手が居る様には見えなかったが…なんだろ、コレ…
事務室の電話が鳴る。
俺が手を伸ばす前に、梅木がすかさず電話を取っていた。
「はい。ええ。かしこまりました。営業担当者がおりますので確認いたします。少々お待ちください」
梅木は電話を保留した。
「事故の前にあなたが持っていたラトルネット様なんだけど、栗田君が来たけどやっぱりあなたに担当してほしいそうなの。どうする?」
「別に構いませんよ。代わりましょうか」
顧客の中には、慣れた担当者や女性じゃないと嫌だというところもある。
「じゃあ、お願い」
電話に出た。
『東雲さん?』女性の声。
俺は記憶喪失の事を伝え、それでも良いか聞いてみた。
『あら、そうなの…いえ。それなら余計、直接お話すべきことがあるわ。今日これから、空いてますか?』
「ええ。午後は空いております」
『なら良かった。ウチはそちらから近いから、14時に来られるかしら』
「かしこまりました」
『思い出せばいいんだけど、転生の件…』
「え!?」
『じゃ、お待ちしてるわ』
そう言われ、そのまま電話は切れてしまった。




