68・潜む者と消える人
「いってきまーす!」
私はいつもみたいに制服を着て家を出る。家族に迷惑をかけないように振る舞って私は学校と逆の方向へと歩き出す。
しばらく歩いていると3階建ての廃墟に辿り着く。
ここは昔なんだったのかわからない。しかし、3階というのは私が小さな時からお世話になっている『國矢部小児緊急センター』に似ている気がする。
しかし、ここは綺麗な國矢部小児緊急センターと違い、ボロボロの壁には色んな落書きがあり、窓などのガラスも割れていて周囲には私の膝近くまで草が生えていた。
私は少し躊躇ったが、元玄関まで歩いていった。
ーーーー(幕間)ーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
コツ・・・・・コツ・・・・・コツ・・・・・コツ・・・・・。
玄関には鍵が掛かっていなくて、すんなりと中に入れた。私は奥へ奥へと進んでいく。
しばらく歩いていくと、ドアがないとある一室から微かに話し声が聴こえてきた。耳をすましてみると、男性と女性の声のようだ。
私は足音を立てずに部屋の入り口まで近付き聞き耳をたてた。
「まさか、あいつが入院するとは思わなかったな・・・・。」
「ねぇ、吉乃。次はどこを攻めるの?」
「そうだな。あいつが入院しているときに本拠地を攻めるのも面白そうだな。」
何やら分からない話をしているが、女性は確かに『吉乃』と言っていた。女性の言ったことが本当なら、あの人達は私の一歳歳上である。
彼の名は染井 吉乃であり不良である。ここら辺は色んな不良グループがいるが、その中でもここにいる染井 吉乃と、佐次田 寅雄のグループが今、頂点争いをしていることを聞いたことがある。ところが、寅雄はどこかに入院をしているという噂も聞いたことがある。
(ここにとてもヤバい人がいたなんて・・・・・。さっさとここから離れよう。)
私は再び足音を立てないように歩き出し、その場から離れた。
「ん?さっき誰かいたか?」
「気のせいじゃない?もう、ここは廃墟なのよ?怖いこと言わないでよ・・・・・。」
という話し声が聴こえた時にはとても焦った。
ーーーー(幕間)ーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガチャ・・・ギギギギ・・・・・・。
錆び付いて硬くなったドアを力一杯押して開ける。ここは屋上である。
私はフェンスのところまで行き景色を眺めていた。本当なら学校に登校しているはずの景色はとても綺麗であった。決して自然が豊かではなく、都会の町並みなのだが、私は"最後"の景色を目に焼き付けていた。
(大神くんは何をしているのだろう。って、なんで私はまだ大神くんの事を考えているのだろう。)
そう、私は振られたけど、まだ大神くんのことが好きなのだ。なのに大神くんは私をいじめていた加賀美と楽しく話していた。それに加賀美が私の事をいじめているのに気づいてほしかったなぁ。
それは無理なことと分かっていてもそう考えてしまうのであった。
ガガガガ・・・・・。
私はフェンスに手を当てながら歩いていく。そして、1ヶ所だけフェンスがないところに辿り着く。
2、3歩歩き、屋上のギリギリのところに立つ。下は見なかった。見ると膝が震えそうな気がしたからだ。
私はポケットから封筒と生徒手帳を出し、右手で握る。
「大丈夫!痛いのは一瞬。大丈夫!痛いのは一瞬。・・・。」
私は目を閉じ呪文のように唱えた。そして、目を開けて再び景色を眺めた。
「・・・・・・・・。」
しばらくしてから、私の姿はゆっくりと屋上から消えたのであった。




