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ストイック  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
22/79

第22章

 

 トリファーによって、船旅の残り少ない日々は、アイリーンの好意の中に自分を潜り込ませられるような行動の立案と実行とに費やされた。とりわけ、ミス・ギブンスが立ち入ってこないように注意しながら、二度のカード・パーティーを準備した。しかし、かなり有名な女優、クーパーウッドの妻に会うことを全く嫌がらなかった若い西部の銀行家、トリファーほどの外見とマナーを備えた相手と付き合っていれば自分の社会的な人脈が良くなると信じているバッファローから来た未亡人、つまりトリファーが加えてもいいと考えた者は誰でも加えた。

 アイリーンが、この楽しくてまったく予想もしなかった社交の広がりと、特にトリファーの明らかな関心、に元気づけられたと言ってしまうのは、決して事実ではない。クーパーウッドは参加しなかったが、この付き合いをしめしめと考えていそうだったので、なおさらだった。現に、ロンドンに到着してセシルに落ち着いたら、トリファーと彼の友人たちをお茶かディナーにでも招待したらどうかと提案してくれた。時間がとれれば、少しくらい滞在しても構わないのだ。アイリーンはこの機会に感謝して跳びついた。秘密の関係を築こうと模索している人の態度や気分ではなく、夫にも好ましい人付き合いや交際が今でも自分にできることをしきりに証明したがっているみたいだった。

 どうやらトリファーは彼の裁量に任せてもいい人物かもしれない、とクーパーウッドは考えた。とても賢く、駆け引きが上手で、必要な社交上の作法全般に通じているのは明らかだった。もし彼が、アイリーンを仲違いさせ、結婚に持ち込んで彼女の個人資産のいくらかでも手に入れるという考えで、アイリーンと愛し合うことまでいったとしたらどうだろう? そんなことがうまくいくとは思わなかった。アイリーンに限って他の誰かと恋愛して深みにはまることなどないからだ。

 トリファーは、陰謀の後ろめたさに時々悩まされたが、これこそ自分の不遇の人生にこれまでに訪れた最高に幸運な転機の一つだと感じた。つい最近もそうだったように、女優の稼ぎを分け合って一緒にやっていけるのであれば、きっとこの女性の社交の指南や指導や同伴者を演じてだって金を受け取れるだろう。確かにアイリーンは不器用で、時々間違ったことをする可能性があり、歓心を買いたくてたまらないのだ。きっともっと優雅に着飾れるし、彼女が引き立つ特定の雰囲気や気取り方を教わっていてもよかった。少なくともアイリーンは好意的であり歓迎してくれていた。トリファーがアイリーンのためにたくさんのことができそうなのは確かだった。

 この旅行に先駆けて周囲に問い合わせて知ったのだが、アイリーンはクーパーウッドの留守中に明らかにありきたりな情事にふける習慣があった。これは、彼女の曖昧な社会的地位に関係なく、クーパーウッドと彼女自身の品位をおとすことにしかなりえなかった。クーパーウッドがこれを進んで黙認しているのはどういうことだろうとトリファーは自問した。しかしアイリーンに会って、その夫の経歴をおさらいしてみると、結局クーパーウッドは最も賢明な方針をとっていると感じるようになった。何しろ、アイリーンは確かに実行力と決断力を備えた女性だった。夫がやるかもしれない自由を求める戦いでは、意図的に夫を傷つけはしないとしても、おそらく打てる手はひとつも残さないつもりなのだろう。

 その一方で、もちろん、クーパーウッドがいつかトリファーを攻撃する可能性はあった。本当の理由であれでっちあげの理由であれ、アイリーンとの関係でトリファーを非難する可能性があった。この関係がアイリーンを追い出す手段をクーパーウッドに提供するのである。そうなっても、もしクーパーウッドがトリファーにこの計画を実行させたことをトリファーが証明できたら、暴露はきっとクーパーウッドの方がトリファー以上に好ましくないだろう。では、自分が失わねばらないものは何だろう? ほぼ確実にトリファーは、アイリーンの夫から告訴されない方法で、自分の行動とアイリーンの行動を調整することが可能だ。

 それに、アイリーンのためにやれることはたくさんあった。この旅行中にトリファーは彼女がかなり自由にお酒を飲むのが好きなことに気がついた。そういう弱点からアイリーンを守らなくてはならないだろう。次に衣装の問題があった。パリには、彼女にきちんとした服を着せる特権を与えてくれるトリファーに感謝するドレスメーカーがいる。最後に、もちろん、アイリーンがトリファーを信頼するようになったとしてだが、アイリーンのお金があれば、アイリーンが楽しめる冒険を手配することは難しくない……エクス=レ=バン、ビアリッツ、ディエップ、カンヌ、ニース、モンテカルロ。トリファーは旧友を招待して古い負債を返済し、新たな人脈をつくることができる!

 特等室で横になり、タバコをふかしてハイボールをすすりながら、トリファーはこのすべてに思いを巡らせた。この船室といい! 週給二百ドルの仕事といい! おまけに、三千ドルか! 

 


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