ため息吐きマシーン
「はあー」
ジャンヌがシャルル皇太子に認められてから数週間後。
秋は何かをするわけでもなく、ため息を吐きながら静かに窓から外の景色を見下ろしていた。
最近は秋はずっとこうしている。
何もすることがないからだ。
ここは、シノン城の近くにあるポワティエという町である。
そこにある館の一室に秋と三代目、ウイングの三人は滞在していた。
窓から見下ろす町並みはフランス特有の建築物で覆われ美しく、またジャンヌの噂を聞き人々の心に希望の灯が灯ったのか、今までに比べて人々の表情も明るい。
それなのに、秋の表情はすぐれない。
理由は簡単だ。
ジャンヌとほどんど話ができていないからだ。
彼女はシャルル皇太子以外の有力者に認められるため、審問会を開き、そこで頑張っている。本来なら秋達もそれに付き添うのだが、三代目が起こした事件が尾を引いているらしい。
――断られてしまった。
その事実が、秋をため息吐きマーシンに変えたのだった。
「はあー」
秋のため息が部屋に響く。
「だあああ、鬱陶しい!!いい加減にしろ!!」
三代目が切れた。
「三代目こそいい加減にしてください!!」
ウイングが切れた。
「もともと、こうなったのも三代目の後先考えない行動のせいでしょ!!やるなら自分でやってみろ。俺は助けないからな、とか言っていましたが足を引っ張ることはないでしょう?どう責任をとるつもりですか?」
そ、それは……ごにょごにょ。
流石に悪いと思っているのか、珍しく言葉にキレがない三代目。
そんなとき、秋が覗いている別の窓から、やたら派手な馬車が通り過ぎていくのが見えた。
三代目はその馬車を見て、目を丸くする。
「なんで、あのくそったれの馬車が?」
「三代目、話を逸らさない」
「いや、逸らしているわけじゃない。本当にまずいんだ。どうして……そうか。秋が倒れたから歴史より遅くシノン城に着くことになったから……」
ここで、ようやく三代目の様子がいつもと違うことに秋とウイングは気づく。
「誰の馬車ですか?」
「名前は忘れた。覚える価値もねぇーし、歴史にも名前は載ってねー。しかし、あいつは自分立場を守るためいろいろと強引なことをしていた。特に軍事関係にだ。本当ならあいつは今回の審問会に参加しねーんだが、あいつが参加するとなるとジャンヌにとって拙いことになるかもしれねー」
「そんな……」
その言葉に秋は慌てる。
ジャンヌがシノン城の到着に遅れたのは、他でもない。自分のせいだ。
「何とかできないのか?」
「できないって、言っても建物の中にすらいれてくれねーし」
ジャンヌの逆鱗に触れたのだろう。
ジャンヌの言葉か、秋達は査問会が開かれている建物に入れてもらえないのだ。
三代目はしばらくうんうん、唸っていたが、最後にしゃーねな、と自分を納得させた。
「今回は俺の責任もあるし、仕方がない。ジャンヌのところまで連れて行ってやるから、後はお前がどーにかしろ」
三代目の言葉に秋は笑顔で頷いたのだった。