年上のお姉さんは変態です
外は寒いはずなのに何だか暖かいような気がする。それは観覧車で、外からは中の様子がわからない透明なゴンドラで、僕とサヤカお姉ちゃんの仲が良くなったからだろう。もうちょっと続けたかったけど、ドアが開いたからやめた。
手を繋ぎながらゴンドラから降りて、二人だけの時間を楽しむために待っているカップル達の横を通りすぎて、僕達が次に向かう場所は何処なのだろう。
まだ帰るのには早い時間だ。だからまだ僕はサヤカお姉ちゃんとの時間を過ごすことができる。それはどんなに嬉しくて幸せなことだろう。頭の中に広がるものは甘いものばかりだ。
「遥介君ほっぺたが赤いよ」
「と、途中で終わっちゃいましたから」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ。でもそういうところ可愛いから好き」
「好きですか? 嬉しいです」
「さっきの遥介君の表情良かったなぁ。私のイタズラ心が動き出しそう」
ふふふと笑うサヤカお姉ちゃんは可愛くて綺麗でエロく見える。さっきのことを思い出してドキドキがよみがえってくる。こんなところでそれはいい、この思いは他の人に知られたくないから。
別に僕の考えていることが文字や言葉として外に飛び出していくってわけではない。もしそうなったら大変だ、サヤカお姉ちゃんのことが大好きという思いが皆にバレてしまう。そんなの恥ずかしい、それにこの関係がバレたらもう会えなくなるかもしれないから。
だからサヤカお姉ちゃんへのこの溢れている思いは僕の中で留めておいて、サヤカお姉ちゃんにだけ伝えないといけない。
もう告白したほうがいいのかな。この思いはそうしないと静かにならないから。言いたくて言いたくて、伝えたくて伝えたくて、そうすることによってスッキリしたくて。
もしサヤカお姉ちゃんが頷いてくれたらその瞬間から僕の彼女になるのかな、僕は年上のお姉さんの彼氏になるのかな、年の差なんて今は普通だ芸能人にいっぱいいるし。だからイケナイ事ではない。ただ僕が中学生ってだけだ。
あれ、じゃあそうなるとサヤカお姉ちゃんと呼べないのかな? 僕の彼女なんだから呼び捨てでもいいのかな、それともニックネームで呼んだりするのかな。ああわからない、わからないよう!
「また何か考えているね。エッチなことかな?」
「違いますよ! 今それはヤバイです、我慢できなくなりますから。だから違うことを考えてました」
「ホントかな、だって顔が赤いよ?」
「ホントですよ! 顔が赤いのは寒いからです」
「別にエッチなことでもいいんだよ? 誰にも迷惑かけてないし、罪を犯しているわけでもないから。むしろそれは普通のことだよ、何も恥ずかしいことではないよ」
「そんなの言わなくていいですよう。余計顔が赤くなりますから」
「ふふふ、からかうと遥介君は可愛い反応をしてくれるから良いね。もっとからいたくなるよ」
「な、何をするんですか?」
「知りたいの? でも教えてあげない」
「いじわるー!」
「その表情良いね、もっと見たいな」
「サヤカお姉ちゃん変態ですね。僕も人のことは言えないと思いますが」
「人は皆そういうものよ。色んな趣味や性癖があって、それに興奮したり快感を得たりする。どんな形かは人それぞれ、それが恥ずかしいかそうじゃないかも人それぞれ」
そっか皆変態なのか。僕だけじゃないんだ、サヤカお姉ちゃんも同じなんだ。サヤカお姉ちゃんだけじゃなくて、そこにいる人もあっちにいる人もみんなみんな。
でも皆それを隠している。サヤカお姉ちゃんだってまさかそうだとは思わなかったし。皆変態じゃないふりをしているってことなのかな? そうしないと白い目で見られてしまうから、後ろ指をさされるから。
それはどうして、みんなみんな変態のはずなのに。そうじゃない人もいるってことなのかな。それともバレることを恐れて興味がないですと仮面を被っているのかな。
確かに親しい人にそれがバレてしまうのは今後の人間関係に影響がありそうだ。昨日までは物凄く仲良しだったのに、バレたことによって仲が悪くなってそれどころか避けられてしまって話すことすらできなくなったら……。
だからみんな隠しているんだね。表側の自分を壊したくないから、バレないように秘密にして我慢して裏側で一気に発散するために。
そっか、そうだったんだ、みんなみんな大変なんだね。その気持ちは僕にもわかるよ、わかるからこそその隠し事を知りたくなってくる。僕にはこんな隠し事があるんだけど君にはどんな隠し事があるのって。
友達にも隠し事ってあるのかな。僕と同じように出会い系サイトを使って、年上のお姉さんと会っている人はいるのかな。もしいたらお話したいな、緊張したよねとか恥ずかしいよねとかバレないか心配になったとか。
ああ隠し事知りたいよう! それで引いたらどうしようとは思うけど、逆に引かれたらどうしようとは思うけど。気になって気になってしょうがないよう。
誰か教えてくれないかな。僕も言うからさ。もちろん秘密は厳守だよ、お互いのバレたくないことは誰にも言っちゃいけないよ。
「ねえ遥介君」
「なんですか、サヤカお姉ちゃん」
「もうわかってると思うけどね、気付いてるとは思うけどね」
「はい」
「私は変態なのよ。どれぐらいかは基準がわからないから言えないけど」
「僕も変態ですから同じですね!」
「遥介君がそんな変態な子だとは思わなかった。こんなこと親が知ったら泣くわね」
「そんなのどうでもいいです。僕は僕ですから、僕は親の物ではないですから。だからサヤカお姉ちゃんと出会えたんです」
「そうね、ゴメンねそんなこと言って。遥介君が可愛いからつい子ども扱いしてしまう」
「僕は子どもですからね。だからその扱いでいいですよ」
「でも他の子とは違うよね、変態だもんね」
「人は皆変態なんですよ」
「遥介君可愛いね。さっきからこればっかり言ってるよね私」
「嬉しいからもっと言ってください。優しく撫でられてるみたいでドキドキします」
「そんな事言ったら年下好きの私にはたまらないよ。遥介君みたいな年下が好きな変態にはさ」
「そういうの何て言うんでしたっけ。ロリコンじゃなくって……」
するとサヤカお姉ちゃんは僕の口に手をそっと優しく当ててきた。言わなくてもいいよってことだ、もうわかったでしょ私の変態は、それでも君は手を繋いで一緒に歩いていくのかなって。
僕はえへへと幸せそうに笑うことにした。これで良いんですよお互いの趣味と性癖に合っていますし、嬉しいし幸せだしドキドキするし満足です、あとは色々あんなことやこんなことをしてもらうだけです。
気づけば僕とサヤカお姉ちゃんは公園にいて、木がいっぱい生えているところにいて、それが二人を隠してくれていた。
サヤカお姉ちゃんはうっとりした表情で僕を見てくる。僕は木にもたれている。
えっ何をするの! ここなら誰にも見つかりそうにないけど、百パーセント見つからないとは言い切れないよ。まさかこんなところで? そんなの恥ずかしいよ。
頭の中に次々出てくる放送コードに余裕で引っ掛かるものたち。それは頭の中で縦横斜めに飛び交っている。こんなことを考えているなんて変態すぎる、このシチュエーションがそうさせているんだけどさ。
ほら、サヤカお姉ちゃんが目を閉じたよ。何をするの、さっきの続きをするの、何をされても僕は嬉しいけどさ。
こういう時って僕も目を閉じたほうがいいよね。だから目を閉じよう、そしてサヤカお姉ちゃんになすがまま、僕は全てを受け入れるしそれらを望む。
暗い世界の中でほっぺたを触られる感覚があった。優しく撫でられる、何かを確かめるようにゆっくりと。それは僕を愛してくれているから、僕の全部を愛してくれるということなのかな。