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年上のお姉さんと観覧車に乗ります

 観覧車へとやって来た僕とサヤカさん。

 手を繋いでいることに少し慣れてきたような気がしたけど、二人だけの空間に乗り込もうとしているカップル達が沢山並んでいてそのラブラブ具合に圧倒されそうで慣れさせてくれない。どっからこんなに沸いたんだろう。

 皆お互いの顔を見て楽しそうだったり、もう我慢できないのか既に何かが始まりそうな雰囲気だったり、順番が来るまでスマホのゲームで時間を潰していたり、ごめんごめんと頭を下げ続けている男とそっぽを向いている女がいたりする。


「結構並んでいるね、待ち時間長そうだなぁ」


「皆他に行くところないんですかね?」


「そうだと思うよ。だから私達もここに来たのかな」


「そうなんですか?」


「さあね、でもまぁ二人だけになれるし良いんじゃないの」


 二十分だけの二人だけの時間、その制限時間が二人を熱くさせるのだろうか。限られた時間の中で繰り広げられるのは何なんだ? 妄想したいけど靄がかかってよく見えない。

 きっとまた僕の顔は赤くなっているはず。変なことを妄想していたことがわかってしまう、そしてからかわれてしまう、子供扱いされてしまう。子供なんだからそんな扱いでも仕方ないことだとは思いたくはない。

 ちゃんと僕を見てほしい。一人の男として見てほしい。こんなこと言うのはまだ早いと思うけど、僕はそれぐらい本気なんだ。


「遥介君の顔がまた赤くなってる。変なことを考えていたのかな」


「ち、違いますよ! ぼぼ僕は何も考えてなんかいません!」


「わかりやすいねー、でもそういうところ可愛いから好きだよ」


 サヤカさんが好きと言った。僕のことを好きと言った。好き、好き、好き、好き、その言葉が頭のなかに響いている。

 今日初めて会って、僕のことをちゃんと見てくれて、そんで好きになったのかな? 好きになってくれたのかな!


「ねえ遥介君、観覧車の中で何をしたい?」


「えっ――――」


「そんなあたふたしなくて良いよ。落ち着いたらいいよ」


「落ち着けませんよそんなこと言われたら」


「ふふふ、妄想すればいいよそして顔を赤くすればいいよ」


「意地悪しないでくださいよ! 僕はサヤカさんみたいに余裕がないんですから」


「そこをからかうのが楽しいんじゃないの。可愛い子をいじめるのは、気持ちが良いからやめられない」


 サヤカさんのほっぺたが少し赤くなっているような気がした。僕をからかって、いじめて、それで興奮しているのかな。だから気持ちがいいのかな。

 ひょっとしてサヤカさんって変態? だから僕をからかうのかな、いじめるのかな。僕の反応が可愛いと言った、僕の表情が可愛いと言った。それはサヤカさんの変態心に火をつけているのかな。

 何だか余計に魅力的に見えてきた。エロさがレベルアップしたというか、胸とかお尻とかに目がいってしまう。動作や言葉もどこか色っぽく感じて何でもないことをしてもエロく思えてきそう。


 僕は年上のお姉さんが好きだけど、サヤカさんは年下の男が好き。僕とサヤカさんの性癖はどこか似ている。だからこそサヤカさんとの交流を始めた、こうして出会うことになった。

 僕とサヤカさんは似た者同士! 大好きなサヤカさんと同じって素敵なことだ。大好きな人と同じものを共有しているみたいで嬉しくなる。

 心の中ではまだ落ち着ける。でも口に出すと落ち着けない。それを早くどうにかしたい。


「そういえばさ、さっき遥介君は何でもするって言ってなかったっけ」


「言ってましたか? 緊張のせいで忘れたのかもしれません」


「私のペットになるとか、私の玩具になるとか、そんなことも言ってなかったっけ」


「それは言ってません! 突然何言うんですか、こんの大勢の人がいる前でやめてくださいよう」


「良いじゃん別に何を言っても。回りの人達は皆自分達しか見えていないから、二人の世界を楽しんでいるから、だから何を言っても聞こえないよ」


 僕はサヤカさんのその言葉を信じてはいるけど確かめたくて回りを見た。するとサヤカさんが言った通り、二人の世界を楽しんでいるカップルばかりだ。

 ナンダコレ、思わず口をぽかんと開けてしまいそうになる。二人の世界に入るのはいいけど、人前だということを忘れるのは駄目だと思う。ルールってやつはあるんだよ、それを破らないようにしないといけないんだよ。


「ね、皆回りなんて気にしていないでしょ。だから今から遥介君に襲いかかっても誰も気にしないのよ」


「えっ、襲う!」


「それは冗談だから、本気にしないでね。誰かに見られるのは恥ずかしいから。でも観覧車の中でなら恥ずかしくないよ」


「えっ」


 僕はサヤカさんに襲われるの? それはそれでいいような……。


「さあ乗るよ、二人だけの空間だよ」


 サヤカさんは二人分のチケットをスタッフの人に見せた。するとスタッフの人は僕のほうを見てきて、可愛い弟さんですねと言った。サヤカさんは僕の手を引っ張って歩く。

 可愛い弟じゃなくて可愛い遥介君だよ、そう僕にしか聞こえないような声で呟いて二人だけの空間のゴンドラに乗り込んだ。

 二人が乗ったらすぐにドアが閉められた。そして二十分間の僕とサヤカさんだけの時間が始まった。


 座って何気なく下を見てわかったんだけど、下には地面が見えている。あれ床がない。僕は怖くなって思わず足を上げた。情けない声も出した。

 慌てながらサヤカさんを見ると僕を見て笑っていた。何がそんなにおかしいの! 底がないんだよ、落ちるんだよ、何で笑っていられるの。

 僕は座席の上に足を上げて座った。行儀が悪いけどそんなこと言ってられない、落ちてるよりはマシだ。


「遥介君何してるの? 高い所が怖いの?」


「サヤカさん何言ってるんですか! 床がないんですよ、落ちますよ!」


「ちょっと落ち着きなよ。二人だけになって緊張してるのはわかるけどさ」


「そういうことじゃないんです! 地面がどんどん遠くなっているんです!」


「観覧車ってそういう乗り物だからね」


「何でそんなに落ち着いてられるんですか! 僕はまだ死にたくないです。もっとサヤカさんとお話したいです、会いたいです、からかわれたいです!」


「遥介君やっぱり高いところが怖いのね。ごめんねこんな所に連れてきて」


 サヤカさんはそう言うと座席から腰を上げた。僕はその時、サヤカさんが地面に向かって落ちていくと思った。だから悲しくて寂しくて、今日のこの出会いが始まりとなって、この関係はずっと続いていくと願っていた。

 出会ったその日にさようならは嫌だ。まだサヤカさんのことを全部知れてない、僕のことを全部知ってもらってない。それなのにどうして……。

 サヤカさん、僕はこれからどうすればいいんですか? あなたがいないと僕は毎日がつまらなくなります。心を奪われたまま捨てられたようで辛いです。


 僕はゆっくりと下を見た。地面は遠くて、人が蟻のように小さく見えている。

 サヤカさんはどこ? 僕はまっ逆さまに落ちていったサヤカさんを捜す。

 サヤカさん、サヤカさんらサヤカさん、サヤカさん。頭の中はサヤカさんでいっぱいになっていた。もうサヤカさん無しでは僕を保てなくなっている。


 僕はこんなにもサヤカさんのことが好きだったんだ。今それに気づいたような気がした。

 年上のお姉さんだから好きだった、ネットでの交流で文字だけの交流なのにわかった。サヤカさんが優しくて可愛くて綺麗であることに。実際に会ってみると想像以上に優しくて可愛くて綺麗でドキドキした。

 でもサヤカさんはいない。落ちていってしまった。捜してるけど見つからない。僕はサヤカさんと一緒にいたい、だから僕もサヤカさんの後を追います。


 何処までも一緒にいます。ずっと一緒にいます。大好きですサヤカさん。

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