第23話 隣人 曽根崎裕佳梨②
「しのぶさんには恋人はいないのかな?」唐突に曽根崎が質問してきた。
「え?いないですけど」
「しのぶちゃん、こんど女の子とデートするんだよねー」ナターリャが魚を食べながら言った。
「女の子とデートだと!?」曽根崎が急に立ち上がった。
「そ、曽根崎さん?」
「あ、ああ…すまない…その…しのぶさんは…じょ、女性がお好きなのかなぁ?」曽根崎の声が裏返った。ヤバい。引いてる。
「あ、いや!デートではなくて、ただの友人です!」いや。デートなんだけどね。看護師のミクさんと。実はかなり楽しみにしている。
「そ、そう…だよな…女同士、は変…だよな…」あ、もしかしてそっちの人か?だとしたら失礼だったかな…
「あの、曽根崎さんは恋人とか…」
「いないよ。私はね、理知的な男性か可憐な女性がタイプなんだ。なかなか出会いが無くてね」
自分から言ったぞ!?
「あ、女性もお好きで…」
「あ、ああ!え!?今そんな事言ったかな!?」
「ばっちり言いました」
「くっ…殺せ…!」曽根崎は急にうずくまり出した。大丈夫かこの人?
「殺したりしませんし秘密にしますから…」
「うぅ…恥だ…性の乱れを自ら言うなどと…」
「そんな、大げさな」
「騎士として…」
「キシ?」
「王国騎士団の長として…あ!いや…」騎士団?
「ねぇ」ナターリャが曽根崎に箸先を向けた。
「お行儀悪いからやめなさ…」
「いいから」
遮られた。
「黙っててあげたんだけど、もういいや。自分から言ってるし。アナタ転生者でしょ」
「なに…!?」曽根崎の表情が変わる。
「最近、加古ちゃん達の周りに探偵がうろついてるのは、アナタの仕業でしょ。で、今は私たちの事も調べようとしてるんだよね。違う?」
ナターリャがそう言った瞬間、曽根崎は飛び退いてキッチンに回り込み、包丁を取り出して構えた。マジかよ!?
「…貴様ら、何者だ!?我々の活動まで知っているとは…!」
「知ってるも何も、私がアナタたちの魂を管理してるんだもの」
「なんだと?どういう事だ!」曽根崎が包丁をナターリャに向ける。危ない!
「やめろ!俺たちがあんたに何をしたって言うんだ!」俺はとっさに曽根崎とナターリャの間に入った。
「そのナターリャとかいうやつもそうだが、しのぶさん…キミも転生者だろう!どの世界から来た!」包丁が俺の方を向いた。
「どの世界って、ここですけど…」
「…なに?そんな事があるのか…?」
「あーもうめんどくさいなぁ!しのぶちゃん、ごめん!」
ナターリャがそう言った瞬間、2人の姿が消え去った。
あ。あいつ!女神の力を使ったな!
…数分後、ナターリャと曽根崎が戻ってきた。曽根崎は大人しく…というか、ショックを受けた様な放心状態になっていた。
「お、おい、ナターリャ。あいつに何したんだよ…」
「ナイショ。パワーはそんなに使ってないよ」
「それなら…まぁ…」
「…はっ!?」曽根崎が我に返った。
「アナタからしのぶちゃんに教えてあげてね」
ナターリャは改めて食卓につき、冷めた豚汁をすすった。
「…先程は無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした…」曽根崎は膝をつき深く頭を下げている。
「あの、顔を上げて…何か事情があって転生した人を目の敵?にしてたんですよね?話してくれますか」
「…はい。ありがとうございます。私の事情をお伝えします。今は、女神のお言葉で心は変わりましたが…それも含めて、全て話します」




