ホムンクルス・ウイング
……て、てんし。
誰かがそう呟いた。
だが、この場にいる誰もがそう思っていただろう。
それは間違いなく天使だった。
長く青い髪を靡かせて、爛々と輝く琥珀色の目。
そして何より大胆に露出させていた背中から生える翼だ。
それは左右非対称ながら、白く力強く、そして人々を魅了する美しさを持っていた。
「……ウ、ウイング?」
「秋、お下がりください」
ウイングは戸惑っている兵士達を無視しながら、秋に優雅に礼をする。
瞬間秋に向けられていた温和な目が冷酷に細められた。
その視線を受けるのは、この場にいる秋達を除いたすべてだ。
翼が羽ばたかれると同時に周囲に暴風が吹き荒れる。
秋達には何も感じられないが、他の者はそうではないらしい。
その証拠に悲鳴を上げながら、大広間を旋回している。
人と人、人と物、物と物がぶつかり合う。
「ウイング、そこまでだ!!」
三代目の言葉で、暴風が止む。
人や物が床に落ちてくる。
ほんの数分前まで、豪華な調度品で埋め尽くされていた大広間だったが、今では台風が通り過ぎたかのような光景で見る影もない。
その中心に鼻血を流して唖然としているクソ野郎がいた。
ホムンクル・ウイング。
その正体は、二代目と三代目によって最初に生み出された人工生命体である。
彼女の本来の姿と力は封印されており、自らの創造主より許可という言霊をもらうことによって解放される。
ウイングが解放された姿はまさしく天使と呼ぶに相応しい。
また、彼女の力もその姿に相応しい能力である。
ウイングの力は奇跡を起こす限りなく万能に近い力だ。
例え彼女がやり方や仕組みを知らなくても彼女の力の範囲内であれば、それは奇跡という現象となって世界に働きかける。
先ほどウイングは敵対者をすべて吹き飛ばせ、と願った。
それを世界は奇跡という現象で叶えたのだ。
それが、ホムンクルス・ウイングの力なのだ。
ウイングが飛び上がる。
まるで、猛禽類が獲物を狙うように、クソ野郎の顔の真横を踏み砕いた。
「まだ、やりますか?」
その声に、その場にいた秋達以外のもの全員が頭を垂れたのだった。