第10話 女神の人化事情
「お世話になりました」
今日は退院だ。俺は、加古医師と看護師の喜多嶋にお礼を言った。
「困った事があったらいつでも相談しなさイ。私も喜多嶋クンもサポートするヨ。我々も転移者らしき人を見かけたら、お知らせするからネ」
「ありがとうございます。あ、そうだ。今まで加古先生のところに転移者が来たことはあるんですか?」
「そうだネ…転生者と違って転移者はほとんどが意図的にこっちに来ているから、そもそも正体を隠していることが多いんダ。でも稀に、身体を乗っ取られたパターンの人が本来の魂の意思で来る事はあったネ。その時は女神に任せていたヨ」
「あ、女神…」
忘れていた。
あの女神、俺と暮らすとか言ってなかったか?
「遅い!」
後ろから声が聞こえた。
「女神様!」2人が同時に声を上げた。
「遅いって言われても…あれ?」
振り返ると、女神の制服姿が変わっていた。
スカートは少し長くなり、制服もそれなりにかっちり着込んでいる。2018年スタンダード女子高生になっていた。
「遅すぎるから迎えに来ちゃったよ。忍クン…いや、しのぶちゃん」
「そりゃどうも…」顔がひきつる。女子高生と暮らすなんて、俺が男の姿だったら犯罪だ。女で良かったと初めて思った。
「加古ちゃん、ミクちゃん。ありがとう。しばらくの間、色々お任せするからよろしくね」
「承知しましタ。しかし女神よ…前回人化した時の格好はやめたのデ?」
あのひと昔前のギャルスタイルのことだろうか。
「前回の格好はさすがに古いから今風にしたつもりだったのに、初登校でみんなに直された…」女神は顔を赤くして震えている。
「ウケる」喜多嶋はケラケラ笑っている。
「今回も、海外から来た設定ですネ?」
「モチのロン!」
「それはあの恰好より古いネタだよ!」つい、ツッコミを入れた。
「マジぽよ…?」なんかその言葉もおかしくないか?
「まぁ、留学生?だしいいんじゃないか?」俺は笑いを堪えながら女神をフォローした。
「ぐぅ…男にもどしてやんないぞ!」女神は頬をぱんぱんに膨らませた。
「いや、それはご勘弁を!」この女神なら本気でやりかねない。
「…じゃ、帰りにパフェ奢って。それで許す」
「…え?」
「パフェ!」
「あ、はい」
女神は精神年齢も人間の10代相応になっている様に見える。
「女神様、このへんの学校に通うの?」
「うん」
「じゃあ、いつでも遊びに来てね」喜多嶋は女神の頭を撫でた。
「そのつもり!」女神は猫のようにゴロゴロしている。
「お名前はどうするのデ?」
「ウクライナからキマシタ!ナターリャ・グートマンデス!オトーサンのオシゴトデ、ニポンキマシタ!」女神は急に片言になった。
「なかなか強引な設定だネ…」
「普段からそのしゃべり方にするのはやめろよ…」
「オッケー牧場!」
「それも古いぞ…」
「ええっ!?」この女神の時代感覚はどうなっているんだろうか。
帰り道の喫茶店でデラックスバナナチョコレートピスタチオマシマシパフェなるものを奢らされ、家に着くころにはもうすっかり暗くなっていた。しのぶの家はオートロックの立派なマンションだ。俺が住んでいたボロアパートとは雲泥の差だった。
さすが、清光商会に勤めているだけはある…
「さーて、私の部屋はどんなっかな?」俺がカギを開けた瞬間、女神がドアを勢いよく開けた。
「うっ…」
扉を開けた俺たちを、惨事が待ち受けていた…




