年上のお姉さんは魅力的です
「ねえ大丈夫? 遥介君どうしたの?」
落ちたはずのサヤカさんが僕を抱き締めている。ナニコレ、いったいどういうことなの? ここは天国で、二人はそこで再会をしたのかな。それともこれは夢なのかな。
僕は混乱していた。何が起こったのかわからずに、サヤカさんの良いにおいを嗅ぐことしかできない。こんな状況でも僕の欲は止められないのだろうか。
サヤカさんの柔いものが僕に当たっている。だからドキドキしてくる、顔も赤くなっているだろう。抱き締めるって気持ちがいい、相手に包まれているから愛されていると実感できる。
「私がいるから怖くないよ。だからね、ゆっくり息を吸ってはいて落ち着こう」
その声に導かれて僕は素直に言うことをきく。ビルや空や蟻のように小さい人達を見ながらゆっくり息を吸う。するとお腹が膨れて空気が入る。
サヤカさんに優しく頭を撫でられながら、今度はゆっくりと息をはいた。すると膨れていたお腹は元に戻った。
それをゆっくりと繰り返す。僕が落ち着くまで繰り返す。サヤカさんの声が僕を落ち着かせる。
僕は落ち着きを取り戻した。そして何故あんなに慌てていたのかわかった。この観覧車は座席以外全部ガラス張りだから、それで落ちると思って慌てたんだ。
僕はなんて情けない、恥ずかしいことをしてしまったんだ。他のゴンドラでは愛を確かめているのだろうがそれは確認できない。このガラスは中から外は見えるけど、外から中は見ることができないから。
気づけば観覧車はもうすぐ天辺だ。せっかくの二人の時間を台無しにしてしまった、僕はそのことを申し訳なく思って目の辺りが熱くなった。
サヤカさんごめんなさい、僕のせいでごめんなさい。慌ててなかったら今頃サヤカさんは僕を愛してくれたのかな、それなのに僕が慌てたせいでそれが消え去った。
取り返しのつかないような事を僕はしてしまった。このことを後悔するだろう、僕はずっと後悔するだろう。あの時慌ててなかったらサヤカさんに愛されていたのにと。
「遥介君泣いているの?」
「ごめんなさい僕のせいで」
「それは別に気にしていないよ。だから楽しもうよ、もう天辺にくるからさ」
「でも……」
「でもじゃない、私の言うことは何でも聞くんでしょ? じゃあ従いなさい」
「はい」
ふふと笑ってサヤカさんは僕の胸のあたりをそっと触った。そこはドキドキとしているところだ、サヤカさんに触られると余計にドキドキしちゃう。恥ずかしいから、嬉しいから。
誰かに体を触られるのはくすぐったい。あまりそういうことに慣れていないからかもしれないけど。もっと触ってほしい、そこだけじゃなくて他のところも。
サヤカさんの空いている手が僕のほっぺたを触った。くすぐったいけど嬉しいし幸せな感じがする。僕もサヤカさんのほっぺた触りたいな、サヤカさんばっかりズルイな。
「何であんなに怖がっていたの? 高いところが苦手なんだよね」
「違います。床が透明で、地面が見えていたから落ちると思ったんです」
「それで怖がっていたの?」
「はい……」
「そっかぞゃあ私のせいなんだね。私が緊張させたのが原因だから」
「それは違いますよ! サヤカさんは何も悪くないです! 僕が勝手に慌てていただけです」
「私に謝らせてよ。ここで癒してあげるから」
そう言うとサヤカさんは、僕の顔を胸に埋めた。顔全体に感じる柔らかい感触は、良いにおいもしてとても幸せ。そして気持ちがいい。ここっこんなに良いものだったのか!
ごめんねとサヤカさんは言った。もうそんなことどうでもいいようなぐらい僕は幸せで、こうやってずっと胸に埋めていたい気持ちが高ぶっている。
世の中の彼氏達は皆いつもこんな良い思いをしているの? なんだその羨ましいこと、そんな贅沢して許されると思っているのか。一瞬怒りがこみ上げてきたけど、僕もその良い思いをしている真っ最中で贅沢をしているから何も言えない。
サヤカさんは僕の頭や耳やほっぺたを優しく触る。サヤカさんの手で触れると、僕は嬉しくて気持ちがよくて笑顔になる。優しく触ってくれるのは僕を大切にしたいからだと思うから。
胸に埋まれながら僕もサヤカさんを触っていく。その時、甘えん坊ねという声が聞こえてきたから、サヤカさん大好きですと言った。
外を見たらちょうど天辺になっていた。観覧車での二人の時間はまだ半分ある、透明だけど外からは中の様子がわからないこの空間はドキドキする。誰かに見られていそうなこの感覚がドキドキする。
サヤカさんの手が僕の胸のあたりを触る。さっきもそこを触られたけど、そこを触れるとくすぐったくて笑いたくなる。けどそれが気持ちがいい、癖になりそうというか。もっとやってほしいな。
手は胸から動いていく。ゆっくりと下がっていくのが服の上からでもわかる。お腹の上で止まると、そこでぐるぐる円を描いている。お腹が痛いときに優しく撫でているのと同じ動きだけど、サヤカさんにそれをされると違った意味に思えてくる。
「どうかな? 私の胸は」
「柔らかくて気持ちがいいです」
「ふふふ、今の遥介君お母さんに甘える赤ちゃんみたい」
「サヤカお姉ちゃんに甘えています」
「あっそれいいね、ちょっとドキドキするかも」
「もっと言いますよ!」
「じゃあこれからそう呼んでくれるかな。そっちのほ近付いた気がするし」
「はい」
サヤカお姉ちゃん、サヤカお姉ちゃん、サヤカお姉ちゃん。僕は心の中で復唱する。本当の姉と弟じゃないのにお姉ちゃんって言うのはなんか楽しい。それになんかエロい。
「天辺だね、遥介君はキスとか告白とかしないのかな? それが定番なんだけどな」
「で、できませんよまだ……」
「まだ?」
「もっとサヤカお姉ちゃんと仲良くなって、愛されて、僕からも愛をあげて。そういうことをしてからがいいです」
「遥介君はホントに私のことが好きなのね」
僕は顔が高くなっているだろう。だからそれを隠したくて胸に埋める。
「ふふふ、遥介君可愛い。こんなに可愛い弟ができて私は幸せものね」
「僕もです! 僕も……こんなに可愛くて綺麗で魅力的で、おっぱいが柔らかいサヤカお姉ちゃんに出会えて幸せものです!」
「ありがとう。私も遥介君のこともっと色々知りたいな、色んな表情も見てみたいな」
「幸せに包まれている顔なら今してますよ」
「その顔見たいけど胸から離れないね」
「男の子は皆ここが好きなんですよ!」
「他に好きなところはないの? 女性には魅力的なところが沢山あるよ。例えばこことか――――」
サヤカお姉ちゃんは僕の手を掴んで、そして何処かへ連れていった。僕のドキドキはまた高まった。もうおかしくなってしまいそうだ、欲望が溢れてしまいそうだ、どうしようどうすればいい。
それを解決するにはもうアレしかない。でも今日会ったばかりでそんなこと……心の準備はしていたけれど、頭の中で呆れるぐらい思い描いていたけれど、いざ手の届くところにあると怖くなってくる。
実行してもいいのかなという罪悪感と、頭の中に思い描いている欲望を現実にしたいから出会い系を使ってみたんだろという心の声と。またあの二人が登場する感じがする。
「二人だけの時間はとても楽しいよね」
「はい。もっとこの時間が続いてほしいです!」
「でも終わりはもうすぐみたいよ。ほら地面がもうこんなに近い」
下を見たらあんなに遠かった地面は近くなっていた。つまりそれはこの時間が終わると言うことを意味している。
このドキドキする空間は興奮した、それがとても良かった。サヤカお姉ちゃんが落ちてしまうと慌ててなかったらもっと楽しめたと思うと悔しい。
サヤカお姉ちゃんの手は僕の手をそこに残して何処かに行った。何処へ向かうのかと思っていたら、僕のほうへとやって来て優しく撫でる。頭の中に思い描いているものがわかったのかな、だからそれを満たそうとしてくれているのかな。
この時間はもうすぐ終わってしまうけど、ここじゃない別の場所でもまた幸せはやってくるよね? そこでは時間なんて気にせずに、二人が満足するまで思う存分愛し合えるよね。
そう思うと早くここを飛び出して走りたい。僕の欲望が次々と溢れてくる、枯れることはないのかと思うぐらい勢いよく。
外を見たらスタッフの姿が見えた。観覧車に乗るために待っているカップル達も見えた。サヤカさんは優しく撫でる、僕も優しく撫でる。ギリギリまでいいよね。