15・陽気な猪と元気な猫
ドアを開けると、廊下に頭を押さえてペタンコ座りの女の子がいた。
(この女の子は一体誰なんだろう)
私はそう思い呆然としていたら、いきなり立ちあがり。
「ねぇねぇねぇ!あなたが乱闘の目撃者の人でしょ?私はとてもとても知りたい!」
茶色の瞳を輝かせて私を見てきた。というか顔が凄く近い。
「私はミケだけど、あなたは誰なの?」
私は自己紹介をして相手が何者なのかを訪ねる。
「あ!申し遅れたのです。私は205号室のいろいろな情報がほしい『シシミ』なのです。好きな言葉は『猪突猛進』なのです!」
とまるで教師に質問する生徒のように右手で綺麗な挙手をして丁寧に自己紹介をしてくれた。
「さっ!自己紹介も終わったし、ミケミケ!私の情報では、ミケミケは最初の乱闘者、オオカミ&白熊と知り合いで次の乱闘、メイド長&メイド副長の目撃者!だよね?だよね?そーなんだよね?」
シシミはぐいぐいと私に寄ってくる。まるで記者からのインタビューみたいだ。ってかミケミケって・・・・。
「え、えっと。白熊は知り合いだけど、オオカミくんは知らない人だよ」
私は苦笑いで答える。
「えっ?けど・・・・・。オオカミさんはミケミケのかの・・・・」
「違うよ!」
私はシシミの言葉をさえぎって大声をあげる。シシミは驚いて目を見開く。なぜ私がさえぎったのかが分からない。
「私はオオカミくんの事は知らない。その前に会ったのもここ最近だよ」
私はオオカミさんの事を否定する。
「・・・・・・・・。そっか。じゃあ、この話はここまでで!」
何かを悟ったのかオオカミさんの話題は打ち切りシシミはニヤニヤしている。次の話題がどうやら本命のようだ。
「じゃ、じゃあ、他の質問!ってかこっちが本命?ねぇねぇねぇ!雲木と引田の乱闘はどうだった?勝負はどっちが勝ったの?知りたい!知りたい!私は知りたいの!」
私にぐいぐいと寄ってくるシシミの瞳は輝いている。
「えっと。2階に住んでいるんだよね?じゃあ、見てたんじゃないの?」
私はシシミに言うと、シシミは固まってしまった。
「いや、あのぉ~。あの2人が出会ったらどんなワル軍団も青ざめて逃げていくと評判だよ!この屋敷でも2人が会った瞬間に皆は本能的に逃げていくんだよ」
そう言うシシミの顔は青ざめていた。
「あの2人を見た時点で周りに誰もいなくなる。つまり!つーーーまりーーー!!ミケミケがとーーーっても貴重な人物なんだよ!」
シシミは大袈裟にまるで円を描くように両手を上げて表現をする。どうやら私はとても貴重な猫らしい。
「で!で!ででで!いつも謎になっている雲木と引田の戦い!激しい激闘は何度かあったが、結局はお互いほとんどダメージ無しで決着がついているんだよね!さてさてさて!果たして、どっちが強かったのでしょうか!」
持ってはいないが、マイクを私に向ける仕草をするシシミ。
「・・・・・・・・・五月」
私は目をそらしボソッと答える。
「へっ?」
シシミは意外な答えに目を点にして固まってしまった。それもそうだ。雲木でもなく引田でもなく、五月の名前が出たのだから。
「さ・・・・・。五月ってあのフツーーのメイドの佐次田 五月さん?何で?何で?何で?五月さんの名前が出てくるの?」
右手人差し指を口元まで持っていき、右の方に頭を傾けるシシミ。
「実は、2人が決闘している時に五月が現れて、2人の決闘をとm・・・・」
「じゃあ!じゃあ!あの場所に五月さんがいたんですか!?あの、胸がデカくて男性の目を釘付けにしていて、30代前半なのに20代半ばとサバ読みしている五月さんですか?」
私の言葉をさえぎってシシミは身を乗り出して聞いてくる。いろいろ酷いことを言っている。
「う・・・・うん・・・・・」
私はシシミのテンションにおされてしまい、二つ返事しか出来なかった。
「ありがとう!ミケミケ!貴女はとても素晴らしい情報提供者だよ!よし!ではでは、私は五月さんにいろいろ聞き出そう!」
そういって瞳を輝かせてガッツポーズをするシシミ。
「あの・・・・・・。それは危険だと思う」
と言ったのだが、「危険だと」の所でシシミは「そーれ!猪突猛進!!」と言いながらペタ!ペタ!ペタ!ペタ!ペタ!ペタ!ペタ!ペタ!と凄い勢いで走っていった。
「・・・・・・・・」
私はいきなり嵐が来て、その嵐がいきなり去っていったので言葉を失っていた。
「南無阿弥陀仏」
私はシシミが走っていった方向に両手を合わせて念仏を唱える。
余談なのだが、それから三日間シシミを見たものはいない。噂では部屋の隅で怯えていたらしい。そのあと、シシミが五月を呼ぶときは「五月さま!」になっていた。