立花美子(17歳)の場合
「えーっ?それマジぃ?」
立花美子は、胡坐をかいてベッドに座り、いつものように携帯で友達と他愛のないお喋りに興じていた。
風呂上りで濡れた髪を頭からすっぽりと被ったバスタオルで時々軽く押さえるようにしながら背中を壁に預ける。カーテンの開いた窓からは月の仄かに明るい光が射し込んでいた。
「うわー、明日、教室で会ったら変な目で見ちゃいそうだ、私。だってさぁ――」
不意に走った下腹部のズキンとした重い痛みに、思わず美子の言葉が途切れる。
――何だろう? と不安になった美子はタオルドライをしていた方の手を下腹部に宛がった。痛みは一度きりですでに治まっていたので、美子は訝しむように小さく首を傾げる。
『あれ? 電波切れたかな? もしもーし、美子ぉ。聞こえてるー?』
携帯の向こうから、クラスメートの亜樹の大きな声が耳に飛び込んできたので、慌てて美子は会話に戻った。
「あー、ごめんごめん。何だか急にお腹が痛くなってさぁ」
『お腹? 何か悪いものでも食べたんじゃないー?』
亜樹の笑い声に、美子はしかめっ面しながらも声を合わせて笑う。
「亜樹みたいに食い意地張ってませーん」
『 も ぉ い い か い? 』
「え? 何?」
亜樹の笑い声に混じって聞こえてきた微かな声に、美子の顔から笑顔が消える。
『何って、――何が?』
美子の問いかけの意味が分からないと言ったように、亜樹が少し間の抜けたような口調で答えてきた。
――ズキン、と痛みが再び美子を襲う。下腹部から腰と、腹部の周囲に内側から響いてくるような痛みだった。
「なんか……ヤバいかも。おなか、痛い……」
『大丈夫? もしかしたら、盲腸とかかも?』
「盲腸ってお腹の右下辺りが傷むんだよね? なんか、お腹全部痛い感じだし……」
短い間隔で来るようになった痛みを和らげようと、美子は左手でしきりにお腹を擦り始める。
『 も ぉ い い か い? 』
再び、あの声が美子の耳に届いた。
『 も ぉ い い よ 』
美子のすぐ側で、その声に答える小さな声があった。美子は弾かれたように左右を見たが、部屋の中には自分以外誰もいる筈がない。美子は痛む下腹部を押さえたまま膝を立て、得体の知れない恐怖から身を隠すかのように身を縮めた。
「――!」
下腹部から何か暖かい物が流れるのを感じた美子は、小さく歯を鳴らしながらゆっくりと自分の爪先の方へと視線を移す。
美子が腰を下ろしている箇所から、見る見るうちにベッドの上を赤い色が占領していく。それが血の色だと悟った時、美子の口は恐怖で大きく開いていった。