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時のオーケストラ  作者: オーケストラ
14/15

オルレアン

 長い長い旅だった。

 実際には一か月ぐらいの短い旅である。

 それでも秋にとってこの旅は新鮮で、多くのことを勉強させてくれた。

 最初こそ兵士達とそりも合わなかったが、今ではずいぶん打ち解けてきたと思う。

 そして、思うのだ。

 この打ち解けてきた兵士達の何人が生き残れるのだろう?と。

 オルレアンにつけば、戦争が始まる。

 行きたくない、と秋は思う。

 でもどんなに願っても、その願いはウイングですら叶えることは出来はしない。

 そして、旅は終わる。

 秋達はオルレアンにたどり着いた。


 ――オルレアン。

 フランス中心に位置する都市で、ロワール川という大きな川沿いにある町だ。

 この時代ではイングランド軍に包囲されており孤立無援の状態である。

 因みに秋の住む現代でもオルレアンは現存しており、フランス有数の首都として数えられてる。

「――以上が三代目様からの授業でございやした」

「あーはいはい」

 秋は三代目の偉そうな説明を軽く聞き流す。

 三代目は、そんな秋の態度に不満そうだが、今はそれどころではないのだ。

 どうやらジャンヌとどっかの偉い人が喧嘩を始めたらしい。

 道中なんども喧嘩の現場は見たが、戦争が始める直前で喧嘩をしたものだから、部隊は混乱している。

「っち、せっかく俺様が説明してやってるのに、可愛くねー奴。だいたい歴史通りじゃねえーか。歴史通りに進めば、未来がわかるからーいいことだろーが。何でてめーまで混乱してやがんだよ」

「え、そうなの?」

 秋はジャンヌがオルレアンを救うことは知っているが、経緯など細かい部分は知らない。

「っは、救いたいって言っておきながらそんな事もしらねーのか?」

 秋は、うっと唸った。

 三代目の言う通りである。

 秋は細かい歴史の内容まで知らない。

 それで、どうやってジャンヌを助けるというのだろうか?

「今回だけ教えてやるよ。今夜筏でロワール川を渡ってオルレアンにはいるんだよ」

「ロワール川を?」

 川の幅は広く、また流れも速い。とても筏で渡れるとは思えないが……。

「それが、聖女が起こした奇跡ってやつさー」

 その夜、三代目の言葉通り闇夜に紛れて筏でロワール川を渡ることになった。

 当初は無謀だと思われたこの作戦は、突如川の流れが変わったことで成功したのだ。

 その奇跡に、人々はジャンヌへの信仰心を高めていった。

 オルレアンに無事たどり着く。

 この時代の人々が床に就く時間は早い。

 明かりがないため、すぐに眠りにつくのだ。

 なのに、夜にも関わらず町の住人は起きていた。

 どうやら、ジャンヌが来ることを噂で知っていて、ずっと待っていたらしい。

 彼女の噂はイングランド軍に包囲され孤立している町にまで、届いていたのだ。

 こうして、ジャンヌは大きな歓声をもって町の住人に迎えられたのだった。


 翌日、秋達はオルレアンの滞在場所にとジャンヌに与えられた館に同居させてもらうことになった。

 久しぶりの屋根のある生活に秋は興奮した。

 一通り屋根のある部屋を堪能した後、秋は三代目に尋ねた。

「で、これからジャンヌはどうなるの?」

 大まかな歴史しか知らない秋にとって、三代目の知識は喉から手がでるほどほしい。

 今はジャンヌが出かけていていない。チャンスは今しかない。

 しかし、返ってきた返事は、

「誰が教えるか、ボケ」

 である。

「ったく。自分が助けたいって、言ってたくせに人に頼るんじゃねーよ。自分で考えて自分で行動しろ」

「いいじゃねーかよ、少しぐらい」

 秋は反論するが、三代目は聞く耳もたずである。

「喧嘩はそれぐらいにして、そろそろジャンヌが帰ってきますよ」

 ウイングが夕食の準備とばかりに湯気が出ている料理をテーブルへと運ぶ。

「ウイング、分かるのか?」

「ええ、あれほどの歓声が近づいて来れば……」

 確かに耳を澄ますと、歓声らしき声が聞こえてくる……ような気がする。

 どうやらホムンクルスは五感も常人より鋭いらしい。

 だが、ウイングの言った通り、それから数分後には多くの町に住人を引き連れ、ジャンヌが帰って来た。

「はああ、疲れたわ」

 扉を乱暴に開けて、ジャンヌがフロアに入ってくる。

「お疲れさまー、飯ができてるよ」

 作ったのはウイングだけどな。

「ありがとう、いただきます」

 ふらふら、幽鬼のような足取りで席に着くジャンヌ。

 それでもしっかり飯は食べる。

 最近のジャンヌはいつもこんな感じである。

 町の人達はずっと助けを待っていた。

 そんな時、ジャンヌの噂を聞いたのだ。

 オルレアンには昔から伝説があったらしい。

 聖女が町を救う、というものだ。

 町の人達はジャンヌをその聖女だと考え、ずっと待っていたのだった。

 そのため未だ何も功績を残していないジャンヌだったが、誰も彼女を疑うことなどなく、挙って彼女を祭り上げた。

 最早アイドル扱いである。

 もっとも、まだ何も功績を残していないジャンヌにとって、それは苦痛以外のなにものでもなかったらしい。

 日に日にやつれていった。

 でも飯はちゃんと食う。

「明日も会議か?」

「うん、でもあまりいい感じじゃないわね」

 市民と違い、町の有力者達はあまりジャンヌに対して友好的ではない。

 何でも有力者達はオルレアンが陥落しても助かる術はあるらしい。

 どの時代でも上は汚いな、と秋は思う。

「こうなったら、強硬手段しかないかな」

 ジャンヌはパンを噛み千切りながら何かを決意したようだった。

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