秋、中世フランス時代に行く
更新遅くなりました。
更新日決めても守るのって難しいですね。
おかしな夢を見た、と秋は瞼を擦りながら思った。
突然家に変な二人組がやって来て、自分達に力を貸せ、と言うのだ。
交換条件として、ジャンヌ・ダルクに会わせろ、と二人を試してみたら、蒼い光の扉に吸い込まてしまう、という変な夢だ。
「……疲れているのかね」
それにしても眩しい。もう昼なんだろうか? しかし、昼間にしても眩しすぎる。まるで外で寝ているようだ。そういえば、この肌に感じる感触もまるで草のような……。
「……って、何処だ、ここ?」
秋の視界に映ったのは見慣れた自分の部屋でも風景でもなかった。
手入れのされていない草木に、心持整理されたかのような砂利道。
遠くに見えるのは、馬車……荷馬車だろうか? 馬の手綱を握っている男も日本人ではなく、北欧辺りの顔立ちに感じられる。
荷馬車といい、荷馬車の手綱を握っている男の服装といい、秋の脳裏に一つの単語が浮かぶ。
――中世フランス時代である。
「っよ、目が覚めたか」
唖然としている秋の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「おい、これはどういう……」
言葉の途中で秋の表情が固まった。
秋の脳裏を満たすのは、先ほどまでの混乱ではなく……って、何その恰好? である。
「なんで、コスプレしてるんだよ?」
三代目は神父服を着ていた。神父服を着れば誰でも聖人のような雰囲気を多少なりとも醸し出すと思うのだが、三代目のガラの悪さは神父服では隠せないらしい。ガラの悪い不良から、ガラの悪い神父に見事にクラスチェンジをしていた。
ウイングはシスター服に着替えていた。もともと持っていた神秘的な雰囲気とよく似合っているのだが、背中をばっさり露出させているので、何処かおかしい。何か背中を露出させないといけない、こだわりでもあるのだろうか?
「コスプレじゃねーよ。いいからお前もこれに着替えろ」
三代目は秋に乱暴に袋を投げつけてくる。
袋の中身は少し古臭い、中世を舞台にしたファンタジーゲームに出てくる村人が着ていそうな服だった。
……とても嫌である。
「え? どうして、こんなダサい服に着替える必要があるんだ?」
「この時代は戦時中だからな。自分と違う容姿や服装だけでもトラブルになりかねないだよ。分かったら、さっさと着替えろ」
えー。あまり袖を通したくないなー。と秋が思っていると着替え方が分からないと勘違いしたのか、何故か鼻息荒く、ウイングが迫ってきた。
「秋、着替え方が分からないのでしたら、私が手伝います。いえ、何が何でも手伝い……って、三代目? 首が絞まります。三代目。ちょっと、放してください。私は秋の着替えを、着替えをおおおぉぉぉおおお!!あ、秋ぃぃいいいいいいいい!!」
ずるずると襟首を掴まれたウイングが三代目によって引きずられていく。
それを見ながら秋は思った。
清楚で何処か神秘的な雰囲気の良さを感じさせた? っは!? 秋はウイングのイメージを下方修正したのであった。
秋が物陰で服を着替えた終わった頃と、ウイングが先ほど見かけた荷馬車を捕まえたところ、ほぼ同時だった。
「秋、目的地であるドンレミは徒歩では少し遠い。この荷馬車に乗せていただけることになりましたので、この馬車で行きましょう」
――ドンレミ。
確かフランスの片田舎の村の名前で、ジャンヌ・ダルクが生まれた地である。
なるほど、荷馬車で行くのか。
ガラガラ、と荷馬車が秋達を乗せて、ゆっくり走り出す。
路上も荷馬車も状態がよくないのだろう。
乗り心地は最悪である。
そんななか、乗ると同時にいびきをかく、三代目にはすごい、と思う。
しかし……。
ここは本当に中世フランス時代なんだろうか?
確かに見たことのない景色、感じたことのない雰囲気。常識では考えられないが、まさか、本当に……って、思ってしまう。
「なぁー、ウイング。少し聞きたいんだけど、ここは本当に中世フランス時代なのか?」
秋の質問にウイングは荷馬車の主人との会話を切り上げて、はい、と頷く。荷馬車の主人が嫌そうに舌打ちした。
「ここは、中世フランス時代。今からジャンヌに会いにドンレミに向かっている途中です。日が暮れるまでには着くそうです」
荷馬車の主人から聞いた話では、すでにジャンヌの噂は神の声を聴いた少女として、この周辺で有名なんだそうだ。
「なら、ジャンヌに出会ったら後、どうするんだ?」
ウイングはそうですね……、と三代目を見る。
「私個人としては、すぐに私達の家に招待し、私達のことをいろいろ知ってもらい、力を貸してもらいたい、と考えていますが……」
三代目ですからね。どう考えているのやら……、とウイングは手で顔を覆う。
なんか苦労してそうな雰囲気である。
でも折角だ。ドンレミに着くまで時間もあるし、いろいろ聞きたいことも出てきたので秋はいろいろ質問をしてみることにした。
先に聞いたのは、どうやって、時間を超えたのか? 簡単に超えられるものなのか? とのことである。
ウイングによると、とんでもない、とのこと。
何でもこの世界を構築しているのは三つの力なんだそうだ。
――時間。
――次元。
――創造。
次元は土台を創り、創造はそこに歯車を創る。そして時間はそれを動かす。
つまり、次元は世界を収める空間を創り、創造はそこにある世界を万物を創る。そして時間はそれらを動かしているのだ。
そんな三つの力は至高の中の至高。神秘の中の神秘、と呼ばれている。
数多ある能力があるが、この三つの力は何人も寄せ付けない最強の力なのだそうだ。
秋は三代目を見る。
あ、よだれが……とてもそうは見えない。
「ウイングも何か力があるのか?」
「? 私ですか? ふふふ、今は秘密です」
次の質問は、もし歴史を変えた場合の影響である。
歴史を変えて、自分が生まれない未来が来て、自分が消える、なんてことはゴメンである。
ウイングが言うには、そんなことはありえない、とのこと。
なんでも過去で歴史を変えた場合、その過去は別の未来へと進んでいき自分達の時代とは重ならないのだそうだ。
だから、ここで何か歴史を変えても別の未来に進んでいきますので、大丈夫です、とのこと。
また、大きく変えた未来は、自分達の時代の過去とも重ならないため、二度と接触することはできないそうだ。
接触するためには、次元を操る能力が必要とのこと。
そういえば、自分の家で次元の能力について、話が出てきた。
あの時は信じてなかったのにで、半分後半は聞き流していたが、もう一度しっかり聞くべきだろう。
何より二人は、自分に何を手伝わせるつもりなのか、何も聞いていないのだ。
「はい。秋の家でも話しましたが、私達は時間の旅をしていました。そんな時次元干渉能力者と出会ったのです。三代目はあのように、口は悪く、態度も悪い、オレ様野郎なため次元干渉能力者とすぐぶつかりました。時間と次元。二つの力はぶつかり合い、都市を壊滅させました。そして、最後に次元干渉能力者が次元の穴を開いたのです」
「次元の穴?」
「はい、時間でいうと、おそらく時の扉のようなものでしょう。三代目はそれに飲み込まれそうになりましたが、それを救ったのが先代である二代目。二代目が次元干渉能力者と共に穴に飛び込んむことで、私達は助かったのです」
その時の光景を目に浮かべているのか、ウイングは悔しそうな顔をしていた。
「……廃墟の中、三代目は雨に打たれながら私に言いました」
――ウイング。
旅をしよう。
過去へ未来へ、そして可能性へ。
あらゆる所に旅をしよう。
二代目が死ぬとは考えられない。
きっと何処かで俺達を待っている。
もし次元を越えて異世界にいるっていうなら、次元を越える方法を探し出そう。
いつか、きっと迎えに行ってやる。
「…………」
秋は三代目を見る。鼻ちょうちんが出来ていた。
「でも、それが俺に力を借りたい、って話になんで繋がるんだ? っは? まさか俺は次元を操ることができるのか?」
もし次元を操れれば、探す場所が格段に広がるだろう。話から二人は次元は越えられないようだし。
ウイングは、ああ、そんな考え方もありますね。って顔で頷いた。
「それはですね……」
「おい、着きましたぜ」
話を遮るように、荷馬車の主人から声がかかり荷馬車が止まる。
どうやら話に夢中になり過ぎていたらしい。
目的地はすでに目の前だったのだ。
荷馬車から降りる。
「ここが……ドンレミ」
家畜の鳴き声に交じって、鐘の音が秋の耳に届いた。