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第2話 俺は確かに、男のはずだった。

 挿絵(By みてみん)

看護師の喜多嶋は27歳、AAカップです。

「なんでこうなった!?」

 俺は自分の両乳を掴みながら叫んだ。結構デカいな。いや、そんな事考えている場合じゃないんだ。なんだこの身体は! 性転換手術なんて頼んでないぞ!?


「えっと……東雲さん?」

 看護師は顔を引きつらせながら俺の名を呼ぶ。


「エ? だって、オレ、オンナ! オッパイ!?」


「なんでカタコトなんですか。そりゃ女性ですから、おっぱいありますよ。それも余分にあるじゃないですか! なんですか! そんなデカチチぶら下げといて! 要らないなら私にくださいよ! 加古先生! 私に移植お願いしまーす!」

 ……突然怒り出した看護師の胸は、たいへん奥ゆかしいサイズだった。


「やめなさい喜多嶋クン。そんなもの無くても、充分モテてるでしょ、キミ」

 加古医師は看護師の奥ゆかしい胸を見ながら、ため息をついた。


「そういうことじゃないんです! おっぱいがほしいんです!」

 喜多嶋は本気の表情だ。何だこの人……


「えっと、なにがなんだか……」

 何から聞いていいかさっぱり分からない。


 喜多嶋の意味不明発言を聞き流しながら、加古医師は俺の顔を見つめて難しい顔をしている。


「フム。キミの名前、年齢、性別、国籍、お仕事は?」

 俺が何も聞けずにいると、逆に医師に質問された。


「……え? えっと、東雲忍。25歳。男、日本、営業職です。いや、そうじゃなくて…」


「ムム……性別以外全部合ってるネ…」

 加古医師は難しい顔をする。


「ムム、じゃなくて! なんで性転換手術しちゃったんですか!?」


「……してないヨ。ワタシはキミの頭の怪我を治しただケ」


「頭?」

 そういえば、トラックに轢かれて全身を打ったはずなのに、身体に怪我が無い。


「そうだヨ。キミはデパートのエスカレーターから転落して、後頭部を強打したんダ。覚えてなイ?」


「デパート……転落……?」

 わけが分からない。


「加古先生、これ……どっちですか?」

 喜多嶋は怪訝な顔で俺を見ながら、加古医師に質問する。


「どっちだろうネ……難しいヨ」

 加古医師は眉間にしわを寄せて唸った。


「なんの話をしてんだよ! どうなってんの!?」

 俺は声を荒らげたつもりで叫ぶが、甲高い声が病室内に響いただけだった。


「東雲さん。我々にも判断がつかない事が起きているから、とりあえず、検査しようカ。準備をするから待っててヨ」

 そう言うと医師と看護師は病室を出ていった。よく分からない単語が、ドア越しに聞こえていた。


「なんなんだよ……」


 そう呟いて窓を見ると、頭に包帯を巻いた、見知らぬ女が写っている。今の俺の姿だ。


 ……整った顔をしている。美女、いや、可愛いという部類だろう。胸も尻も大きくて、腰はくびれている。これはモテそうだ。

 ただ、俺の好みのタイプではない。どちらかというと俺は、さっきの看護師、喜多嶋みたいな……どこにでもいる様な普通の顔の女が好きだ。お近づきになれないかな。


「……いやいや!そんな事考えてる場合じゃないから!」


「自分のモノローグにツッコミされてもわからんヨ」

 いつの間にか病室内に戻った加古医師に、ツッコミを入れられる。


「……先生、人の心を読めるんですか?」

 喜多嶋が眉をひそめる。


「ちょっとだけネ」

 加古医師はニヤリと笑った。


「えっ、キモっ……」


「そりゃないだろ喜多嶋クン!」

 医師と看護師が漫才を始めた。本当になんなのこれ。


「あのー……」


 加古医師は、喜多嶋を軽く睨んでから、ゴホンと咳払いをした。


「……キミは、東雲しのぶさんなんだよネ?」


「はい」


「別の人格が、入り込んだような感覚はあル?」


「全然ありません」


「ここは、まったく見慣れない世界?」


「えっと、初めて来る病院ですね」


「喜多嶋クン」


「はい」


「わからんネ!」

 医者はさじを投げた。


「さっきから、いったい何を聞きたいんですか!?」

 俺はまた声を荒げようとするが、やはり女の声なので、うまくいかない。


「先生、東雲さんも困ってるし、もうめんどくさいから言っちゃいましょ!」

 看護師もさじを投げた。だからなんなんだ!


「ウーム…」


「ごめんごめーん! 加古ちゃん、ミクちゃん、あとはやっとくね!」

 加古医師が唸っていると、どこからともなく、若い女の声が聞こえて来た。


 そして突然、病室が光に包まれた。


「な、なんだ!?」

 俺はベッドに腰掛けたまま、左右を見渡す。

 眩しくて何も見えない。


「どうなってるんだ!? 先生! 看護師さん!?」


 光が落ち着くと、ベッドは消え去り、俺は雲の上に座っていた。


「え……?」


「さて、と……」


 頭上から声がする。目の前に女の脚。俺が顔を上げると、そこにいたのは金髪碧眼の美しい顔をした──


 ──ギャルだった。


「なんで!?」

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