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年上のお姉さんとお買い物です

 サヤカさんと手を繋ぎながらやって来たのはファッションビルだった。

 誰もが聞いたことがあるような有名なブランドや、誰がこんな高いものを買うんだというようなブランドや、ワニとか馬とか虎とか動物の商標でお馴染みのブランドや、最近芸能人がよく着ているブランドや日本人デザイナーによる世界的に有名なブランドまで色んな店がある。

 こんな所に来るのはもちろん初めてで、今着ている服は安物ばかりだから僕がここにいるのは物凄く場違いのような気がする。

 何故ここに連れてこられたのだろう? サヤカさんの買い物に付き合うのかな。それはそれで嬉しいけど。


 建物の中は外と違ってあたたかくて、ここじゃ分厚いアウターを着ていると暑いと思えてくるかもしれない。季節的にまだそんなに分厚いものを着るって感じじゃないから、暑そうにしている人はいないだろう。

 手を繋がれたままエスカレーターに乗った。縦じゃなくて横に乗ったから、後ろから誰か歩いてきたら邪魔になりそうだ。

 しかしサヤカさんはそんなことは気にしていないようで、僕の方をニコニコしながら見てくる。サヤカさんが楽しいなら僕も楽しい、だから僕も気にしないでおこう。

 二階、三階、四階と過ぎていく。いったい何処に行くのだろう、目的地がわからないまま何処かへ行くのは少し不安になる。できれば何処に行くのか教えてほしいけど、まだ緊張が解けていないのか聞けない。


 ただこうやって手を繋いでいると何だか落ち着く。相手の体温が伝わってくるからなのかな。よくわからないけど、緊張はしているけど落ち着く。

 それ矛盾してないかと自分自身でも思う。どうやって説明すればいいのかわからないのがもどかしい。誰かこの気持ちわかってくれるかな。サヤカさんはわかってくれるかな。


「着いたよ、さあ何にしようかな」


 サヤカさんはある階で下りて、僕の手を繋ぎながら歩きだした。

 すぐ目についたお店を見ると、男のマネキンがお洒落な服を着ていた。入り口近くにはNEW ARRIVALと書かれたポップが、かっこいいジャケットを目立たせている。

 サヤカさんは僕と一緒に店に入った。すると店員さんはいらっしゃいませと言ってきた。飲食店みたいな騒がしい感じじゃなく、落ち着いた感じだった。


 僕の目にはお洒落な服や鞄や靴が飛び込んできた。どれも高そうで、お洒落な感じで、僕のお小遣いでは足りなさそうに思えた。

 ファストファッションのお店も色々あるし、それはダサくなくてお洒落にできているから、わざわざ高いものを買う必要もなさそうだ。しかし高いものをわざわざ買う人もいる。

 それは高いものを着たり、持ったり肩にかけたり、履いたり付けたりすると見栄を張れるからだろう。この服かっこいいだろ、この鞄丈夫でお洒落なんだぜ、この靴は値が張ったけど気に入ったからいいんだ。ドヤドヤドヤ、ただ自慢したいだけの顔を思い浮かぶ。


 見栄を張るのが悪いことだとは思わない。高いものを身に付けるために努力したと思うから。ハイブランドのものなんかは桁が違う、だからそんなものはなかなか買えない。

 それを普通に買うことができる人はお金持ちってこと。お金持ちになるのは簡単なことじゃない、誰もがなれるわけではない。

 ハイブランドじゃなくても、僕の安いような服ではなくこういうファッションビルにあるお店で買い物できるのはかっこいいと思う。お洒落を楽しむのは大人の贅沢な遊びなのかな。


「ねえ、これなんてどうかな? 似合うと思うんだけどな」


 サヤカさんはそう言いながら、ハンガーにかかってあるカーディガンを僕へと合わせる。

 青色のカーディガンは上品な感じがして大人の落ち着いた雰囲気がある。僕が着ても似合わないんじゃないかな、服がお洒落すぎて手におえないというか。

 ……ん? ていうかサヤカさんは何でこのお店に入ったんだ、何で僕に服を合わせているんだ。


「あの、サヤカさんは何をしてるんですか?」


「何って見てわからないのかな、服を選んでいるのよ。ここのお店はお洒落でかっこいいからさ、似合うかなって」


「どういうことですか?」


「遥介君察しが悪いぞー。ここまで来たら何となくわかるでしょ。それともまだ緊張してるからそれで鈍っているのかな?」


 つまりどういうことなのかサッパリわからない。だから僕は小首を傾げて、頭の上にクエスチョンマークを出すことにした。

 するとサヤカさんはふふと笑った。

 僕の反応を見てまた楽しんでいる。そんなに楽しませるようなことはしていないんだけど。でもサヤカさんが楽しいなら僕は自然としてるのかな。


「可愛いね遥介君は。これだから年下は良いんだよね、私に安らぎと興奮を与えてくれるから」


「安らぎと興奮?」


 その言葉が気になったから思わず口に出してしまったけど、それはサヤカさんには聞こえていないようだった。

 これどうかな、私はこれ好きだけど似合うかは別よね、あっこれ可愛いじゃん。洋楽の音楽がかかっている店内に一人言が消えていく。


 他にお客さんはいるけど皆自分の買い物にしか興味がない。だからサヤカさんの一人言に気付かない、場違いな僕がここにいても気にしない。

 それは何だか寂しい気がした。こういう所に来るのが初めてだからそう思うのかもしれないけど。ワイワイガヤガヤと活気がある飲食店と違って、落ち着きすぎているから違和感になっているのかな。

 飲食店とファッションビルじゃそもそも目的が違うから、比べるのはちょっと間違っているか。


「遥介君はどれが良いとかないの? 中学生ならファッションにも多少は興味出てくるでしょ」


「興味はありますが普段着ている服と比べて高いしお洒落だし……何か悪いような気がします」


「遠慮しなくてもいいのよ、お言葉に甘えておけばいいの。遥介君がいい子だってことはわかったからさ」


「んー……でも悪いです」


「別に後で倍のお金を請求するとかしないよ、私はそんなにコワイ人に見える?」


 サヤカさんは可愛くて綺麗で優しい年下のお姉さんだ。コワイとは思わないし思えない。


「いや、そうではないです。サヤカさんは優しいお姉さんです」


「でしょ? それなら素直になればいいのよ。お姉さんの言うことを聞きなさい」


 サヤカさんはカーディガンとTシャツ、ベルトやマフラーを持ってレジへと歩いていった。

 僕はその様子をふわふわしながら見ていた。何だか心と体が熱いというか、自分のものじゃないというか、操られているんじゃないだろうかと思えてきた。

 視界にうつるのはサヤカさんだけ。ここには色んな服や鞄や靴やベルト、ファッションに関するものが沢山あるはずなのにそれらは全て消えてしまっている。


 サヤカさんは僕のために買ってくれた物をレジに置いた。そして笑顔で何か喋っている。何だか楽しそうだ、いったい何を喋っているのだろう。気になるけど僕の耳には入ってこない。

 僕はサヤカさんに買ってもらった物を着たり使ったりする。誰かに何かを買ってもらうなんて親いがいでは初めてだ。嬉しい、とても嬉しい。

 今度何か僕もプレゼントしなくちゃ。そうしないとサヤカさんは僕ともう会ってくれないかもしれないから。それにプレゼントはまた次に会う時のきっかけとなるから。

 この出会いは今日で終わらしたくない、また次に繋げていきたいから。サヤカさん、年上のお姉さん、大好きです。

 そう思うのはまだ早いのかな。まだ会って一時間もたっていないのに。


 サヤカさんが財布からカードを出してお支払を済ませた。そしてショップ袋を持ってこっちへと歩いてくる。

 僕は自然と手を前に出した。するとサヤカさんはふふと笑いながら手を繋いでくれた。

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