第四章 -4-
起きられなくなった史の世話は、母屋の婢女に任されていたが、時折麻奈古も様子を見に来てくれた。
史は麻奈古が来るのを喜び、いつまでも側にいてくれと引き止める。
それは、堅魚と麻奈古にとってもありがたいことだった。
史の看病という名目があるから、母屋の人目を気にすることはない。
もっとも、世話役の婢女が始終うろうろしているから、史を囲んで話をするくらいしかできなかったけれど。
時折、史が話し疲れて眠ってしまうと、堅魚は麻奈古と二人で離れ家の濡れ縁に座り、ただぼんやりと空の雲や月を眺めて過ごす。
それだけで、堅魚はかつてないほど満ち足りた想いを味わうことができたのだった。
そうしている内に、楯縫の郡家の内情も少しずつ変わってきた。
出雲郡家で麻奈古との一件を問い質した時、太田の母親がそれに深く関わっていたことを、佐底麿はつい太田に漏らしてしまっていたのである。
まさか自分の母親がそこまで麻奈古を嫌い、そんな恥知らずな汚いことまでしていようとは。
太田は自分の母親の行動に大そう驚き、すっかり母親を疎ましく思うようになってしまった。
一人息子に嫌われたと知った母親は、それをやはり心底気に病んだようだ。
元々かなりの高齢だった母親は、それから自分の部屋に閉じ篭り、やがて病みついて床に臥すようになった。
そして、半年も経たないうちに、あっけなくこの世を去ってしまったのである。
太田はそれまで、母親にだけは頭が上がらなかった。
だが、いまやその重石が取り除かれたのだ。
太田はもう誰憚ることなく、麻奈古を可愛がるようになった。
すると、それまで太田の母親に倣って麻奈古に辛く当たっていた太田の妻まで、麻奈古をちやほやするようになったではないか。
元々、太田の妻は姑との対立を避けるために、わざと麻奈古を苛めて姑の機嫌をとっていたのである。
それで、今度は夫の機嫌をとるために、麻奈古へしきりと媚びを売るようになったのだ。
一家の主婦の態度が変わると、それは自然に家全体へと伝わる。
太田の子供たちや他の使用人たちの態度も、自ずと麻奈古に好意的な形に変わっていった。
おかげで、麻奈古の暮らしは、以前に比べて格段に良くなったのである。




