第12話 ヘビースモーカーの禁煙事情
しのぶの私物と言う名のゴミをほとんどゴミ袋に突っ込んだ俺は、新たに生活するためのものを買い直す事にした。
と、その前に。
「タバコが吸いたい」
転生前の俺は筋金入りのヘビースモーカーだったが、どうやらしのぶは非喫煙者の様だ。あれだけモノが溢れる部屋の中には、タバコ関係のものが一切なかった。入院中、タバコのことを忘れていたのもそのせいだ。身体はニコチン中毒ではないが、心がタバコを求めていた。一服したい。
近所のコンビニに寄ってまず金をおろす。退院時に気づいたのだが、不用心なことに銀行の暗証番号はしのぶの誕生日の逆並びで、まあまあな金額の貯金があったので拝借した…とはいえ、この身体の金だから自分の金と言ってもいいのだが。
コンビニでタバコとライターを買う。早速喫煙所に向かった。
喫煙所の中に入ると、かなりの不快感がある。煙たい。やはり非喫煙者の身体でタバコを吸うのは無謀だったか…いや、俺はタバコを吸いたいんだ!
タバコに火をつけると、途端にむせた。
「ウェッ!ゲホッ!ゲホッ!」
「お嬢さん、大丈夫かい?」近くにいた男性が声をかけてきた。俺はせき込みながら手を前に出し、「大丈夫」というサインを出した。
「そうかい…無理すんなよ」男性はそう言って喫煙所から出て行った。
何度か挑戦したが全くタバコを吸うことができず、俺はコンビニで「ニコチンゼロ!禁煙にどうぞ!」と書いてある電子タバコを購入し喫煙所で吸った。一応タバコを吸っている気分になれた。もう、これでいいか…。
散々な一服を終えた俺は次にスーツを買いに行った。男の時は一張羅のグレーのスーツを毎日着ていたが、女はさすがにそれではダメだと喜多嶋に言われている。むしろ男でもダメだと言われた。
「いらっしゃいませぇー何かお探しですかぁ?」中年の女性店員に話しかけられる。
「あの、スーツを」
「はぁい!ではこちらはいかがですかぁ?お客様みたいな長ーいお脚なら絶対に映えますよ!」スカートだった。
「いえ、すいませんがズボン…えー、パンツスーツを」
「あらぁ…勿体ないわぁ…スカートも何着か買いません?」なぜそんなにスカートを推すんだ。
「いえ…あまり、見られるのが好きじゃなくて」
「まぁまぁまぁ、そりゃあそれだけのスタイルですから見られちゃいますわよねオホホ」うーむ…男の時と対応が違う気がする…
試着してみたが、驚くべきことに裾上げの必要がなかった。本当にスタイルいいな、俺。
試着したスーツを脱いでいる時だった。
ブー、ブー、ブー…
女神フォンが震えた!
俺は慌ててジーンズを履いてカーテンを開けた。
カーテンを開ける勢いが強すぎたせいか、店内の人間が一斉に俺を見た。スーツ店なので男性が多く、やたらと注目される。
「お、お客様いけませんわ!」店員があわててカーテンを閉めた。
「ん?あっ…」
しまった。上半身がまだ下着姿だった。痴女かよ…
急いでシャツを着るが、ボタンが多い。パーカーとか無かったのかよ!
ようやく着替えてカーテンを開けたが、試着室の周辺には誰も居なかった。
「くそっ…」
その後すぐ店内を探し回るが、ダメだった。
また一から探し直しだ。
今度から服を買う時はボタンの無い服にすべきだな…
諦めて自宅に向かう途中の事だった。
ブー、ブー、ブー…




