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 薄暗く冷たい空気の中、ひゅん、と竹刀が空を切る。

 屈んで避け、下からみぞおちを切りつけるが、ひらりと躱された。さらに踏み込んで追撃を試みる。

 一撃。防がれた。

 二撃。三撃。右から左から竹刀を振るう。

 これも避けられ防がれ当たらない。


「フフン」


 わざと得意気に鼻を鳴らしたカイナの顔は、楽しげに綻んでいる。


「はぁ……! ……はぁ……!」


 一方激しく呼吸が乱れ肩で息をする瓏衣は、汗を流す自身と涼しい顔をしたままの彼との目に見える実力差に、そして彼のすかした笑みに、眉間にシワを寄せる。

 睨みつけながら今度は上から竹刀を振り下ろした。それも見切られ、竹刀と竹刀がぶつかり、カンッと音が鳴る。

 すると、瓏衣は十八番おはこの脚技を見舞う。


「おいっ……!?」


 誰もいない早朝から剣の使い方について手解きしていた最中に脚技を出してくるとは思わなかったのか、驚いたような声を出して若干目を丸くするも、カイナは迷わず飛び退る。

 外した攻撃は隙へと変わり、彼の目付きも変わった。下がった体を受け止めた足に力を入れ、バネのようにして今度は飛び出す。

 不自然に足を出し、竹刀が後ろへ引っ込んでいる体勢の瓏衣がまずいと奥歯を噛む。突き出した足を引き寄せるようにして急ぎ仕舞い、代わりに竹刀を出す。


「あぐっ!」


 下から迫る竹刀をなんとか受け止めたが、間髪入れず再び竹刀が迫る。負けじと半ばぶつけるように竹刀を繰り出した。


「得物を引っ込めてどうする。死ぬぞ」

「わかってるっつの……!」

「イライラすることも禁物だ。判断が鈍るし、集中が途切れて入れた力が分散して、得物がブレる。だから、」


 言葉を区切ると、カイナは竹刀を握る両手のうちの片手を放した。


「っ!?」


 瓏衣が目を剥く。

 彼が片手になってもなお、瓏衣の両手が握る竹刀は恐怖したように震え、受け止めるのが精一杯で押し返すことができない。


「片手相手にも押し負ける」

「くっ……! このっ……!」


 涼しい顔で言う彼にムカついて、悔しくて、瓏衣は辛うじて彼の竹刀を弾いた。また攻められる前にと竹刀を振る。額から流れる汗が散る。

 が、上から押さえるようにして叩き落とされ、さらには、


「あっ……!?」


 瞬きよりも短い瞬間にいったい彼は何をしたのか。気づけば竹刀が瓏衣の手からすり抜けて宙を舞い、カイナの握る竹刀が鼻先まで迫っていた。完敗だ。

 一拍の間があって、地面に落ちる竹刀が横目に見えた。


「手や脚技は得物で相手に強い一撃を与えて怯んだ隙や、相手の得物が相手の体より後ろにあるときに使うといい」

「……わかった……」


 竹刀を下ろした彼に俯きながら返事をすると、頭に大きく温かい温もりが乗る。おそらくは彼の手だろう。


「よしよし。勉学でも武芸でも、素直な子は伸びるからな。教え甲斐があるというものだ」


 カイナは手を放し、少し離れた場所に落ちている竹刀を拾い上げる。

 朝日がもうすぐそこまで迫り、修行場所として選んだ森林公園内はみるみるうちに明るくなっていく。やがて朝のジョギングや飼い犬の散歩をする人の姿がちらほらと見えてきた。


「オレ、伸びるかな……。強く、なれるかな……」


 汗を拭った自身の手を見下ろしながら呟いた瓏衣の顔は少し不安げな表情である。

 カイナは瓏衣に歩み寄り、もう一度頭を撫でた。


「大丈夫だ。強くなりたいんだろう? そう思い続けているのなら、君はきっと強くなれる。しかし焦ってはダメだ。少しずつ進めばいい。少しずつ強くなればいい。私でよければいくらでも稽古に付き合おう」

「……うん。ありがとうカイナ。いや、違うな……」


 上げた顔を反らして、なにやら考え出した瓏衣にカイナは首を傾げる。

 そして言うべき言葉を頭の中でまとめ、改めてカイナの顔を見上げて瓏衣は笑う。


「ありがとうございます。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします、師匠」


 呆気に取られ、固まったのも束の間。言葉を理解したカイナは顎に手を添え、どこか嬉しそうに笑った。


「なるほど、師匠か。ふむ。悪くはないな。では、この辺りで一度お開きだ。今日は仕事が入っているので相手をしてやれないが、セレンから話を聞いたり、人目に気をつけて時々力を発動して体を慣らしておけ。なにかあれば連絡しろ」

「はーい。そういえば、カイナはなんの仕事してるんだ?」


 ふと疑問に思い問いかけると、彼は竹刀を肩に担いでウインクを一つ。


「今したことと、似たようなことだ」



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