三代目、許可を!!
「よ、ようやく入れたな……」
ぼろぼろになった三代目が壁に肩を預けながら言った。
病院に行ったほうがいいんじゃないの?と秋は思う。
あまりの暴力の嵐に、兵士達は怯え、仲間を呼ぶふりをして逃げ出した。
誰もいなくなったので、秋達は堂々と正面から中に入ったのだ。
もっともその代償として、三代目は死にかけている。まあ、安い代償だった、と思おう。
「秋、人が集まる前に、ジャンヌを探しましょう」
ウイングは三代目を殴って気が済んだようである。
秋は頷き、三代目を置いて先に進む。
今は三代目よりジャンヌである。
「で、秋は何かいいアイデアがあるのですか?」
「……てへ」
ウイングが顔を抑える。
だって、仕方がないじゃないか、と秋は言いたい。
現状どうなっているのかわからないし、ジャンヌは自分と目も合わせてくれないのだ。
いい考えなど思いつくわけがない、
……やばい、胃が痛くなってきた。
「神は貴方より上品な言葉で話されました!!」
秋が腹をさすっていると、何処からからジャンヌの声が聞こえてきた。
ウイングと一緒に頷き、声の方へ走ると、すぐ大広間にたどり着いた。
大広間では町では絶対見かけない派手で高そうな服を着込んだ人達で溢れていた。
その人達の視線の中心に、ジャンヌはいた。
「神は男か?女か?」
「神に性別はありません!!」
どうやらジャンヌは尋問を受けているようだ。
しかし、これではまるで、犯罪者を取り締まる裁判のようだ。
見ていて気持ちのいいものではない。
「ご報告いたします!!」
その時、別の扉か兵士が入って来た。
何事か、と全員の視線が兵士に向けられる。
「怪しい人物が紛れ込んでいました」
「怪しい人物?」
三代目だ。
秋とウイングは心の中で、同時に頭を抱えた。
ぼろぼろになった三代目を放置してきた自分達の非を棚に上げて酷い二人である。
「今連れてまいります」
囚われの宇宙人みたいなシルエットで、三代目が姿を現す。
それに最初に反応したのがジャンヌだった。
「三代目?どうしてここに?」
「おやおや、自称聖女さまはこの怪しい男と知り合いだと?」
そんなジャンヌに反応したのは派手な服を着た白い豚だった。
一目でわかった。
きっと、あれが三代目が言っていたクソ野郎なのだ。
「みなさん、聞きましたか?ジャンヌは聖女と名乗っておきながら、この怪しい男と親密な関係なのです!!」
「な、なにを言っているのです!?」
ジャンヌの性格なら、自分から聖女など名乗らないだろうに。
しかも、何処をどう見れば親密な関係に見えるのだ?
三代目が言っていたとおり、強引な男のようだ。
「何より見てください。男の姿を。一見神父のように見えますが、薄汚く、何より私達神の信愛なる使途フランス人ではない様子。それと親し気にしているこの娘が本当に神の声を聴いたのでしょうか?否。絶対に否。聞いたのは悪魔の声に違いありません。きっと私達を貶めるつもりでしょうぞ!!」
周囲がざわざわと騒がしくなってくる。
ジャンヌが何か言っているが誰も耳を貸さない。
「私が神に代わり魔女を捕らえましょうぞ!!」
クソ野郎のそばにいた兵士が前に出てくる。
誰もジャンヌを弁護しようとはしなかった。
それに秋はとうとう切れた。
「いい加減にしろよ、お前ら!!」
あたりが静かになる。
「寄ってたかって、一人の女の子を虐めやがって。恥を知れ!!だいたいあんな豚野郎の話を鵜呑みにしやがって。ああ、もうムカつく。おい、ジャンヌ行こうぜ。こいつらの力なんか借りなくたって、俺が何とかしてやるから!!」
秋はジャンヌのところまで来て、強引に手を掴みながら言う。
ジャンヌは戸惑っていたが、そんな秋の言葉に反応したのはブタだ。
一声ブヒ、と鳴くと、真っ赤になった。焼き豚である。
「こ、この失礼な奴を生かして帰すな!!であえであえ!!」
時代劇か、と秋は思ったが、そんな呑気な雰囲気ではなかった。
兵士達が剣を振り下ろしてきたからだ。
「じょ、じょーだんだろ」
秋はジャンヌを背中に庇いながら言う。
兵士の目はマジである。
本気でやばい、と秋が思たとき、その兵士の首が細く白い手で掴み上げられた。
「秋、私は感動いたしました。この大人数の中、何の力も権力のないのにそこまで吠えることができるとは……。ふふ、少し焼けますね。ここからは私にお任せください。もとはと言えば、三代目が捕まったことが原因です。三代目も文句はないでしょう。何、力を振りかざす人には、それ以上の力をぶつければすぐ話を聞いてくれますよ」
ウイングは嬉しそうに言った後、その兵士を壁に投げつけた。
誰もが唖然とする。
鎧を着込んだ大の男を細腕のシスターが壁まで投げつけたのだ。
そして、頭にかぶっていた頭巾が落ちる。
見えるのは青く長い髪。
「こ、こやつもま、魔女じゃあああああああ。お、お前らやってしまえ!!」
兵士達が襲い掛かってくる。
ウイングが構える。
圧倒的な強さで、ウイングは兵士を次々と倒していった。
あまりの強さに秋達だけでなく周囲も唖然とする。
そんな中で、最初に正常な意志を取り戻したのはジャンヌだ。
「ア、アキ、どうしてここに?館で待っているようにいったじゃないですか?」
「あ、ご、ごめん。だって、ジャンヌが危ないって聞いて、それで、って危ないジャンヌ」
飛んできた花瓶を避けるため秋はジャンヌを押し倒した。
花瓶は床に当たって、砕けちる。
花瓶は避けられたが、秋達はその代償にウイングから離れてしまった。
「秋!私から離れては駄目!」
それ幸いと秋達に向かって兵士が襲い掛かってくる。
ウイングは秋達のところに向かおうとするが、数が多い。なかなかたどり着けなかった。
「っく。ジャンヌこっちだ」
秋は何とかジャンヌを守ろうと、テーブルやら貴族やら柱やら壁にして、逃げ回っていたがとうとう隅に追い込まれてしまった。
視界の隅に、クソ野郎ににやけ顔が映る。
「ごめん、ジャンヌ。俺が来たばっかりにこんなことに……」
秋は後悔した。
秋が来なければこんなことにならなかったのに。
思えば足を引っ張ってばかりだ。
怒られると、罵られると思った。
だが、ジャンヌは笑ったのだ。
「いいえ、こちらこそごめんなさい。アキ達を邪険にして。そして、ありがとう。誰もが私の味方をしてくれなかった中で、唯一味方をしてくれた。わたしは嬉しかった」
秋はそんな言葉に涙が出そうになった。
兵士達に完全に囲まれる。
ウイングの姿も三代目の姿も見えない。
例え見えていても助けは間に合わないだろう。
兵士の剣が振り上げられる。
その剣から逃げる場所は何処にもない。
秋は覚悟を決めた。
せめて、少しでもジャンヌの盾になるべくジャンヌを抱きしめる。
「三代目!!」
ウイングの声が大広間に響く。
「許可を!!」
あと、数秒もすれば自分は切り殺されるであろう。
「許可する!!」
それでも、1秒でも2秒でもジャンヌの命が続くなら、その間にウイングが助けてくれる可能性が高くなる。
「アクセス!!」
何かが弾ける音が秋の耳に届いた。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?
いつまで待っても痛みは襲ってこない。
恐る恐る秋は目を開ける。
「秋、大丈夫ですよ」
琥珀色の目を爛々と輝かせながら、自信満々に答えるウイング。
その背中には純白の左右非対称の大きな翼があった。