オルレアンへ出陣
進軍の開始日。
その雄姿を見ようと一目みようと多くの町の人々が集まった。
そんな中で、ひと際異彩を放つところがあった。
ウイングのところだ。
「おお、天使ウイング様。どうか我々をお導きください」
「……私は貴方達を導くことはありません。それよりお願いした件ですが……」
「はい!貴女様のことは誰にも口外いたしません。子孫末裔まで約束を守るよう語り継がせましょうぞ」
ウイングが疲れ切ったため息を吐いている。
ウイングが言っているのは、あの天使事件のことである。
あの事件の後、ウイングはすぐにその場にいた連中にこの事件を口外しないようかん口令を強いた。
彼等はウイングに気に入られたいのだろう。
すぐに了承した。
しかし、彼等の言葉を聞く限りでは、本当に守られるかはたいへん怪しい、と秋は思う。
そういえば、この進軍の準備期間中、あのウイングの姿を見た彼等は何とかウイングに気に入られようと四苦八苦していたらしい。
もっともすべて空振りである。
よく見ると、あのクソ野郎の姿まである。
厚いのは脂肪だけではないようだ。
ウイングも諦めたのか馬に跨ると同時に、逃げるように自分のところへやって来た。
「秋、乗馬は慣れましたか?」
「まあー、少し尻のところが熱いかな」
「ふふ、そうですね。しかし、本当に上手く乗れるようになりましたね」
練習の成果である。
「そういえば、三代目は今日もいないのか?」
ジャンヌは偉い人達と話がある、と部隊の先頭の処にいるが、三代目の姿はどこだろう?
三代目はこの準備期間中、よく姿を消していた。
また女遊びをしているのでは?と思うが、流石に今日いないのはまずくなかろうか?
「ああ、三代目ならここに」
ウイングが笑顔で、馬に乗せてある荷物を開ける。
ぼろぼろの姿になった三代目と目があった。
「……………………」
秋は見なかったことにした。
「では、皆さん。オルレアンを救うため出陣しましょう!!」
ジャンヌが旗を靡かせながら部隊を走り回る。
それに呼応するように、部隊全体から雄たけびが上がる。
こうして、進軍は開始されたのだった。




