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「───瓏衣くん」
祷とわかれたあと、よく知っている声に呼ばれた瓏衣は素直にそちらへ顔を向ける。
だが何故だろうか。その声には多少の怒気が潜んでいる気がした。
「あ、千鶴! セレン! ……ってことはそこの着ぐるみが雪羅か」
風船配りのスタッフ用の赤いジャケットを着た、しかしむくれ顔の千鶴と、彼女の後ろで苦笑いしているセレン。その隣で間の抜けた顔のライオンの着ぐるみが陽気に手を挙げて挨拶する。
三人はこちらの西側と同じ構造をした、東側の吹き抜けのホールで他のスタッフたちと風船配りをしていたようだ。
「お仕事放り出して何してるの」
「誤解だ。ちょっと理由があってオレだけ先に休憩もらってたんだよ」
ずい、と詰め寄る千鶴に心外だと瓏衣は眉を顰める。だが千鶴は疑わしげな目のまま口を開く。
「……瓏衣くん、昨日の子と一緒にいたよね。どうして一緒にいたの……」
「ああ。散歩ついでにどんな店があるのか見に来たんだって。オレはいいって言ったんだけど、どうしても昨日の礼がしたいって押し切られちゃって、それでたい焼きだけ奢ってもらったんだ」
すると、千鶴は白い頬を餅のようにぷくーと膨らませ、ぽかぽかと瓏衣を叩く。
「バカバカ瓏衣くんのバカ!」
「えっ!? なんで怒ってんの?! まだ行ったことないスイーツ屋抜け駆けしたから!?」
「むー!」
そうだけど、そうじゃない!
中学からずっと、スイーツ巡りは小太郎も加えた三人でしていたから、自分たち以外の誰かとまだ未踏のスイーツ屋に行ったことは確かに有罪だ。有罪だが。
その相手が自分の知らない女の子であるということに、問題があるのだ。
「瓏衣くんの鈍ちん! 唐変木! まっくろくろすけ!」
「うーん罵られてんのかなんなのかよく分からん……」
本人は必死のようだが、相変わらず相手を罵倒する時の言葉のチョイスが微妙だ。
「あの、瓏衣さん……。そろそろ戻られたほうが……」
セレンがやっとの思いで半ば呟くように口を挟む。
助け舟も本心だが、なにより一緒に分けられたカイナと小太郎が待っているはずだ。瓏衣が戻らなくては休憩に入れまい。
すると瓏衣はここぞとばかりに声をあげる。
「あそうだよ戻らなきゃ! 千鶴、悪いけど話はまたあとで!」
「あ! ちょっと瓏衣くん! あとでそのたい焼き奢らないと許さないから!」
「ええぇっ!?」
文字通り思い出したように走り去る背中に千鶴が言葉を投げつけると、彼女を説得する猶予が無い瓏衣は思わず振り返りながらも足は止めず、そのまま走っていく。
終始苦笑のまま見送るセレンと、その隣で喋ることが出来ないので静かに手を振る、これまた間の抜けた顔のライオンの着ぐるみを被った雪羅。




