秋、歴史的瞬間を見逃す
「これがシノン城」
町を見下ろすように高台の上にシノン城はあった。
その歴史は長く、西暦900年代にまで遡る。
つまり、この時代でも既に500年以上の月日を経験しているのである。
それでも城は美しかった。
無論、秋が生きる現代にもシノン城は健在である。
秋はその大きく綺麗な城にくぎ付けになった。
昔の人は偉大だ。
機械もないのに、よくこれほどの物を作ったものだ。
昔の王や貴族がどれほど力を持っていたか、分かるというものだ。
ジャンヌも初めて見たのか、口を大きく開けて目を奪われていた。
「行きますよ」
兵士の言葉に、っは、とする二人。
慌てて兵士達の後を追う。
しかし、
「城は綺麗だけど、町全体は沈んでいるな」
シャルル皇太子がいるにも関わらず、町は暗い雰囲気に包まれていた。
やはり長く続く戦争の影響だろうか?
その時、何処からか笑い声が聞こえてきた。
秋は安心する。
こんな時代でもあんなに楽しそうに笑える人がいることに。
「じゃあー、また来るよ」
「貴方素敵だったわ、わたしずーと、待ってるから」
「「って、三代目!!」」
秋とウイングの声がはもった。
物陰から出てきたのは、最近姿が見えなかった、というか忘れていた三代目と、薄着の女性だった。
何をしていたのか一目でわかる。
ジャンヌも兵士達も神父が何してるんだ? と唖然とした顔である。
しかし、驚いたのは秋達だけではない。
三代目もである。
まさに家族に浮気現場を見られた旦那の顔である。
「や、やあー、みんなお揃いで。ピクニックかな?」
何をしらじらしい。
ウイングは怒りで震え、秋と兵士達は唖然。
そして、ジャンヌは氷のような目で、三代目を見ていた。
シノン城の城門に差し掛かったころ、ジャンヌは言った。
「では、秋達はここで待っていて下さい。わたし達は皇太子さまに会ってきますので」
え、まさかのここで放置?
秋が何か口を開く前に、ジャンヌの絶対零度の視線が三代目に向けられる。
どうやら、三代目の行動が秋達の株をセットで大暴落に導いてしまったらしい。
秋に何か言えるはずもなく、ジャンヌ達が城に入っていくのを見送るのだった。
「で、何をしてだんだよ。今まで」
ジャンヌ達がいなくなってから、秋は三代目に問い詰める。
三代目は秋が体調を崩してから姿を消していた。
ウイングがいたから、現代へ帰れない、ということはないだろうが、少し心配していたのだ。
それが、まさかの女遊びをしていたとは……羨ましい、ではなくもう少し状況を考えてほしい。
「まあ、ちょっと懐かしくてな」
「なつかしい?」
何だ?三代目はここに来たことがあるのだろうか?
ウイングを見ると、首を横に振っている。どうやら彼女はここに来たのは初めてらしい。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
せっかく道中ジャンヌと仲良くなってきたのに、三代目の行動のせいで、自分達も纏めて信頼関係がおじゃんである。
「そうだよ、どうしてくれるんだよ。三代目のせいでジャンヌからの信用がガタ落ちだよ。ここまで旅してきたのに城の外で待ってくれだなんて」
天を仰ぐ秋。
秋が体調を壊したことで、予定より遅れてしまったが、歴史通りならシャルル皇太子はジャンヌを試すため影武者を立てているはずである。それをジャンヌが一目で見抜くのだ。
そんな歴史的瞬間を見逃すなんて!!
突如、城から歓声が聞こえた。
どうやら、完全に歴史的瞬間を見逃してしまったらしい。
秋はがっくりと肩を落としたのだった。