44・不審な猫は不信な猫
早朝の嫌な夢とは別にすごく良い目覚めをした午前7時半。
嫌な夢とはいったが、感覚が“嫌な夢を見た”というだけで、夢の内容は覚えていない。
しかし、嫌な夢とは別に気分がとてもいい。
「んっ!・・・うんん~・・・」
私はベッドから降り、思いっきり背伸びをする。背伸びが終わったあとに私は窓がある方面に歩き窓を開ける。
いつも通りの噴水、花壇、泣いている女性が見える。
私はしばらくの間、そよ風に触れている。
今日はクルミちゃんと話すことができるだろうか。また、ミカミちゃんと話しているだろうか。などと考えながら、外を眺めていると廊下から慌ただしい足音が聞こえた。そういえば、朝早くにも聞こえたような気がする。早朝の足音は寝ぼけていたから夢の中での出来事の様な気がしたが、改めて足音を聞くとあのときの音は夢ではなかったのだなと思ってしまう。
私はドアまで歩いていき、そっとドアノブに手を当てる。
ガチャリ・・・・ギギィ・・・・
私がドアを開けたとき、ちょうど目の前を一人のメイドが歩いていた。215号室方面からエレベーターのある207号室方面に歩いて行くところだった。メイドは何やら大きなダンボールを持っていた。
私は廊下に出てみる。私が廊下に出ると同時にクルミちゃんの部屋の前にいたミカミちゃんが自分の部屋に走っていくのを見た。
ガチャ!・・・バン!
ミカミちゃんが力任せに開けたドアにミカミちゃんは走って入り、彼女の手でドアはすぐに勢いよく閉められた。一瞬だったので不確かなのだが、ミカミちゃんの目にはうっすら涙が溢れていたような。
ミカミちゃんの不思議な行動に私は廊下に立ち尽くしていたときであった。エレベーター方面から手ぶらなメイドが数人やって来て213号室に入る。入れ替わりでダンボールを持ったメイドが213号室からエレベーターのところに慌ただしく移動する。
私はそのメイドの行動にすごく嫌な予感がする。 私の頭の中が真っ白になる。
ペタ・・・・・・・・ペタ・・・・・。
私はゆっくりとクルミちゃんの部屋に向かって歩いていく。すごく体が重い・・・・。まるで鎖付きの鉄球を両足に付けている、又は大きな男の人が両足にしがみついているようだ。一歩歩くのに数秒掛かっているようだ。
ペタ・・・・・・・・ペタ・・・・・。
どうしたの?クルミちゃん?メイドはクルミちゃんの部屋で何をしているの?
ペタ・・・・・・・・ペタ・・・・・。
あっ!さてはクルミちゃんの部屋で楽しくパーティーしているのだろう。私は無理矢理にでもそんなことを思っていないとどうかなりそうだった。
しかし、現実は自分が悪い方に思っていた通りになってしまった。
クルミちゃんの部屋のドアは開いている。廊下から部屋の中が丸見えだ。部屋にはクルミちゃんの姿はない。メイドが数人、部屋の中にある荷物などをダンボールに片付けている。部屋のほぼ中央くらいの場所に五月と宇美がいた。宇美はすごく泣いており、それを五月がギュッと抱きしめており、宇美の頭を優しく撫でている。
私はその状況が分からなかった。いや、もしかしたら分かっているのかもしれない。
「ねぇ。なんなの・・・・・これ・・・・・」
私は弱々しく五月と宇美に聞いた。
「クルミちゃんはいないの?別の部屋に引っ越しをしたの?」
五月は宇美を抱いたまま私を見て、悲しそうに目を閉じ、首を振る。
「クルミちゃんはね。旅に出たんだよ・・・・」
五月は泣き終わった後だろうか、微妙に声が震えている。その五月の話を聞いた宇美がまた一段と大きな声で泣き始めた。
「な、なんで旅に出たの!?どこに旅に行ったの?」
私はすごく声を荒くして五月に聞いた。
「あそこの門・・・・・・の向こう・・・」
五月は窓から見える門を微かに震えながら指を差す。
「戻ってくるの?」
「もう、戻ってこないの・・・・・」
すぐにクルミちゃんが帰って来ると期待して聞いたが、残念ながらもう戻ってこないようだ。もう二度とクルミちゃんに会えない・・・。
私は信じられないという感じに目を見開いて数歩後ずさりをする。
・・・・・・・・・・そして私がした行動は・・・・・・。
ガチャ!・・・・・バン!
ミカミちゃんと同じであった。
部屋に戻った私は力もなくフラフラとベッドに向かう。そして、バスン!と顔からベッドに倒れる。しばらくそのままでいたら廊下から慌ただしい足音が聞こえる。
なにも考えられない私。たぶん、クルミちゃんは数日前には自分がこのようなことになることは知っていたのだろう。
私はそっと目を閉じた。
ー(幕間)ー
しばらくして初めて見るメイドが朝食を持ってきたが、その朝食が喉を通ることはなかった。
放心状態。私の今の状況を例えるとしたらそんな感じだ。目は開けている。しかし見てるものが全く頭の中に入ってこない。
私はクルミちゃんとの出会いを思い出していた。出会ったきっかけは、クルミちゃんの歌であった。私はその綺麗な歌声に導かれ、クルミちゃんの部屋を訪れた。
そのあとミカミちゃんがやってきて、私を恐がる。私はミカミちゃんと仲良くしようと『魔法少女アイドル@スリー』の話をした。すると2人も知っており、ここに“魔法少女同盟”を結成して3人で遊んだ。
「私はねぇ~。ミルクちゃんが好きだよぉ~。いつもマイペースなところが好きかなぁ~」
と嬉しそうに話していたクルミちゃんを思い出す。クルミちゃんはミルクちゃんが好きで、ミルクちゃんの話をするクルミちゃんはとても生き生きとしていた。
私は主人公のケミーが好きだった。私は元々は好きなキャラがいなくて単に面白くて観ていたアイドル@スリー。しかし、私がケミーの魅力に気付いた回があった。
それは前にも言ったが、敵に捕まったミルクちゃんを助けるシーンだ。
敵に捕まったミルクちゃんを助けにアジトに乗り込むミミカとケミー。そして後ろから迫り来るアクギョーの量産型敵、『ヘンジーン』。
「こ、ここは私に任せて!ケミーちゃんは先に行って!」
ミミカは立ち止まり、後ろから来る敵を食い止める。
そしてケミーはミルクちゃんのところまで辿り着き、前回敵わなかった敵と戦い、ボロボロの姿で見事勝利する。
私はこのシーンが好きで何度も何度も録画したこの回を観た。
私もケミーちゃんみたいになれるかな・・・・・・。
そう思ったときだった。それを待っていたかのように昨日見た夢を思い出した。
暗闇で泣いていたクルミちゃん。そう!これは、シシミの言っていた予知夢だと思う。クルミちゃんは絶対にこの旅立ちを望んでいなかった。
そうだ!そうだよ!今こそ私はケミーちゃんみたいになるんだ!
ミカミちゃんと一緒に門番を倒してクルミちゃんを助けよう!
私はそう決心した。そうと決まれば早速ミカミちゃんに会いに行こう。なーんだ、簡単なことじゃん!なんで勝手にクルミちゃんの総集編みたいにしていたんだろ私。
そう、今の私は簡単にクルミちゃんを連れ戻せると思っていた。
今のところは、ね。




